2017-12-26

Haskellのエラーメッセージについて

Haskellの実装であるGHCのエラーメッセージがわかりにくい。

例えば以下のコードがあるとしよう。

f p as@(x:xs) =
    if p x 
    then f p xs
    else as

main = return ()

この関数fはdropWhileと名付けてもいい関数だ。この関数の型は( t -> Bool ) -> [t] -> [t]だ。

ところで、この関数をうっかり書き間違えてしまい、then f p xsとすべきところを、第一引数のpredicateを渡し忘れ、then f xsとしてしまった場合を考えよう。

f p as@(x:xs) =
    if p x
    then f xs
    else as

main = return ()

このコードをGHC 8.0.2でコンパイルすると以下のようなエラーメッセージが表示される。


[1 of 1] Compiling Main             ( prog.hs, prog.o )

prog.hs:1:1: error:
    • Couldn't match type ‘t -> Bool’ with ‘[t]’
      Expected type: [t] -> [t]
        Actual type: (t -> Bool) -> [t] -> [t]
    • Relevant bindings include f :: [t] -> [t] (bound at prog.hs:2:1)

このエラーから読み取れる情報は、(t -> Bool)型は[t]型にマッチできないということだ。f p xsとすべきところをf xsとしてしまったのだから当然の話だ。pは(t -> Bool)でxsは[t]だ。

だが、このエラーメッセージからはどこの箇所が悪かったのか全然わからない。

しかし、このコードをGHC 7.10.3でコンパイルすると、以下のようなとてもわかり易いエラーメッセージが表示される。

prog.hs:3:10:
    Couldn't match expected type ‘[t]’ with actual type ‘[t] -> [t]’
    Relevant bindings include
      xs :: [t] (bound at prog.hs:1:11)
      x :: t (bound at prog.hs:1:9)
      as :: [t] (bound at prog.hs:1:5)
      p :: t -> Bool (bound at prog.hs:1:3)
      f :: (t -> Bool) -> [t] -> [t] (bound at prog.hs:1:1)
    Probable cause: ‘f’ is applied to too few arguments
    In the expression: f xs
    In the expression: if p x then f xs else as

prog.hs:3:12:
    Couldn't match expected type ‘t -> Bool’ with actual type ‘[t]’
    Relevant bindings include
      xs :: [t] (bound at prog.hs:1:11)
      x :: t (bound at prog.hs:1:9)
      as :: [t] (bound at prog.hs:1:5)
      p :: t -> Bool (bound at prog.hs:1:3)
      f :: (t -> Bool) -> [t] -> [t] (bound at prog.hs:1:1)
    In the first argument of ‘f’, namely ‘xs’
    In the expression: f xs

問題は3行目の10文字目と12文字目にあることがわかり、関連するbindingが一覧表示され、問題のある式とその式を含む式まで表示してくれる。これならわかりやすい。バージョンアップしてわかりにくくなるとはどういうことだ。

GHC 8.2.1ではエラーメッセージが改良されたそうだ。果たして直っているだろうか。

https://wandbox.org/permlink/leQ7uQaoN1eqBPLS

prog.hs:1:1: error:
    • Couldn't match type ‘t -> Bool’ with ‘[t]’
      Expected type: [t] -> [t]
        Actual type: (t -> Bool) -> [t] -> [t]
    • Relevant bindings include f :: [t] -> [t] (bound at prog.hs:1:1)
  |
1 | f p as@(x:xs) =
  | ^^^^^^^^^^^^^^^...

なるほど、Clangのプリティなエラーメッセージを真似ようという意思は感じられる。しかしその箇所は関数を宣言している箇所だ。関数の引数が間違っている箇所を指定してくれなければ意味がない。なぜGHC 7でできていたことがGHC 8でできなくなっているのだ。

Wandboxで最新のHEADも試したが、この問題はまだ解決していなかった。

さて、fの型を明示的に書くとエラーメッセージが変わるらしい。早速試してみよう。

f :: (t -> Bool) -> [t] -> [t]
f p as@(x:xs) =
    if p x
    then f xs
    else as

main = return ()

これをGHC 8.0.2でコンパイルすると以下のようなメッセージが表示される。

https://wandbox.org/permlink/307bjIWpMGZ3jJhO

prog.hs:4:10: error:
    • Couldn't match expected type ‘[t]’
                  with actual type ‘[t0] -> [t0]’
    • Probable cause: ‘f’ is applied to too few arguments
      In the expression: f xs
      In the expression: if p x then f xs else as
      In an equation for ‘f’: f p as@(x : xs) = if p x then f xs else as
    • Relevant bindings include
        xs :: [t] (bound at prog.hs:2:11)
        x :: t (bound at prog.hs:2:9)
        as :: [t] (bound at prog.hs:2:5)
        p :: t -> Bool (bound at prog.hs:2:3)
        f :: (t -> Bool) -> [t] -> [t] (bound at prog.hs:2:1)

prog.hs:4:12: error:
    • Couldn't match expected type ‘t0 -> Bool’ with actual type ‘[t]’
    • In the first argument of ‘f’, namely ‘xs’
      In the expression: f xs
      In the expression: if p x then f xs else as
    • Relevant bindings include
        xs :: [t] (bound at prog.hs:2:11)
        x :: t (bound at prog.hs:2:9)
        as :: [t] (bound at prog.hs:2:5)
        p :: t -> Bool (bound at prog.hs:2:3)
        f :: (t -> Bool) -> [t] -> [t] (bound at prog.hs:2:1)

ようやくGHC 7に戻ってきた。GHCはfの型を正しく推定できているのに、なぜ型tを明示的に書かなければ親切なエラーメッセージを出してくれないのだ。不親切にもほどがある。

さて、ではエラーメッセージが親切になったというGHC 8.2.1ではどうか。

https://wandbox.org/permlink/8j00LitIvUUuzDTM

prog.hs:4:10: error:
    • Couldn't match expected type ‘[t]’
                  with actual type ‘[t0] -> [t0]’
    • Probable cause: ‘f’ is applied to too few arguments
      In the expression: f xs
      In the expression: if p x then f xs else as
      In an equation for ‘f’: f p as@(x : xs) = if p x then f xs else as
    • Relevant bindings include
        xs :: [t] (bound at prog.hs:2:11)
        x :: t (bound at prog.hs:2:9)
        as :: [t] (bound at prog.hs:2:5)
        p :: t -> Bool (bound at prog.hs:2:3)
        f :: (t -> Bool) -> [t] -> [t] (bound at prog.hs:2:1)
  |
4 |     then f xs
  |          ^^^^

prog.hs:4:12: error:
    • Couldn't match expected type ‘t0 -> Bool’ with actual type ‘[t]’
    • In the first argument of ‘f’, namely ‘xs’
      In the expression: f xs
      In the expression: if p x then f xs else as
    • Relevant bindings include
        xs :: [t] (bound at prog.hs:2:11)
        x :: t (bound at prog.hs:2:9)
        as :: [t] (bound at prog.hs:2:5)
        p :: t -> Bool (bound at prog.hs:2:3)
        f :: (t -> Bool) -> [t] -> [t] (bound at prog.hs:2:1)
  |
4 |     then f xs
  |            ^^

なるほど、わかりやすくなっている。できればこれを型を明示せずともやってもらいたいものだ。

この記事はめるぽんさんの運営するWandboxという大変便利な本物のWebサイトを活用して書いた。今年もめるぽんさんに野菜をスポンサーしにいかなければならない。

Haskellでwordsを実装してみた

Haskellを学び始めたが、いまだにまともなコードを書くことができないでいる。理由は簡単で、まだ標準入出力が扱えないからだ。

標準入出力はUNIXでは極めて根本的な機能だ。標準入出力が扱えるようになればだいたいの処理はできると考えてよい。というのも、UNIXではパイプによって標準入出力の入力元と出力先を変えることができるからだ。パイプを使えば、ファイル操作やネットワーク操作をコードで表現する方法を知らなかったとしても、操作ができるようになる。

ところが、Haskellでは標準入出力を扱えるようになるまでが遠い。別に書けないわけではない。今でもHaskellでHello,Worldぐらい書けるし、特定の処理がしたいのであれば似たような入出力処理をするコードをどこからか探してきて改変することで目的のコードを作り出すことはできる。そういう意味では、現時点でもHaskellである程度のコードは書けるだろう。しかし、それでは言語を真に理解したことにはならない。言語の仕様を理解し、他人の書いたコードの改変ではなく、自分でコードを無から書けてこそ、自由自在のプログラミングが可能になる。

しかし、関数型言語であるHaskellでは入出力などという副作用を伴う処理には特別な配慮が必要らしく、いまだに標準入出力にたどり着いていない。

しかし、今までに学んだHaskellの知識を使って自力で何かを実装してみたいので、今回はwordsを実装することにした。

wordsは文字列を空白文字を区切り文字として分割した文字列のリストを返す。

> words "aaa bbb ccc"
["aaa","bbb","ccc"]

処理自体は簡単なはずなのだが、これをHaskellの流儀でやるのは割とだるい。アルゴリズム自体はすぐに思い浮かんだのだが、実際にコードを書くと、様々な問題に悩まされた。

takeWord s = takeWhile (not . isSpace) $ dropWhitespace s
dropWhitespace s = dropWhile isSpace s

words' [] = []
words' s =
    let
        word = takeWord s
        rest = drop (length word) $ dropWhitespace s
    in
        word:(words' rest) 

アルゴリズムとしては、文字列の先頭から連続する空白文字をdropし、空白文字が現れるまでtakeし、今回の処理した文字列分dropし、再帰する。

これで使った関数も実装してみた。

takeWhile' _ [] = []
takeWhile' f (x:xs) =
    if f x
    then x: takeWhile' f xs
    else []

dropWhile' _ [] = []
dropWhile' f p@(x:xs) =
    if f x
    then dropWhile' f xs
    else p

drop' _ [] = []
drop' n x | n <= 0 =  x
drop' n (_:xs) = drop' (n-1) xs

length' [] = 0
length' (x:xs) = 1 + length' xs

not' True = False
not' False = True

ちなみに、模範解答はghc/libraries/base/data/OldList.hsにある。

words s                 =  case dropWhile {-partain:Char.-}isSpace s of
                                "" -> []
                                s' -> w : words s''
                                      where (w, s'') =
                                             break {-partain:Char.-}isSpace s'

なるほどbreakは面白い仕組みだ。文字列の切り出しと文字列の先頭のdropを同時にやれるのでコードがきれいになる。早速実装してみよう。

break' _ [] = ( [],[] )
break' f p@(x:xs) =
    if f x
    then ( [], p )
    else let ( a, b ) = break' f xs
         in ( x:a, b )

模範解答。

break                   :: (a -> Bool) -> [a] -> ([a],[a])
#if defined(USE_REPORT_PRELUDE)
break p                 =  span (not . p)
#else
-- HBC version (stolen)
break _ xs@[]           =  (xs, xs)
break p xs@(x:xs')
           | p x        =  ([],xs)
           | otherwise  =  let (ys,zs) = break p xs' in (x:ys,zs)
#endif

USE_REPORT_PRELUDEは、Haskellの仕様書であるHaskell Reportの定義どおりの実装だ。Haskell Reportの定義は効率ではなく正しさだけを目的としている。通常はUSE_REPORT_PRELUDEではない方が使われる。

ところで、"break _ xs@[] = (xs,xs)"は、"break _ [] = ([],[])"と書くのと変わりがないと思うのだが、何か違いがあるのだろうか。

さて、ここまで何の問題もなく実装できているように見えるが、実際は些細な間違いで何時間も悩んでいる。

最初に書いたwords'は以下のような間違った結果を返した。

> words' "aaa bbb  ccc"
["aaa", "bbb", "b", "ccc", "cc"]

これはなぜかと言うと、処理した文字列を切り取る処理が以下のようになっていて、空白文字分を考慮していなかったからだ。

rest = drop (length word) s

しかし問題の原因を特定するのには苦労した。標準入出力が使えないので、最も原始的なprintfデバッグすらまだ使えないためだ。traceというものはあるが、問題はtraceの評価も実際に評価したときにしか行われず、現時点でHaskellのコードを評価する方法として、GHCiに食わせて表示させるということぐらいしか知らないため、traceの出力と本来の出力がごちゃまぜになって極めてわかりにくい。

もう一つハマった落とし穴は、dropWhileを実装していたときだ。以下のように間違ったコードを書いてしまった。

dropWhile' _ [] = []
dropWhile' f p@(x:xs) =
    if f x
    then dropWhile' xs
    else p

間違っている場所がわかるだろうか。私はわからない。GHCのエラーメッセージは型が違うということは知らせてくれるが、具体的にどこのコードが期待している型が違うのかということは教えてくれない。GHCが指し示す問題のある行は、"dropWhile' f p@(x:xs) ="だ。しかし、問題は"then dropWhile' xs"にあるのだ。エラーメッセージは、dropWhile'の型は(t -> Bool) -> [t] -> [t]だが、[t] -> [t]として使おうとしてエラーになっていることを教えてくれる。そこまで分かっているのならば、[t] -> [t]としてdropWhile'を使おうとしている箇所を教えてくれたっていいだろう。技術的にできるはずなのに、なぜか教えてくれない。

Haskellの実装であるGHCのエラーメッセージはあまりにも不親切すぎる。

2017-12-23

中古PC市場

ここ数年、私のメインのコンピューターは常に中古品だ。これにはいくつか理由がある。

中古品は製造元が購入に当たって同意を要求するかもしれない不自由な契約に同意しなくてもいい。契約は同意して初めて効力を持つ。私はメインで使う私の思想の延長線上にあるコンピューターが、不自由な契約で制限されることを好まない。

中古品は妥協ができる。私が新品のコンピューターを買うときは、妥協が出来ない。コンピューターに25万円だすのと30万円だすのとでは、私の中では誤差程度の違いしかない。しかし、中古品であれば妥協ができる。5万円の捨て値で買うコンピューターであれば、極端にこだわっても違いがないのだ。

中古品を探すのは面白い。中古品は市場にあるもので妥協しなければならないが、その特製は新品よりはるかにばらつきが大きい。

中古PC市場をみていると、私の考える価値と、古物商の考える価値がだいぶ食い違っていることがわかる。

どうやら、世の中のコンピューターにはMicrosoftの不自由で不便なWindowsというOSがプレインストールされていなければ売れないと考えているらしい。なので、古物商は、もしWindowsがインストールされていない、あるいはMSの屈辱的なライセンスキーが欠けているコンピューターを入手したときは、これにWindowwsをわざわざ入れて販売する。これにより約立たずなWindowsのライセンス料の分だけ中古PCの値段が上がる。残念なことだ。

また、PCが発売された時期が中古品の価格に大きく影響するらしい。例えば2年前に発売されたまことにゴミクズのような救いようのない性能の中古PCを高い価格をつけているのに、4年前のそれより遥かに性能が良い中古PCは、より古いという理由で価格が安かったりする。もちろん、古いということはそれだけ経年劣化している可能性もあることには注意しなければならない。

中古PC市場でよく目立つのはリース品だ。企業向けにリースされて返却された後の同一型番のコンピューターが大量に古物商に出回っている。元リース品は中古市場への供給が多いので価格が安めになりがちだ。

さて、私は中古PCを選ぶのに何を目安にしているのか。

まず何はともかくメモリ容量だ。この2017年にメモリはどんなに妥協しても最低でも8GBなければならず、16GBはほしい。

CPUにAtomを選んではならない。ただし、求めるものがとても小さくバッテリー時間であり、その他はどうでも良いのであれば、Atomでもよいだろう。

GPUにnvVIDIAを選んではならない。nVIDIAは不自由なソフトウェアを蔓延させることを目的とした企業だ。

ただ、次のメインPCは中古品ではなくて新品を買うかもしれない。というのも、最近Intelの悪意あるバックドアであるIntel MEを無効化する方法が見つかったため、Intel MEを無効化して出荷する自由志向のPCを販売するところが現れ始めたからだ。

2017-12-20

Haskellへの巡礼

C++の入門書を書くという目的のため、C++を一旦離れてHaskellを学ぶことにしてはや三日目。初日は環境構築で潰れ、二日目はリストを学ぶだけで終わった。

Haskellのリストは、単に順序のある値の集合だけではなく、[1..10]のように規則的な数列を作り出す機能も持っている。またList comprehensionsといって、リストからリストを生成する機能もある。

二日目はリスト処理を学ぶだけでだいぶ疲れた。何も難しいことをしている実感はないのだが、全く馴染みのない新しい概念を学ぶということはかくもつらく苦しいものだとは、久しく忘れていた。馴染みのない新しいことを学ぶのはつかれるということは覚えておかなければならない。

そして三日目はtupleを学んだ。

List comprehensionsはなかなか興味深い機能で、本質的にループであり、imperative languageでループを書いて実装する計算のうちの一部はList comprehensionsで実装できるようだ。

しかし、一部でしかない。そこがつらい。私にとってプログラミングとは、標準入出力と入力で得たものを処理して出力することなので、なにはともかくも標準入出力を扱いたいのだが、Haskellで標準入出力を自在に扱うためには覚えることがまだ色々とあるらしく、まだ手を出すことができないでいる。

四日目。型と型クラスを学び、関数とパターンマッチについて学んでいる。Haskellについて少しわかってきた。

しかし、List Comprehensionsでパターンマッチに失敗した要素は単に無視されるのがとても気に食わない。

xs = [ [1,2], [], [3,4] ]
 [a + b | [a,b] <- xs ]
[3,7]

Haskell 2010 Reportにも書いてあるので受け入れるしかないが。

3.11 p2: and if a match fails then that element of the list is simply skipped over.

まだHaskellの全体像をつかめていないのでHaskell 2010 Reportを本格的に読んでいないが、パターンマッチは3.17で規定されている。まだ知らない知識が多すぎて読めない。

7日目。Higher Order Functionsについて学んでいる。もうHaskellはだいぶ理解できてきた。試しにPandocのコードを読んでみたが、部分的に意味がわかるようになっていた。これならば後は全部学ぶだけだ。

さて、Imperativeな言語であるC++が専門の私がHaskellに思うこととしては、やはり速度だ。

まず最適化だが、sumのようなリストの合計値を計算するコードがあったとして、

accumulate [] = error "empty list."
accumulate [a] = a
accumulate (h:t) = h + accumulate t

このコードは毎回リストが空であるかどうかのパターンマッチが入るので非効率的であるが、リストが空でなければ、その後リストが空になることはないので、賢いコンパイラーならば、空のリストのパターンマッチを最初の一回だけにするように変換できるはずだ。

accumulate [] = error "empty list"

accumulate x = accumulate' x
    where   accumulate' [a] = a
            accumulate' (h:t) = h + accumulate' t

これをcall-pattern optimizationと呼び、Haskellではデフォルト無効で、-fspec-constrもしくは-O2で有効になる。デフォルトで有効になっているべき最も初歩的な最適化のように思える。

Haskellはとても賢いコンパイラーがimperativeな操作を行うように最適化を行えば早くなるだろうが、現状ではそうではない。例えばhaskell.orgのクイックソートの例はひどい。

https://wiki.haskell.org/Introduction#Quicksort_in_Haskell

このHaskellのクイックソートのコードは簡潔でアルゴリズムを学ぶのに最適だが、とても遅い。それに反論するために以下のページがある。

Introduction/Direct Translation - HaskellWiki

曰く、Haskellのナイーブなクイックソート例は遅いので、世の中にはHaskellの拘束なクイックソート例と称するものがいくつも出回っているが、どれもコンパイルできない。

そこで、HaskellでCのクイックソートと同等のコードが示してあるが、Cのコードより長く、Cのコードより読みにくく、そして依然としてCのコードより2倍は遅い。

もはや喜劇もいいところだ。

8日目。再びlistとlist comprehensionsについて考えている。Haskellのリストは、C++でいえば、配列であり、for文であり、std::iotaでもある。遅延評価されて適切に最適化されるのであれば速度も問題ないだろうが、しかしクイックソートの例はひどい。

pattern guardsの存在を知ったので、すべてのパターンマッチはcase式で書けるというHaskell 2010 Reportの記述が確認できた。

Haskell 2010 Reportは少しづつ読み始めているが、至るところで何の言及もなく使われているotherwiseキーワードがないのが気になった。GHCIでotherwise = 0と書いてみると何の問題もなく実行される。試しに:t otherwiseしてみると、どうやらotherwiseとは引数を取らずBoolを返す関数のようだ。なるほど・・・いや、それはもしかして・・・やはり単なるotherwise = Trueか。

9日目。ちょっと学ぶ速度が落ちてしまったがのんびりと入門書を読み続けている。ところで、たまたまPCを再起動したときに、ブート直後のGHCIの初回起動が信じられないほど遅いことに気がついた。プロンプトが表示されるまでに5秒はかかる。次回以降の起動は一瞬だ。一体なぜなのか。大規模なファイルシステムへのアクセスをしていてファイルシステムへのキャッシュの有無なのだろうか。そのコンピューターはM.2 SATA SSDを使っていたが、この仮設を確かめるために、よりストレージ性能の高いM.2 NVMe SSDを搭載した別のコンピューターをリブートしてGHCIを起動してみた。やはり初回起動はプロンプト表示までに2秒ぐらいかかる。

だいたい、言語の習得自体に問題がなくなってくると、こういう些細なところが気になってくる。

2017-12-19

nVidia、GeForceのデータセンターでの利用を禁止する

NVIDIAが規約変更によりGeForceのデータセンター利用を制限。大学などの研究活動にも大ブレーキ - WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

また清水亮がポエムを書いている。困るんだよね、名前の同じ人間にそういうことをされると私まで詩人だと思われてしまう。

nVidiaは確かに邪悪で不自由で存在自体が人道上の罪にあたる極悪企業であり、かのLinuxカーネルの最高開発者であるブリリアント・アッスホールの称号も名高いリーナス・トーバルズにも中指を突き立てられてFから始まるとてもここで書くことができないほどの醜悪極まりない侮辱の四文字言葉で罵られたほどの救いようのない時勢の読めない烏合の衆ではあるが、まさか自らの飯の種であるデータセンターへの利用を禁止するほどの寓話に出てくる金の卵を生む鶏を割くほどの阿呆ではないだろう。どれどれ、この私が直々にソースとやらを検証しことの真偽を確かめてやろう・・・マジじゃねぇか清水亮!

問題となっているのは、nVidiaの物理的な製品であるGeForceとTitanではなく、この製品を利用するためのドライバーのEULA、"License For Customer Use of NVIDIA GeForce Software"だ。

日本国版は以下のようになっている。

2.ライセンスの付与

2.1 付与に関する権利と制限。NVIDIA は本ライセンスをもって、お客様が所有する NVIDIA GeForce または Titan ブランドのハードウェア製品と共に使用するために本ソフトウェアをインストールし、使用する非独占、譲渡不可能のライセンスをお客様に付与します。ただし、以下の制約があります。

2.1.3 制限

データセンターへの導入の禁止。データセンターへの導入の目的では、本ソフトウェアのライセンスは付与されていません。ただし、データセンターにおけるブロックチェーン処理を行うことは許されます。

翻訳ミスかもしれぬので、アメリカ合衆国版も確認すると、以下のようになっている。

http://www.nvidia.com/content/DriverDownload-March2009/licence.php?lang=us&type=GeForce

2. GRANT OF LICENSE

2.1 Rights and Limitations of Grant. NVIDIA hereby grants Customer a non-exclusive, non-transferable license to install and use the SOFTWARE for use with NVIDIA GeForce or Titan branded hardware products owned by Customer, subject to the following:

2.1.3 Limitations.

No Datacenter Deployment. The SOFTWARE is not licensed for datacenter deployment, except that blockchain processing in a datacenter is permitted.

なんと、アメリカ語でも同一の内容で、翻訳のミスではない。この他の部分も念のために読んでみたが、この制約を上書きするような記述は見つけられなかった。

このライセンスはnVidiaのGeForceとTitan用のドライバーをダウンロードするときに同意を求められるもので、ライセンス本文中にもGeForceとTitanと書いてある。このドライバーがなければGeForceとTitanは実質的に使用不可能だ。そのドライバーがデータセンターにデプロイできないとあっては、シリコン製の電力効率の悪い暖房器具をデータセンターに配置するようなもので、何の意味もなくなる。

ブロックチェーンの処理のためであればデータセンターにデプロイできるというのは、その手の計算はAMDのGPUのほうが得意で市場を取っているためだろう。ようするにnVidiaという企業は一度市場シェアを獲得すれば足元を見てあぐらをかいて殿様商売をする邪悪で不自由な企業ということだ。はやく適切な自由市場による淘汰を受けてほしい。

RMSは自由なソフトウェアの定義としてまず第一に、自由ゼロ、「プログラムをいかなる目的においても望みどおりに実行する自由」を掲げた。これが一番最初にあるのは、最も重要だからだ。例えば現実の不自由ソフトウェアは、非エンタープライズ目的に限るとか、1台の物理的なコンピューターに限るとか、自社の提供する物理的なコンピューターに限るとか、様々な不平等で屈辱的で消費者の権利を不当に制限する契約を要求している。そのような不自由ソフトウェアの脅威を受け入れておきながら、今回のnVidiaの契約の妥当性に疑問を示す人間は論理的な思考ができない人間である。

2017-12-12

C++の入門書を書くためにHaskellを学ぶことにした

C++17の参考書、江添亮の詳説C++17はすでに書き上げて、来年の出版を待つばかりになっている。

https://github.com/EzoeRyou/cpp17book

次に書く本はC++の入門書にしようと思っているが、入門書を書く前に、少し時間をかけてHaskellを学ぼうと思っている。

なぜHaskellを学ぶのか。Pandocのためだ。

Pandoc

私の本は、Markdownで書いてPandocで各種フォーマットに変換している。アスキードワンゴでは、Pandocを使ってlatexに変換した上で、手作業で出力されたlatexを編集して組版している。つまり、私の参考書の執筆はPandocに支えられていると言ってよい。

さて、アスキードワンゴ編集部(ドワンゴ)は私が本を出版契約している出版社であり、かつ私が雇用契約している会社でもある。アスキードワンゴの編集者は私の編集者であり同僚でもある。そういったサザエさんの家系図なみに複雑な理由で私はアスキードワンゴの編集者の負担を減らすことにインセンティブがある。編集者はPandocに不満点があり、改良したいと思ってはいるが、Haskellなので手が出せずにいる。話を聞く限り、不満点の解消は、Pandocのコードが理解できれば、それほど難しい変更でもなさそうだ。問題は、PandocはHaskellで書かれているということだ。

Haskellというのは私が今までやってきたプログラミング言語とはだいぶパラダイムの異なる言語で、私はC++に関してはだいぶ理解したが、Haskellという点ではもはやプログラミング未経験者に近い。

さて、早速定評のあるHaskellの入門書、Learn Haskell for Great Goodも買い込み、届くのを待っている間はオンライン版を読みながらHaskellを学ぶとしよう。

Chapters - Learn You a Haskell for Great Good!

プログラミング言語を学ぶには、まずプログラミング言語の実行環境を用意することが重要だ。どうやら、Haskellの実行環境はHaskell Platformとやらで揃うらしい。UbuntuでHaskell Platformをいれるには、

sudo apt install haskell-platform

すればよい。

しかし、どうやらHaskell Platformはもうイケてないらしい。最近のクールなキッズは全員Stackとやらを用いるそうだ。

stackを使うには、シェルスクリプトを落として実行するか、あるいはapt install haskell-stackして、stack upgradeすればいいらしい。さっそくstack upgradeしたが、延々とライブラリのビルドを始めた。小一時間書けてビルドが終わった後に、stack ghciを実行したが、どうやらstack setupしていなかったのでまずghciのビルド済みバイナリのダウンロードが走り、たまたまWiFi経由でダウンロード速度が遅かったので、これまた時間がかかった。

なるほど、環境構築だけで一日が終わってしまった。やったこととしてはコマンドを数行叩くだけなのだが、GHC, Haskell Platform, StackといったHaskellの実行環境の歴史などを学ぶのにだいぶ時間を要した。

この経験から私は、環境構築の解説は丁寧に行うべきだという教訓を得た。C++の入門書の執筆に参考になる経験が、まだHaskellを一行も書かないうちから得られた。

さて、Haskellを学び始めるか。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

江添ボドゲ会@12月17日

毎月恒例の江添自宅ボドゲ会を以下のとおりに開催します。

江添ボドゲ会@12月17日 - connpass

2017-12-11

来年出版予定の「江添亮の詳説C++17」の組版に使うTEXを公開

来年出版する予定のC++17の新機能を解説した参考書、書名は現在、「江添亮の詳説C++17」を予定している本の組版に使うTEXを公開した。

https://github.com/EzoeRyou/cpp17book

この参考書は今年2017年に9ヶ月ほどかけて書いていた本で、C++17に追加された新機能のほぼすべてを解説している。

この参考書は、アスキードワンゴから出版される予定だ。アスキードワンゴでは本の組版にTEXを使っている。

私は自由なライセンスの価値を信じるものであり、本も自由になるべきだと信じている。私の書いた本は自由なライセンスにできるとして、組版に使ったTEXも公開したい。TEXは明らかにソースコードに当たるものであり、ソースコードが公開できなければGPLv3ではライセンスできないのでCC-BY-SAなどを使わなければならない。私が執筆したC++11/14コア言語は、こういった理由でCC-BY-SAだった。

さて、今回の本では、TEXも公開できることになった。すでにmarkdownで書かれた本のソースコードは公開しているので、まだ出版前だがTEXも公開してしまうことになった。これで、今回の本「江添亮の詳説C++17」は自由なライセンスであるGPLv3でライセンスすることができる。

商業出版で使われる本のTEXを公開してどういう効果があるのか、私には予測できない。いい効果があると今後にもつながるのでうれしい。

アスキードワンゴの編集者が作成したTEXを眺めた感想としては、自動化が難しそうだと感じる。今回公開したTEXは私がmarkdownで書いて、pandocでTEXに変換し、それを編集者が手で編集することで作成されている。著者としては編集者の労力を減らすために自動化できるところは自動化したいのだが、編集済みのTEXをみると、結局、編集者が人力ですべてをチェックしなければならないことに変わりはない。

そして、PandocはHaskellで書かれているので、PandocをハックするためにはHaskellを学ばねばならない。Haskellを学ぶのは大変だ。

そういう話をしていたら、同僚のHaskell大好き人間からアスキードワンゴはHaskell本を出しているではないかとツッコミが入った。

Haskellによる関数プログラミングの思考法 - アスキードワンゴ

学ばねばならぬのか。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-12-06

C++標準化委員会の文書: P0790R0-P0799R0

P0790R0: library-operator-spaceship

operator <=>が標準ライブラリに与える影響について。

operator <=>によって生成される比較演算子は、ソースコードの書き換えと同等の効果を及ぼすのであって、実際の比較演算子ではないため、アドレスを取ることができない。これにより、opeartor <=>アドレスを取るユーザーコードは動かなくなる。これは互換性の問題となるが、そもそも比較演算子のアドレスを取るユーザーコードはまれだ。というのも、比較演算子はメンバー関数とフリー関数のいずれかで実装されるので、ユーザーコードでアドレスを取るにはどちらで実装されているか知らなければならない。また、一部の標準ライブラリは、a @ bのような式が妥当だとのみ規定されていて、operator @がどのように実装されているかを規定していない。その場合、ユーザーコードでアドレスを取った場合、そもそも未定義となる。なので、互換性の問題はまれにしか起こらないはずだ。

文書は、標準ライブラリで比較可能な型のうち、operator <=>に対応すべきではない型、変換関数を捨ててopeartor <=>に切り替えるべき型、既存の比較演算子に加えてoperator <=>を追加したほうがよい型、operator <=>を追加したほうがよい他の型をラップしている型、現在比較を提供していないがoperator <=>に対応したほうがよい型、operatgor <=>を追加したほうがよいCの型を列挙している。

valarrayというだいぶ忘れ去られた型も考慮している。

よく調べたものだ。

[PDF] P0791R0: Concepts are Adjectives, not Nouns

コンセプトCを使うtemplate < C X >を、template < C typename X >に変える提案。

template < C X >の意味はわからない。Xは型なのだろうか。値なのだろうか。CがコンセプトならばXは型だが、Cがintへのtypedef名ならば、Xは値だ。この問題は、内側のスコープの宣言で名前が隠れるともっとややこしくなる。


template < typename T > concept C = true ;

// Xは型
template < C X > struct S ;

namespace ns {

using C = int ;

// Xは値
template < C X > struct S ;
}

字面は同じtemplate < C X >なのに意味が変わってしまう。

この問題は、本来形容詞であるコンセプトを名詞として使っているから生じるのであって、形容詞的な文法にすればいい。すなわち、文法を以下のように変更する。

template < CopyConstructible typename T > struct S ;

この変更により、複数のコンセプトを簡単な文法で指定することも可能になる。

template < CopyConstructible LessThanCompareble tyepname T > struct S ;

なるほど、趣旨はわかるが文法が冗長になる。

P0792R0: function_ref: a non-owning reference to a Callable

Callableを所有しないラッパーfunction_refの追加。std::functionと違いメモリ確保をせず例外も投げない。

[PDF] P0793R0: SG5: Transactional Memory (TM) Meeting Minutes 2017/06/19-2017/10/09

Transactional Memoryの会議の議事録。

[PDF] P0794R0: SG14: Low Latency Meeting Minutes 2017/08/09-2017/10/11/

Low Latency会議の議事録。

[PDF] P0795R0: From Vulkan with love: a plea to reconsider the Module Keyword to be contextual

Vulkanより愛をこめて。

モジュールTSではmoduleというキーワードの追加を提案しているが、moduleという識別子はすでに多くの既存のソースコードで使われている。特にKhronos Groupの低級グラフィックAPIのVulkanでもmoduleを識別子として使っている。moduleは文脈依存キーワードにすべき。

[PDF] P0796R0: Supporting Heterogeneous & Distributed Computing Through Affinity

NUMAが当然となった現代では、メモリーアフィニティの重要性はいよいよ増すばかりだ。複数のスレッドによる並列処理を行ったとしても、そのメモリーが特定のひとつのスレッドだけで効率的にアクセスできるようになっている場合、並列処理はスケールしない。このようなメモリーとスレッドの関係をアフィニティと呼ぶ。

そこで、C++は標準でシステムのリソーストポロジーをクエリーし、メモリー領域の相対的なアフィニティをクエリー子、実行とメモリ領域を制限するようなアフィニティの設定機能を持つべきだ。

そんなの標準化できるのだろうか。

[PDF] P0797R0: Exception Handling in Parallel STL Algorithms

並列アルゴリズムを中断する方法の提案。

シーケンシャルアルゴリズムは例外を投げることによって中断できた。並列アルゴリズムも提案段階ではexception_ptrを複数もつexception_listを例外として投げることで中断できる予定だったが、この設計には色々と問題があったので廃止された。

この提案では、例外を格納するdisappointment_buffer<disappointment_type>を追加し、これを実行ポリシーオブジェクトで並列アルゴリズムに渡すことで例外リストを受け取る設計を提案している。

P0798R0: p0798r0: Monadic operations for std::optional

optionalにモナド操作として、and_then, or_else, mapを追加する提案。

画像から猫を抽出してより可愛くするコードを考える。

image get_cute_cat (const image& img) {
    return add_rainbow(
             make_smaller(
               make_eyes_sparkle(
                 add_bow_tie(
                   crop_to_cat(img))));
}

しかし、画像に猫が含まれていなかったらどうなるのだ。画像に蝶ネクタイを付加すべき場所が存在しなかったら、 猫が後ろを向いているので目を輝かすことができなかったら。それらの条件では、画像を返すことができない。

例外を使うというのも手だが、プログラムが画像を大量に処理するもので、画像に猫が含まれないことは例外的ではない場合、例外をコントロールフローに使うのはよろしくない。

そこでoptionalだ。

std::optional<image> get_cute_cat (const image& img) {
    auto cropped = crop_to_cat(img);
    if (!cropped) {
      return std::nullopt;
    }

    auto with_tie = add_bow_tie(*cropped);
    if (!with_tie) {
      return std::nullopt;
    }

    auto with_sparkles = make_eyes_sparkle(*with_tie);
    if (!with_sparkles) {
      return std::nullopt;
    }

    return add_rainbow(make_smaller(*with_sparkles));
}

しかし、こんなボイラープレートコードを書きたくない。

そこで、optionalのメンバーにmap, and_then, or_elseを追加すると、以下のように書ける。

std::optional<image> get_cute_cat (const image& img) {
    return crop_to_cat(img)
           .and_then(add_bow_tie)
           .and_then(make_eyes_sparkle)
           .map(make_smaller)
           .map(add_rainbow);
}

趣旨はわかるが現実の問題を解決するC++のコードが、そんなにきれいに引数をひとつ受け取ってひとつ返すような簡単なコードになるわけがなく、したがってこれを使おうとするとラムダ式で囲んだボイラープレートを書かねばならず、机上の空論に見える。

[PDF] P0799R0: Programming vulnerabilities for C++ (part of WG23 N0746)

C++標準規格の文面に脆弱性に対する忠告の文面を入れようという提案

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-12-02

仮想通貨と税金についての国税庁の見解についての所感

http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf

国税庁が仮想通貨と税金について見解を出しているが、これの一部が私の直感とだいぶ異なる。

1から9までの例について、具体的な暗号通貨であるBitcoin, Ethereum, Bitcoin Cashと日本円を出して考える。その価値は特に実態とは関係がない。

1. 暗号通貨Bitcoinを1万円分買って、後に暗号通貨Bitcoinを2万円で売った。所得=収入-支出=2万円-1万円=1万円となり、1万円の所得が発生する。

わかる。

2. 暗号通貨Bitcoinを1万円分買って、後に暗号通貨Bitcoin全額を支払って2万円の商品を買った。2万円分の収入が発生した扱いになり、所得=収入-支出=2万円-1万円=1万円となり、1万円の所得が発生する。

わかる。

3. 暗号通貨Bitcoinを1万円分買って、後に暗号通貨Bitcoin全額を支払って暗号通貨Etheriumを2万円分買った。2万円の収入が発生した扱いになり、所得=収入-支出=2万円-1万円=1万円となり、1万円の所得が発生する。

理解に苦しむ。暗号通貨から暗号通貨のやり取りには日本円が一切関与していない。

有名画家から絵をもらったとして、その有名画家の絵は市場で1万円の取引実態があるので、1万円の所得が発生したというようなものだ。まだ現金が一切関与していないのに絵を入手しただけで所得になるのはおかしい。

4. これを真面目に計算するのはだるいので具体例を出すのが面倒だが、まあ理解できる

5. 暗号通貨Bitcoinを1万円分買った。後に暗号通貨Bitcoinがforkして、暗号通貨Bitcoin Cashができた。その結果、BitcoinとBitcoin Cashを両方持つことになった。所有するBitcoinの価値は1万円と変わらず、Bitcoin Cashの価値は1千円となった。この場合、1千円の収入が発生した扱いになり、支出は0円で、1千円の所得が発生する。

うーむ・・・結果的に利益が発生したわけではあるが、やはり現金が一切関与していないのに所得となるのはおかしい。

世界に2枚しかない有名画家の絵の1枚を所有しているとして、もう1枚が焼けてなくなったので、自分の持っている絵の価値が1万円分上がった。したがって1万円の所得が発生したというようなものだ。まだ現金が一切関与していないのに所得になるのはおかしい。

6. Bitcoinが雑所得以外に分類される場合について。

わかる。

7. Bitcoinが雑所得とみなされる場合の損失は雑所得のなかだけで通算。

わかる。

8. 暗号通貨にはFXのような投機としての特別措置はない。

実態はもはやFXに近い気がするが、本来の意図した状況ではない気がする。

9. 2万円分の暗号通貨Bitcoinをマイニングするためにコンピューターと電気代で1万円をかけた。収入が2万円、支出が1万円。所得=収入-支出=1万円の所得が発生する。

やはり具体的な現金との関与が一切ないのに所得扱いになるのは解せない。

Bitcoinは実態としては絵に近い。例えば私が有名画家で、私の書いた絵には必ず1万円を支払って購入したい人が列をなして並んでいるとして、私が直ちに売らない絵を描いた場合、私は絵を生み出したのでその場で売らなかったとしても1万円の所得が発生することになるというのと同じ奇妙さがある。

2017-11-28

C++標準化委員会の文書: P0780R0-P0789R0

P0780R0: Pack expansion in lambda init-capture

lambda式のinit-captureにpack expansionを認める提案。ムーブができるようになる。

template < typename ... Types  >
void f( Types ... args )
{
    auto lambda = [ args = std::move(args)... ] { return g( args...) ; }
}

P0781R0: A Modern C++ Signature for Main

mainのシグネチャーを近代化する提案。

int main( const 何らかのコンテナー型<何らかの文字列型> args ) ;

にしたい。この提案では、std::initializer_list<std::string_view>を推奨している。

たしかに、そろそろmainも近代化されるべきだ。

P0782R0: A Case for Simplifying/Improving Natural Syntax Concepts

コンセプトを引数に取る関数テンプレートの文法を使った関数の依存名の解決は、コンセプトで示されているものしかできないようにしようという提案。

現在のコンセプトは、制約テンプレートの使用者に対するチェックだけで、制約テンプレート内のチェックはない。

例えば、現状のコンセプトは以下のコードが通る。

template < typename T >
concept has_f = requires( T x ) { x.f() ; }

void call_f( has_f & x )
{
    // コンセプトに書いてある
    x.f() ;
    // OK、ただしコンセプトに書いてない
    x.g() ;
}

struct X
{
    void f() ;
    void g() ;
}

int main()
{
    X x ;
    call_f( x ) ;
}

コンセプトによるチェックがないと、以下のようなコードが通ってしまう。

template < typename T >
concept has_const_f = requires( T x ) { const_cast<const T &>(x).f() ; }

void call_f( has_const_f & x )
{
    x.f() ;
}

struct X
{
    void f() ;
    void f() const ;
} ;

int main()
{
    X x ;
    // 非const版のvoid X::f()が呼ばれる
    f( x ) ;
}

コンセプトは制約テンプレートを制限しないので、このような挙動になってしまう。

文書では、初心者にコンセプトを使いやすいようにし混乱を防ぐために、ドラフト入りするときに削られたtarse notationによる関数制約テンプレートを復活させ、その依存名の解決はコンセプトに合致するものしか行わないようにしようという提案をしている。

tarse notationを使わないものと使うもので挙動が違うのはますます混乱の元ではないか。

P0783R0: P0783: Continuations without overcomplicating the future

現在、futureに継続を追加するための議論が行われているが、結局executorなしでは継続が実行される媒体が決定的ではなく意味がない。Facebookはfollyライブラリで継続とexecutorを持つfutureを実装して、社内で使った経験から、この件について意見している。

P0784R0: Standard containers and constexpr

vectorやunordered_mapのような可変サイズのコンテナーは実行時プログラミングに便利だ。ということは、コンパイル時計算にも便利なはずだ。

constexpr版のvectorやstringが提案されているが、vectorをそのままconstexr化することはできないのか。

vectorのconstexpr化を妨げる処理は3つ。

  1. デストラクター
  2. メモリ確保
  3. in-place new

デストラクターはconstexpr化できないが、この制約は取っ払うことができる。EDG, MSVC, GCC, Clangの開発者は皆同意している。

メモリ確保はコンパイラーがコンパイル時のメモリ確保を特別に処理することでconstexpr化できる。しかし、コンパイル時メモリ確保は、未定義の挙動を完全に検出できなければならないので、アドレスには追加のメタデータを付与しなければならない。これによりポインターのvoid *への変換はできなくなる。

問題は、いまのoperator newの宣言が以下のようになっていることだ。

void * operator new( std::size_t ) ;

ただし、new, deleteを使っているのならばコンパイラーが特別に対応することもできる。あるいは標準アロケーターで対処する。

in-place newをすべてconstexpr化することは無理だが、vectorで使う一部の用例はconstexpr化できる。

さて、コンパイル時計算で確保したメモリを開放しない場合どうなるのか。一番簡単な方法は未開放を禁止するということだ。しかし、コンパイル時処理の結果を実行時に渡したいときもあるだろう。すると開放されなかったコンパイル時メモリ確保はstaticストレージとして残すという手もある。

夢が広がる話だ。あらゆる計算はコンパイル時計算になりうる。

P0785R0: P0785R0: Runtime-sized arrays and a C++ wrapper

実行時サイズ配列復活論。CのVLAのサブセットとC++のラッパークラスの提案。

ようするにスタックから実行時に指定したサイズのメモリを確保したいということだ。

かつてC++14に入りそうだったdynarryは、スタックから確保できない場合、動的確保にフォールバックするという設計で、確実にスタックから確保されてほしい利用者にとって当てにできない設計であった。その後、厳格にスタックからしか確保しないフォールバックのないbs_arrayなども提案されたりしていた。

C++規格では、スタックとヒープという存在を避けてきた。代わりに、オブジェクトは寿命期間を持つストレージで区別されてきた。殆どのコンパイラーはスタックとヒープを使っていて、その使い分けは自然なものだ。しかし、世の中には組み込みとかカーネルなどの極端な環境があり、スタックメモリーのサイズが極端に小さい環境もあるかもしれない。そういう環境ではメモリはヒープに確保し、スタックではヒープメモリへのアドレスを格納するだけという実装もあり得る。結局、C++規格としてはスタックの利用を強制することはできない。

[PDF] P0786R0: ValuedOrError and ValueOrNone types

エラー処理を暗号的ではなくなるが冗長な記述になるライブラリの提案。

提案されているライブラリの一部を使うと、以下のように書ける。

// 同じ
x.has_value() ;
value_or_error::has_value(x) ;

// 同じ
(o) ? f(*o) : nullopt ;
value_or_error::transform(o, f) ;

// 同じ
(!e) ? e.error() : err
value_or_error::error_or(e, err)

// 同じ
(e) ? false : e.error() == err ;
value_or_error::check_error(e, err) ;

暗号的なコードではなくなるが、冗長な記述になるし、意味がわかりやすいかというとそれも疑問だ。

[PDF] P0787R0: Proclaimed Ownership Declarations

モジュールからproclaimed-ownership-declarationを削除する提案。

[PDF] P0788R0: Standard Library Specification in a Concepts and Contracts World

「プログラムの挙動に合わせて仕様を変えるのは、その逆より簡単だ」 Alan Perlis

「8.5×11インチの紙1枚に収まらない仕様は理解不可能だ」 Mark Ardis

「specというのは仕様(specification)の略か? 憶測(speculation)の略なんじゃないか?」 詠み人知らず

標準ライブラリはどのようにconceptに対応すべきかという方針の提案。

Requires: は現状維持。代わりに新しい要素を追加する。

Requires: を段階的に廃止し、新しい要素で置き換える。

新しい要素として、Constraitns:, Diagnostics:, Expects:, Ensures:を追加する。

[PDF] P0789R0: Range Adaptors and Utilities

Rangeアダプターの提案。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-11-22

C++標準化委員会の文書: P0770R0-P0779R0

P0770R0:A Proposal to Specify Behavior in Case of Exception Allocation Failure

例外オブジェクトのストレージは未規定の方法で確保されると規格にある。動的確保する実装の場合、確保に失敗した場合に対処する方法がない。

そこで、例外処理が失敗した場合に絶対に失敗せずに投げられる何らかの例外型を追加する提案。bad_allocを再利用するのがよいとしている。

[PDF] P0771R0: std::function move operations should be noexcept

std::functionのムーブ処理をnoexceptにする提案。すでにanyやshared_ptrはnoexceptなのでstd::functionをnoexceptにしない理由はない。

[PDF] P0772R0: Execution-Agent Local Storage

スレッドより軽い実行媒体がTLSを使うとスレッドのTLSが使われてしまう。ExecutorにTLSを要求するAPIを用意して、ExecutorがTLSを提供するか拒否するかして、スレッドより下の軽い実行媒体にもTLSを提供しようという提案。

P0773R0: Towards meaningful fancy pointers

ポインター風に振る舞うクラス型fancy pointerについての考察。ポインターにメタ情報を付加したり、アドレスにnear/far/segmentといった概念があったりする場合に必要。

[PDF] P0774R0: Module Declaration Location

module宣言の文法を変える提案。相変わらず文法が安定しない。

[PDF] P0775R0: Module Partitions

一つのソースファイルに複数のモジュールを書くことができるようにする提案。

P0776R0: Rebase the Parallelism TS onto the C++17 Standard

Parallerism TSはC++14の文面に合わせて書かれていたので、C++17の文面に合わせて書き直す提案。

[PDF] P0777R0: Treating Unnecessary decay

標準ライブラリでdecayを使っているがremove_cvrefですむ場所でremove_cvrefを使うよう書き換える提案。

[PDF] P0778R0: Module Names

モジュールが未だにこんな問題を抱えてるとは、C++20に入るのはおぼつかないのではないだろうか。

モジュールでimport foo ;と書くと、「これはモジュール名fooをimportしろ」という意味だ。ではモジュール名fooに対応するモジュールが定義されているソースファイルは何だろうか。規格は何も定めていない。

ヘッダーファイルでは、ヘッダー名は実装が実ファイルへのマッピングをするヘッダーか、直接物理のファイル名を意味している。ヘッダーを実装しているC++コンパイラーは存在せず、既存のすべてのコンパイラーはヘッダー名をファイル名として解釈し、所定のincludeディレクトリー群からヘッダー名のファイル名を探し出す。

モジュールの実装では、モジュール名、モジュールソースファイル、モジュールバイナリファイルが存在するはずだ。モジュールバイナリファイルは規格の規定するところではないが、モジュールソースファイルを処理した結果の何らかのファイルだ。モジュールの目的がコンパイルの高速化にあるので、当然このような実装になるはずだ。

すると、モジュール名fooをimportしたとき、C++コンパイラーはモジュール名fooに相当するモジュールバイナリファイルを探し出して使う。もしモジュールバイナリファイルがない場合、モジュールソースファイルを探してモジュールバイナリファイルを生成する。要するに今のビルドシステムがやっている依存関係の解決をC++コンパイラーが内部で直接やるようになる。ここでもやはり、モジュール名とモジュールソースファイルのマッピングが必要になる。

このモジュール名とファイル名のマッピングは、現状のままでは実装ごとに異なることになり、ポータビリティのかけらも存在しない使いづらいものになる。

モジュール機能を提供している他のプログラミング言語の例を列挙して比較してみるが、そもそも多くのプログラミング言語は単一の実行環境、単一の実装といったC++とは異なる状況にあるので参考にできないものも多い。

この文書では、モジュール名の文法を識別子から文字列リテラルにしてファイル名とマッピングするルールを追加するように提案している。

[PDF] P0779R0: Proposing operator try() (with added native C++ macro functions!)

なかなか野心的な提案。

expected<T,E>を返す関数が内部でexpected<U,E>を返す関数を呼び、エラーを返した場合はそのエラーを含むoptionalを伝播して返す処理を考える。

template < typename T >
using expected = std::expected<T, std::error_code > ;

expected<int> get_int() noexcept ;

expected<float> get_float() noexcept
{
    auto r = get_int() ;

    // 結果がエラーならば伝播する
    if ( !r )
        return unexpected( r.error() ) ;

    // floatがintを完全に表現できなければエラーを返す
    auto f = float( *r ) ;

    if ( int(f) != *r )
        return unexpected( std::errc::result_out_of_range ) ;
    else
        return f ;
}

このとき、エラーを伝播させるのがとてもだるい。いちいちエラーかどうか調べてエラーならエラーを返す処理を書かなければならない。

このボイラープレートコードを回避するためにCプリプロセッサーマクロを書くのも醜悪だ。

このコードは、コルーチン提案をまねてoperator tryをオーバーロードできるようにすれば解決できる。

template <class T, class E>
constexpr auto operator try(std::expected<T, E> v) noexcept
{
    struct tryer
    {
        std::expected<T,E> v ;

        constexpr bool try_return_immediately() const noexcept { return !v.has_value() ; }
        constexpr bool try_return_value() { return std::move(v).error() ; }
        constexpr try_value() { return std::move(v).value() ; }
    } ;
    return tryer{ std::move(v) } ;
}

これさえあれば、

auto r = get_int() ;
if ( ! r )
    return unexpected( r.error() ) ;
auto i = int(*r) ;

は、以下のように書ける。

int i = try get_int() ;

しかし、operator tryも冗長なコードを大量に書かなければならない。そもそもコルーチン提案自体が冗長なコードを多数書かなければならない。この問題は、ネイティブ言語マクロを導入すれば解決できる。

結局問題は、関数の呼び出し元の文脈でreturnしたいので、Cぷりプロセッサーに変わるネイティブなマクロがあれば、この問題は解決できるし、コルーチンが常用な問題も解決できるし、range-based forも実装できるし、割とあらゆるものがマクロで実装できることになる。

興味深いのはその提案している文法で、文字#を使っている。#はCプリプロセッサーにかけたあとのC++のソースファイルに残らない文字で、既存の実装はプリプロセス後に文字#があるとエラーを吐く。なので安全に機能拡張に使うことができる。

夢が広がる話だ。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-11-21

江添ボドゲ会 11月26日

以下の通り11月26日に自宅でボードゲーム会を開催します。

江添ボドゲ会@11月26日 - connpass

2017-11-20

C++標準化委員会の文書: P0735P0-P0769R0

P0735R0: P0735R0: Interaction of memory_order_consume with release sequences

memory_order_consumeがARMのとても弱いメモリーモデルでは実用的にならないのでなんとかしたいという文書。

P0737R0: P0737r0 : Execution Context of Execution Agents

現在のExecutor提案では実行媒体とかexecutorとか実行リソースについては考慮しているが、具体的なexecution contextについて考慮していない。とりあえず最低限の具体例を定める提案。

P0750R0: p0750r0: Consume

memory_order_consumeは未だにどのC++コンパイラーも実装していない。これは、C++のソースコードレベルでの依存と、ハードウェアでの依存に違いがあるためと、この業界でconsumeという用語の意味が一貫していないためだ。consumeを実装可能にするために色々と提案している文書。

P0752R0: std::vector Destruction Order

vectorの要素の破棄順序を自然にする提案。今まで規格でvectorの要素の破棄順序を規定していなかったので、実装ごとに差異があった。C++では破棄は構築の逆順に行われることが自然なので、vectorも配列やstd::arrayと同じく、末尾の要素から破棄される。

[PDF] P0753R1: Manipulators for C++ Synchronized Buffered Ostream

P0763R0のtypoを修正した。内容は同期バッファーでフラッシュをするかどうかを設定するマニピュレーターの提案

P0756R0: Lambda syntax should be more liberal in what it accepts

lambda-captureの制限緩和の提案。

現在、lambda-captureとして[&x, =]は誤りだ。正しくは[=, &x]。デフォルトキャプチャーの前に個別のキャプチャーを書くことはできない。

現在、lambda-captureとして[=, x]は誤りだ。正しくは[=]。デフォルトキャプチャーと同じ意味の個別のキャプチャーを書くことはできない。

しかし、これの意味は完全に曖昧製無く明らかであるし、初心者がハマる落とし穴であるので、制限緩和すべきであるという提案。

正しい。

P0757R0: regex_iterator should be iterable

filesystemのdirectory_iteratorはrangeとしても使える。

regex_iteratorもrangeとして振る舞うべきだという提案。

確かに、デフォルトコンストラクターが終端イテレーターになるタイプのイテレーターであれば、rangeにもなる。

[PDF] P0761R1: Executors Design Document

実行媒体を表現するExecutorについて。

[PDF] P0762R0: Concerns about expected<T, E> from the Boost.Outcome peer review

Boostのuncheckedの作者からexpectedに物申す文書。どうも些細な違いに思える。

P0766R1: Fixing small-ish functionality gaps in constraints

lambda式でrequires-clauseを使えるようにする提案。

P0767R0: P0767R0: Expunge POD

PODをdeprecated扱いにする提案。これまで規格でPOD型としていた部分はトリビアル型とし、初期化の文脈で「非POD型のグローバルオブジェクト」としていたところは「ユーザー提供コンストラクターで初期化されるグローバルオブジェクト」と書き直す。is_pod traitsはdeprecated扱いになりAnnex Dに移動する。

[PDF] P0768R0: Library Support for the Spaceship (Comparison) Operaton

operator <=>の標準ライブラリによる対応について。

operator <=>はこの前の会議で入ることがほぼ決定した等価比較と大小比較をいっぺんにできる演算子だ。

a == bのとき、a <=> bは0を返す。a < bのとき、a <=> bは<0を返す。a > bのときa <=> bは>0を返す。

また、戻り値は単なる整数型ではなく特別なクラス型で、大小比較できる場合はstd::strong_order, std::weak_order, std::partial_order、等価比較しかできない場合はstd::strong_equality, std::weak_equalityを返す。これらの型は派生関係でis-a関係を表現しているので、例えばstd::strong_orderはstd::weak_orderとしても使えるが逆はない。

大小比較が常にできてa == bのとき、常にf(a) == f(b)が成り立つのがstrong oder、成り立たないのがweak order

例えば文字列のcase insensitiveな比較は等しいと判断されても大文字小文字の違いがあるのでweak_order。

比較ができない値が存在する場合、partial order。

例えばIEEE-754の浮動小数点数はNaN, +0, -0があるのでpartial order。

この文書ではstd::strong_orderなどの標準ライブラリについて細かく定めている。ヘッダーファイルは<cmp>

[PDF] P0769R0: Add shift to <algorithm>

algorithmにshift_leftとshift_rightを追加する提案。

moveとmove_backwardと違い、同じレンジ内で操作する。rotateとは違う。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

glibcのpowがslowpowを呼んで遅い件について

Slow power computation by 64-bit glibc

x86-64 GNU/Linux環境でのglibcのpowは1.0に近い値を渡すと、768bitのソフトウェア実装された浮動小数点数計算を行い高精度な値を得ようとする。slowpowと命名されているこの実行パスは名前通りとても遅い。

glibcはとても基本的なライブラリなので、例えばRubyとかRustのようなプログラミング言語もこの問題に引っかかる。

手元で試したところ、GCC 7.2, glibc 2.26では、-Oと-ffastmathを指定するとpowにslowpowが呼ばれず高速に計算されるようだ。

これでもだいぶ高速化されたのだとか。

Improving math performance in glibc - RHD Blog

2017-11-13

C++標準化委員会の文書: P0650R1-P0722R1

[PDF] P0650R1: C++ Monadic interface

C++でモナドをやるためのライブラリの提案。どうもライブラリでやると煩雑になる気がするのだが。

[PDF] P0655R0: visit<R>: Explicit Return Type for visit

戻り値の型Rを明示的に指定できるvisit<R>の提案。

[PDF] P0657R1: Deprecate Certain Declarations in the Global Namespace

C言語における標準ヘッダーファイル<name.h>はC++では<cname>になった。C++形式のヘッダーファイルをincludeすると、std名前空間スコープに名前が宣言される。同時に、グローバル名前空間に名前が宣言されるかもしれない。

この提案は、C++形式のヘッダーファイルをincludeすると、グローバル名前空間に名前が宣言されることをdeprecated扱いする提案だ。なので、文面は「グローバル名前空間に名前が宣言されるかもしれない」から、「deprecated扱いではあるが、グローバル名前空間に名前が宣言されるかもしれない」になる。

P0658R1: Proposal for adding alias declarations to concepts

conceptのrequires式の本体にエイリアス宣言を書けるようにする提案。

template < typename T>
concept bool SomeReq = requires {
    typename value_type_t<T> ;
    requires Constructible<T, value_type_t<T> > ;
} ;

が、

template < typename T>
concept bool SomeReq = requires {
    using value_type = value_type_t<T> ;
    requires Constructible<T, value_type > ;
} ;

になる。conceptでネストされた型名記述に誤解を生みそうな気がする。conceptはすでにドラフト入りしているのだが、果たして普通のC++プログラマーが書けるようになるのだろうか。

P0670R1: Static reflection of functions

関数呼び出し式から呼び出される関数を得たり引数の型をそれぞれ得たりできるわりと軽めのリフレクション機能の提案。

void func(int);
void func(std::string);
using func_call_m = reflexpr(func(123));
using func_m = get_callable_t<func_call_m>; // reflects void func(int)
using param0_m = get_element_t<0, get_parameters_t<func_m>>;
cout << get_name_v<get_type_t<param0_m>> << '\n'; // prints "int"

[PDF] P0684R1: C++ Stability, Velocity, and Deployment Plans

C++標準化委員会が新機能を追加する際に下位互換性を破壊する変更を伴う時、ユーザーが既存のコードを変更する際に行われる行動を想定した上で、どのようにすべきかという提案。

C++の新しい規格を受容する時は以下のようなステップで行われる。

  1. 新しい規格をサポートした新しいコンパイラーにアップグレードする
  2. 新しいコンパイラーの古い規格モードでの既存のコードをコンパイルすると互換性の問題になる箇所について警告を受ける
  3. 警告を確認してコードを修正する
  4. 新しい規格モードを有効にする

これに従い、下位互換性を破壊する言語機能は容易に警告を出せるかどうかについて注意を払うべきである。

P0692R0: Access Checking on Specializations

知らなかった。

クラスのprivateなメンバーは当然クラス外部からアクセスできないわけだが、既存のほとんどのコンパイラーはテンプレートの明示的特殊化でアクセス指定を無視する。また、GCCとMSVCは部分的特殊化でもアクセス指定を無視する。


class A {
template < typename T >
class impl { } ;
} ;

template < typename T >
struct traits { } 

// 明示的特殊化
// 規格上はエラー
// GCC, Clang, ICC, MSVCは通す
template < >
struct traits< A::impl > { } ;

// 部分的特殊化
// 規格上はエラー
// GCC, MSVCは通す
// Clang, ICCはエラー
template < typename T >
struct traits< A::impl > { } ;

これを踏まえると、現状のC++実装がこの場合にアクセス指定を無視するよう実装していて、またこの仕様ではないとprivateメンバーの型に対する特殊化が出来ないことも考えると、規格を変更してこの制限を取り払ったほうがよいので、明示的特殊化と部分的特殊化ではアクセス指定の制限を緩和をする提案。

P0701R1: p0701r1: Back to the std2::future Part II

名前がよい。

内容はfutureに対する機能追加に対する提案。

[PDF] P0707R2: Metaclasses: Generative C++

現在提案されている静的リフレクションライブラリが入ったという前提でその静的リフレクション機能を使って実装できるmetaclassライブラリの提案。

constexpr {       // コンパイル時実行
    for ( auto m : $T.variables() ) // T型のメンバー変数それぞれに対し
        if ( m.name() == "foo" )  // "foo"という名前のメンバーがあれば
            -> { int bar ; }  // int型の"bar"という名前のメンバーを注入する。

}

割と衝撃的なコードだ。

P0722R1: Efficient sized delete for variable sized classes

sized deallocate functionにクラスへのポインターを取るオーバーロードを追加する提案。

クラスオブジェクトの近隣のストレージ領域を活用した動的にオブジェクトサイズを変えるクラスを実装する時、sizeを効率的に指定するために使える。


void operator delete ( X *, std::destroying_delete_t, その他の引数 ) ;

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

今回C++ドラフトに入った機能

Trip report: Fall ISO C++ standards meeting (Albuquerque) | Sutter’s Mill

Herb Sutterが今回の標準化委員会の会議でドラフト入りした機能についていち早く速報を出している。具体的な文書などはリンク先で確認してもらうとして、概要だけ説明する。

range-based forに初期化子が書けるようになった。

for ( auto result = f() ; auto && value : result ) ;

<bit>にbit_castingが追加された。

short from = 42 ;
auto to = bit_cast<std::uint16_t>(from) ;

operator <=>が追加された。

operator <=>は2つのオペランドの大小比較と等号比較を一度にできる演算子だ。この演算子を定義しておけば、残りの比較演算子はコンパイラーが自動的に生成してくれる。型システムによってstrong order, weak order, partial orderのいずれに対応しているかも切り替えられる。

atomic<shared_ptr<T>>が追加された。shared_ptrをアトミックに操作できる。

remove_cvref traitsが追加された。CV修飾子とリファレンスを消したいが、配列から要素型、関数から関数へのポインター型への変換は行いたくない場合に、decayの代わりに使える。

[[nodiscard]]が一部の標準ライブラリで使われることになった。

同期バッファー付きのostreamラッパーライブラリ、osyncstreamが追加。

// 複数のスレッドから同時に実行されうる関数
void f()
{
    std::osyncstream out( std::cout ) ;
    out << "hello, world!\n" ; 
}

スレッドセーフなostreamラッパーとして使うことができる。

<alogorithm>と<utility>の一部をconstexpr対応。

<comlex>をconstexpr対応。

atomic<floating_point_type>

stringとstring_viewにstart_with/end_withの追加。

また、現在策定中のconstexpr対応のnew, vector, stringは、後数回の会議でドラフト入りできる見込みだというぐらい本格的に議論されているようだ。本気で入れる様子が伺える。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

国家政府用のbitcoin破壊工作ガイド

How to Destroy Bitcoin with 51% (pocket guide for governments)

あなた、政府系の人ですか? bitcoin危険だと思いますか? いやいや滅相もない他にやるべきことがたくさんありますよ。まあでも、ちょっとここではbitcoinが疎ましいと思ってくださいよ。そうそう、あなたは中国だとします。

どうやって止めるのですか? みんな暗号通貨はセキュアで無敵だって言うじゃないですか。ちゃんとコントロールしたいあなた達政府系の人にとってはだいぶおつらいですよね。

Bitcoinを止めるのは実際難しくて、個人を何人か逮捕してサーバーを停止させたぐらいじゃ止まりません。Silk RoadやE-GoldやLiberty Reserveとは違うんですよ。そして参加者はだいたい権力を嫌ってます。

暗号通貨では停止させるべき中央サーバーってものがないんですね。ユーザーはみんな、フルノードをセキュリティ目的で実行してますから(理想的な世界ならばそうなのですが、現実ではだいたいのユーザーは有名所のクラウド提供されたWebウォレットを使ってるようですね)

でも、マイナーとかバリデーターとかウィットネスとか呼ばれているルールに従って選ばれた調停者ってのがいます。Bitcoinではマイナーはハッシュ(計算コストが高く安い電気が必要)の発見に精を出しています。そしてほとんどのマイナーはあなたの国にいるんですね。

画像:中国が世界の71%のマイナーを持つ。
https://cdn-images-1.medium.com/max/1600/1*RyaqdlQMBhrdxDlpnCh7eQ.png

マイナーを止めるってのはバカげた話です。Bitcoinはその維持にマイナーを必要となんかしていません。マイナーはセキュリティのために必要なのです。なので、あなたがた政府系の人がマイナーを差し止めたら、難易度調整が入って他の国のマイナー達がネットワークをセキュアにし続けるってわけです。

Bitcoinを殺すなら、ガツンと凶悪な51%攻撃ってやつをやってやりましょう。

ステップ1、bitcoinを買い集める

大手の交換所すべてに、アカウントを作成しましょう。取引所ひとつにつき10から40アカウントぐらい。さて100箇所ぐらいの交換所にそれぞれ40個のアカウントを作りましたね。上出来です。まず景気づけに1億ドル分ぐらいのBitcoinを買いましょう。あなた、政府系の人ですよね? 国家の安全のためにはそれぐらい捻出できますよね?

これを書いている時点でBitcoinの市場総量というのは950億ドルぐらいなので、0.1%ぐらいの量になります。わりかし悪くないレバレッジですね。

交換所にある通貨をすべてあなたの所有するウォレットに送金しましょう。個々が一番難しいところで、暗号通貨のウォレットのユーザーエクスペリエンスは最悪で、誤操作で結構な金を失う可能性があります(ジョークON)

ステップ2,51%のマイナーを見つけましょう

https://www.buybitcoinworldwide.com/mining/china/によれば、世界のマイナーの71%は中国にいます。彼らは地下に隠れていますが、まあでも、そこはあなた中国政府。あなたは人民のスマフォにスパイウェアの導入を義務付けたり、https://thenextweb.com/asia/2017/07/25/chinas-forcing-its-citizens-to-install-a-terrifying-big-brother-app-on-their-phones-or-go-to-jail/しているわけですから、捜索はそう難しくはないでしょう。

ヒント:彼らは盗電してます。調べましょう。

たとえばこれはオルドスの例ですね(北京からそう遠くないですよ)

https://qz.com/1055126/photos-china-has-one-of-worlds-largest-bitcoin-mines/

ステップ3、秘密作戦

さて、秘密警察組織に作戦実行のデイXまでにできるだけ多くのマイナーを捜索するよう命じましょう。

これは法執行機関さんのやることですので、あなたの国のお巡りさんは説得に当たってマイナーの頭に銃を突きつけてもよいでしょう。このお願い方法はマイナーが知らんふりを決め込んでいるのを説得させるのにとても効果的です。

国家政府が物事を成し遂げるってのはこういうことですね。しかも、あなたは中国なのですから、こういう活動をするにあたってリベラルを装う必要すらないのですよ。

ステップ4、倍々ゲーム

マイナー達に以下の操作を行わせましょう。あなたのウォレットの単一のブロックから4000トランザクション(1つあたり25000ドル)ほど掘らせて全体に行き渡らせます。この4000トランザクションはステップ1で作ったアカウント群に送金を戻すことに使います。

通常、取引の成立には6ブロック重ねる(承認)ことが必要です。

さて、世界のネットワークは今や、あなたのブロックの上にブロックを重ねています。その間に、あなたのほったブロックの上に自分でブロックを重ねましょう。

つまり、ブロックNに対してみんなにブロックN+1を送ります。するとみんなBlockN+2とBlockN+3を掘るのに勤しむわけです。あなたはかわりに、別ブランチのブロックN+1BとブロックN+2Bを掘りましょう。

あなたは51%を持っているのですから、たぶんみんなよりは速く掘れるでしょう。よそのマイナー達があなたのブロックに対して6ブロック承認を終えたら、あなたは持っているBitcoinを全部他の何かに交換しましょう。LitecoinだとかRippleだとかEthereumとか、まあ何でもいいです。普通に交換できるはずです。そしたら、あなたは交換したaltcoinをあなたのウォレットに送ります。

BTCをすべてaltcoinに変えて、altcoinを引き出した後に、あなたの4000トランザクションを無効化するもう一つの秘密のブランチを公開します。

これはリオーガニゼーションというやつです。これでネットワークはあなたのチェインを本流として受け入れ、オーファン化した他のトランザクションのことは忘れなければなりません。

ステップ5、暗号通貨市場の価値が暴落するのを眺めましょう

さて、これによって1億ドルの価値があるBitcoin(交換所はもう持っていない)が、1億ドルの価値があるaltcoin(あなたが持っている)に変わったわけです。おめでとうございます。あなたは2億ドル分の暗号通貨を手に入れました。その市場価値は暴落するでしょうが、目的は市場価値の暴落にあるのだから問題ないでしょう。

この攻撃をもう一発行ってもいいのですが、その必要はないでしょう。この規模の攻撃が一度起こっただけでも、暗号通貨に対する信頼に大打撃となり、数年は市場が暴落するでしょう。

よその国家にはどうしようもできません。Bitcoin自体にはまともな法規制や慣習が存在しないのですから。なので秘密に攻撃してもいいし、公に攻撃しても構いません。

再考

この記事は筆者の現状に対する不満を述べたものであるが、筆者はBitcoinに反対するものではない。筆者は我々が現在陥っている愚行について憤っているのだ。

我々はもう一度原点に立ち返ってパラノイアになるべきであり、我々の脅威モデルを適切に設定すべきなのだ。お前が今やっているのは何だ? スマートコントラクト? ブロックチェインによる個人認証? クソコインとクソコインを分散取引? ICO? そういうことは検閲耐性というブロックチェインにおける唯一の重要な事に比べれば完全に無価値なものだ。検閲耐性以外の余りのクソはお前の5ドルのサーバーでも1000倍は効率的にやってくれる。

お前が検閲耐性などいらないのであれば、わざわざビットコインなど使わないでもっと効率的にやれ。

この攻撃はEthereumに対してはより簡単だ(ステップ1,Ethereum創始者のVitalikを捕まえろ)。他の暗号通貨に対しては51%攻撃というのはヘリコプター一台分の金を使ってASICを投下するだけでよい。なのでやるのであれば、Bitcoinに対して攻撃して他の暗号通貨がドミノ効果で信用を失っていくさまを眺めるがよい。

追記:読者が中国ではなく、中国にジェイムズ・ボンド級のスパイを放って51%のマイナーをハイジャック出来ない場合、Bitcoinに対して51%攻撃をしかけるのはもっと難しい。なので中国を説得してやってもらうしかない。

ちなみに、この51%攻撃(Double Spending)は全体の51%のハッシュレートを持っていれば確実に成功するが、51%より少ないハッシュレートしか持たない場合でも、確率的に成功する。この攻撃は一度成功させるだけで信頼に大打撃を与えられるので、全体の20%程度のハッシュレートしか持たず、確率的に数%しか成功しない場合でも、中国共産党が本気で暗号通貨を潰しにかかった場合、割と実現可能性の高い攻撃ではある。

Analysis of hashrate-based double-spending

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-11-10

国際標準規格の紹介 〜ISO国際標準規格プログラミング言語C++について〜

はじめに

こんにちは、C++標準会員の江添です。

今日は普段から表に出ている、閉鎖的なゲーム開発では使われていない開発環境についての紹介をします。

今回紹介するのは、ISO国際標準規格プログラミング言語の「C++」です。

なんと表の世界では、国際標準のプログラミング言語は、コンパイラーベンダーやC++利用企業と行ったC++に利害関係を持つ多数の代表が国際標準規格を制定しているのです。当たり前でしょ?

C++は以下のような特徴を持っています。

  • エラーに気づきやすい静的型付け言語
  • C++経験者が理解しやすい言語仕様
  • OSに依存しない移植性の高いC++実装
  • 実行環境に依存しないC++規格準拠の挙動の定義
  • C/C++の関数・クラスに最初からバインドされている

今でもクローズな実装の詳細のわからないプログラミング言語がたくさんあり、それらを使うデメリットは数多くあります。

国際規格の言語を使うのは様々な利点があるからです。

一番大きなものは「権力者の慈悲にすがるしかない状況が発生しない」ことです。もし特定の個人や団体が言語を所有している場合、将来の変更が既存のコードを壊さないこと、自分のほしい新機能が追加されることは、権力者の慈悲にすがるしかありません。ISO傘下の国際規格として制定されることで、企業や個人は等しく最適な言語仕様を考えることができます。

今回はその中の一つとしてCRTPという技法を紹介します。

CRTP

自分の型を返す関数ってよくありますが、面倒くさいですよね。

class A_Class
{
public :
    static auto Create()
    {
        return std::make_unique<A_CLass>() ;
    }
} ;

CRTPを使うと、先程のコードを以下のように書くことができます

template < typename T >
struct factory_mixin
{
    static auto Create()
    {
        return std::make_unique<T>() ;
    }
} ;

class A_Class
    : public factory_mixin<A_Class>
{ } ;

もう少し複雑な例を挙げます。これと似たような(しかもコピーする必要がある)クラスを、名前を変えながら数十、数百と増やしていくことを想像してみてください。

class A_VeryLongClassNameMadeByEzoe
{
public :
    static auto Create()
    {
        return std::make_unique<A_VeryLongClassNameMadeByEzoe>() ;
    }

    static auto CreateWithTwo()
    {
        return std::make_unique<A_VeryLongClassNameMadeByEzoe>(2) ;
    }

    static auto Create( int value )
    {
        return std::make_unique<A_VeryLongClassNameMadeByEzoe>(value) ;
    }

    A_VeryLongClassNameMadeByEzoe() { }
    A_VeryLongClassNameMadeByEzoe( int value )
        : value(value) { }
private :
    int value = 0 ;
} ;

CRTP実装は簡単ですね。

template < typename T >
struct factory_mixin
{
    template < typename ... Types >
    static auto Create( Types && ... args )
    {
        return std::make_unique<T>( std::forward<Types>(args)...) ;
    }

    static auto CreateWithTwo( )
    {
        // T::T(int)を持たない型は除外
        constexpr bool b = requires { T(2) ; } ;
        static_assert( b, "Type doesn't have constrcutor T::T(int)." ) ;
        if constexpr ( b )
        {
            return Create(2) ;
        }
    }
} ;

CRTPがあるとゲームでよく使われる状態遷移モデルのような仕組みを描くのが大変楽になります。

現場では以下のようなクラスがたくさん作られるため、面倒なコードの重複によるバグを減らす(これが大切)ことができるのです。


template < typename T >
struct change_state_mixin
{
    static void ChangeState( Obj aObj )
    {
        T newState( aObj )
        aObj.stateChanger().setNextStage(newState) ;
    }
} ;

// 待機状態
struct StateWait
    : change_state_mixin<StateWait>
{
    void procAnim()
    {
        // 状態ごとに違う処理
    }
}

// プログラマーにコピペを強いる状態
struct StateForceHallabProgrammerToCopyPasteTheBoilarPlateCode
    : change_state_mixin<StateForceHallabProgrammerToCopyPasteTheBoilarPlateCode>
{

    void procAnim()
    {
        // コピペ処理
        yank() ;
        jjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjjj() ;
        paste() ;
        enter_insert_mode() ;
    }
}

まとめ

わざわざ閉鎖的な環境で独自言語を開発しなくても、ライブラリ作者向けの強力な機能が提供されているのがC++の強みです。時代とともに変化する様々な環境にも、C++は対応し続けています。

これ以外にも、C++ではボイラープレートコードを削減するために様々な機能がありますが、それはまたの機会にぜひ。

国際標準規格C++は、C++に利害関係を持つ様々な個人や企業がC++標準化委員会に代表を送り、ISOのルールに則って新機能の考案や策定を進めています。もし現行のC++に不満があるのであれば、C++標準化委員会に代表を送って提案し、実験的実装をし、その価値を示し、国際会議で議論して、規格策定に貢献しましょう。

真面目なまとめ

元ネタは以下の通り。

社内開発環境の紹介 ~社内製プログラミング言語Mintについて~ | ハル研ブログ | ハル研究所

元ネタで対処しようとしている問題は、コードをコピペするから生じるのであって、コードをコピペしなければよい。コードの重複を防ぐためには、昔から基本クラスという便利な機能がある。これにC++のテンプレートを組み合わせればボイラープレートコードをコピペして一部変更という不毛な処理を人間がする必要はない。そして、コンパイル時に解決できる問題はコンパイル時メタプログラミングで解決できる。

そして、C++の言語機能に不満があるのであればC++標準化委員会に出てきて議論するべきだ。例えばC++17にはメモリ解放処理で何もしない、単なるポインターを加算して返すだけのメモリ確保ライブラリのモノトニックバッファーリソースが入った。C++20には、ソート済みの連続したストレージで実装された連想コンテナーのflat_map/flat_setや、歯抜けを許す連続したストレージで実装したvectorのようだが中間要素の削除が早いcolonyなど、コルーチン、スタックフルコンテキストスイッチライブラリなど、ゲーム用途にも便利な新機能がたくさん提案されている。他にも、this_typeで解決したい問題にも適用できる、静的リフレクション機能も活発に議論されている。C++を活用するのであればC++に貢献すべきだ。

2017-11-08

C++標準化委員会の文書: P0586R0-P0649R0

P0586R0: Safe integral comparisons

2つの整数型の値を安全に比較するためのライブラリの提案。

2つの異なる整数型の値を比較する時、符号が違ったり、一方がもう一方の表現できる範囲ではない場合、人間にとって不自然な結果になる。安全に比較するためには様々な符号や暗黙の型変換の考慮が必要だが、それを正しく書くのは面倒だ。なので標準ライブラリがほしい。

P0593R1: p0593r1: Implicit creation of objects for low-level object manipulation

以下の現行規格では未定義の挙動となるコードの挙動を規格で定義する提案。

struct X { int x ; } ;

int main()
{
    X * p = (X *) malloc( sizeof(X) ) ;

    p->x = 0 ; // 未定義の挙動

    free( p ) ;
}

このようなコードはC言語ではよく書かれるが、C++では未定義だ。構築されていないオブジェクトへのアクセスは未定義の挙動だ。このコードはオブジェクトを構築していない。したがって挙動は未定義だ。

しかし、現実を見ると、プログラマーはこのコードが動くことを期待しているし、現実のC++コンパイラーはこのコードの挙動について一致している。規格は現実を追認すべきだ。

すると、どのような型ならば制限を緩和するかということになるが、構築や破棄にあたってコードが実行されない型ならばよい。これには、スカラー型、配列型、トリビアルなコンストラクターとデストラクターを持つクラス型が当てはまる。

[PDF] P0609R1: Attributes for Structured Bindings

構造化束縛に属性を記述できる文法を追加する提案。

auto [a, b [[attribute]], c ] = e ;

[PDF] P0624R1: Default constructible stateless lambdas

stateless lambdaによって生成されるクロージャーオブジェクトをデフォルト構築可能にする提案。

auto f = (){} ;
decltype(f) g ; // OK
g() ; // OK

stateless lambdaならばクロージャーオブジェクトをデフォルト構築しても問題になることはない。クロージャーオブジェクトがデフォルト構築可能になることで、より汎用的に関数オブジェクトとして使いまわせる。

[PDF] P0631R1: Math Constants

数学定数を追加する提案。

ヘッダーファイルは既存のヘッダーファイルに追加するのであれば<cmath>か<numeric>、新しいヘッダーファイルにするのであれば<math_constants>が提案されている。

さて、数学定数はstd名前空間スコープの下に宣言されるわけだが、これは問題がある。というのも数学定数にはeといった小文字一文字の名前もあるので、以下のようなコードは壊れる。

using namespace std ;
int e ;

これは自業自得と言えば自業自得だが、とはいえ小文字一文字という名前はstd名前空間下であっても危険すぎる。

そのため、e_vのような形にするか、あるいはstd::math_constants下に置くという提案がされている。

提案では数学定数は変数テンプレートの形を取る。

template < typename T > inline constexpr T e ;

これにより任意の型に対応できる。

P0634R1: Down with typename!

依存名が型を意味するときにはtypenameを書かなければならないが、文脈上型しか書けない場所には書かなくてもすむようにする提案。

template < typename T >
auto f( T::type ) -> T::type
{
    using t = T::type ;
    new T::type ;
    static_cast<T::type *>(nullptr) ;
}

template < typename T >
struct A : T::type
{
    T::type t ;
} ;

現在の標準規格では以下のように書かなければならない。


template < typename T >
auto f( typename T::type ) -> typename T::type
{
    using t = typename T::type ;
    new typename T::type ;
    static_cast<typename T::type *>(nullptr) ;
}

template < typename T >
struct A : T::type
{
    typename T::type t ;
} ;

大変だ。

P0636R2: Changes between C++14 and C++17

C++14からC++17の間の変更点。

[PDF] P0642R1: Structural Support for C++ Concurrency

構造化プログラミングがループをパターン化して簡単に書けるようにしたように、並列処理をパターン化して簡単に書けるようにした並列処理に対する構造化サポートのためのライブラリの提案。

P0644R1: Forward without forward

forwardを書かずにforwardする提案。

Perfect Forwardingはだるい。例えば関数オブジェクトFuncに引数Argsを渡して戻り値を返す転送関数をPerfect Forwardingで書く場合

template < typename Func, typename ... Args >
decltype(auto) f( Func && func, Args && ... args )
{
    return std::forward<Func>(func)( std::forward<Args>(args)... ) ;
}

これをラムダ式で書く場合

auto f = []( auto && func, auto && ... args ) -> decltype(auto)
{
    return std::forward<decltype(func)>(func)( std::forward<decltype(args)>(args)... ) ;
}

とてもだるい。

そこで、この提案ではオーバーロード不可能な単項operator >>を追加することにより、適切なforwardingを行う昨日を提案する。

template < typename Func, typename ... Args >
decltype(auto) f( Func && func, Args && ... args )
{
    return (>>func)( >>args... ) ;
}

auto g = []( auto && func, auto && ... args ) -> decltype(auto)
{
    return (>>func)( >>args... ) ;
}

だいぶ楽になった。

[PDF] P0649R0: Other Product-Type algorithms

構造化束縛で分解できる型をproduct typeと呼び、その分解して得られる値を得るためのライブラリがP0327R2で提案されている。この提案は、product typeに対するtuple風アルゴリズムの提供だ。

たとえばfor_each

int main()
{
    std::tuple t(1, 3.14, "hello") ;

    std::product_type::for_each( [](auto x){ std::cout << x << '\n' ; }, t ) ;
}

構造化束縛できるあらゆるproduct typeに使えるfor_eachだ。他にも様々なアルゴリズムが提案されている。Boost.FusionやBoost.Hanaからアイディアを得ている。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-11-06

C++標準化委員会の文書: P0533R1-P0573r2

[PDF] P0533R1: constexpr for <cmath> and <cstdlib>

algorithmをconstexpr化する提案で分離されたcmathとcstdlibのconstexpr化についての提案。組版がクソで読む気がしないが、一般的な算術演算子だけで実装できるものはconstexpr化できる。errnoの書き換えはconstexprではできないが、constexprの文脈で評価されたときの挙動を規定すればconstexpr化できる。

[PDF] P0534R3:call/cc (call-with-current-continuation): A low-level API for stackful context switching

いわゆるcallccを実現するためのスタックフルなコンテキストスイッチを実現するための低級ライブラリの提案。コルーチン提案よりよっぽどわかりやすいのでこっちのほうがいい。

P0539R2: A Proposal to add wide_int Class

Nビットの整数型を表現するwide_int<N>の提案。

より大きな整数型の需要は年々高まるばかりで、GCCとClangには__int128型が存在する。将来的には256bitなどのより大きな整数型が出てくることは想像にかたくない。そこで、大きなサイズの整数型を汎用的に表現する方法がほしい。

この提案では2の乗数の整数型しか扱わないが、将来的には拡張できる余地を残す。

P0546R1: P0546r1 : Span - foundation for the future

配列に範囲外チェックを行いつつアクセスできるストレージを所有しないライブラリspanの提案。

[PDF] P0549R2: Adjuncts to std::hash

ある型Tが有効なstd::hash<T>を持つかどうか調べるis_enabled_hash<T>、CVリファレンス修飾子を取り除いた型が有効なハッシュを持つかどうか調べるhash_for<T>、そしてハッシュ値を得るhash_value<T>(T && t)、ハッシュが例外を投げないか返すis_nothrow_hashable<T>の提案。

[PDF] P0551R1: Thou Shalt Not Specialize std Function Templates!

標準ライブラリの関数テンプレートはユーザーが特殊化してはならないというルールの追加。なぜならば、ろくな結果にならないから。

P0561R2: An RAII Interface for Deferred Reclamation

リーダーライターロックのパターン、つまりあるオブジェクトの値を読むリーダーがリーダーロックをして値を読む。アップデーターは新しいメモリを確保して差し替えることで値を更新する。リーダーロックはアップデーターを妨げない。メモリの解放は最後のリーダーロックが外れて問題ないときに行う。

このようなパターンを実現する方法として、リファレンスカウント、RCU、ハザードポインターといった方法が考案されていて、実際標準ライブラリに入れるべく提案もされている。問題は、提案は個別の実装方法に特有の低級な操作を提供している。本提案は、このパターンを実現する実装方法によらない汎用的な高級APIを提案する。

たしかにほしい。

[PDF] P0566R3: Proposed Wording for Concurrent Data Structures: Hazard Pointer and Read-Copy-Update (RCU)

ハザードポインターとRCUの文面案。もともと別の提案だったが似通った機能を提供するため、文面案を一緒にすることにしたとのこと。

P0571R1: p0571r1: Type Requirements for <numeric> Algorithms

<numeric>の一部のアルゴリズムに型要件が曖昧な部分があったので修正する。例えばaccumulateなどのアルゴリズムで、内部で使われる一時オブジェクトの型がどうなるか曖昧で実装の差異が生じていた。

P0573R2: Abbreviated Lambdas for Fun and Profit

省略ラムダの提案。

ラムダ式の本体として=> 式と書けるようになる。=>の場合、戻り値の型推定は-> decltype(auto)扱いになり、 例外指定もnoexcept(式)扱いになる。=>の場合、引数の型を省略できる。その場合auto &&と書いた扱いになる。


std::sort( b, e, [](a,b) => a < b ) ;

このコードは、


std::sort( b, e, []( auto && a, auto && b ) noexcept(a < b) -> decltype(auto){ return a < b ; } ) ;

と書いたものと同じ意味になる。

ほしい。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-11-05

VimConf 2017に行ってきた

以下で告知されているVimConf 2017に行ってきた。

vim-jp » VimConf 2017を開催します

私はVimを毎日使っているし、実際このブログ記事もNeovimで書いているが、肝心のVim力はさほど高くない。私はHJKLではなくArrow Keyを使うし、マウスも使う。大抵のテキスト編集作業はInsert Modeで行う。ノーマルモードで行う作業はペースト(これも面倒なのでInsert Mode内でCtrl+Rを使うこともしばしばあるのだが)やgJ、数行の自作の関数によるHTMLでエスケープが必要な文字のエスケープとか、ブログ記事をBloggerで公開するときに本文やタイトルをコピーしたり、Bloggerへのリンクを挿入したりする作業だ。その他には:makeも使っているが、これは別にVimとはあまり関係がない。人から「でもあなたはoを使っているでしょう。他のエディターにはなかなか見かけない便利な機能です」と言われたことはあるし、実際oは使っているが、oはVimがモードを持つから存在するだけで、モードを持たないテキストエディターならばoはいらないのではないかと思う。

そんな私がなぜVimConf 2017に行ってきたかというと、たまたま私が雇用されている会社、ドワンゴがVimConf 2017のスポンサーになっていたため、スポンサー枠がひとつ余っていたのだ。

さて、会場の空気はと言うと、だいぶ常人離れしていて、毎朝Vimをビルドするのは当たり前という人がゴロゴロいた。

発表者と発表に使ったスライド資料の一覧を記したタイムテーブルがどこかにあればいいのだが、そういう便利なものが見当たらないので、仕方なく記憶を頼りに書く。

haya14busaの自分のVimに関する活動史についての発表、これは特に大した印象が残らなかった。

fatihのvim-goの発表。vim-goとはvimをgo開発環境にするプラグインだ。その機能はgoの実装をインストールする機能に始まり、テストでcoverageされた部分のコードをハイライトする機能まであり、なかなか良さそうだ。

デバッガーのサポートは現状のvimでは難しいが、LSPへの対応により状況は変わるだろうとの期待がある。

VimConf 2017では昼になかなか豪華なすき焼き弁当がでた。壇上にmattnとk_tanakaとkaoriyaが上がって弁当を食べるところを眺めながら弁当を食べた。

昼の休憩の間に色々と参加者に対する質問が行われたが、Microsoft Windowsを使っている参加者は数えるほどしかいなかった。WindowsdもMacOSdもGNU/LinuxでもないOSを使っているものはいるのだろうかと思ったが、Chrome OSを使っている者がいた。少し期待していた答えとは違う。Wayland上でvimを使っているのは、私ともうひとりしかいなかった。ただ、私ももうひとりも、Waylandは使っているものの、vim自体は端末エミュレーター上で動かしているため、果たしてそれはWaylandで使っていると言えるのか疑問だ。

cocoponのcolor schemeを作成する発表。color schemeを作るための割と全てが解説されていた。どうやらcocoponによると、我々プログラマーは一日のうち8時間は眠り、8時間を日常の雑事や余暇に使い、8時間は働いている。すなわち、我々は一日のうち8/24にあたる33%の時間はcolor schemeを見ていることになる。したがってcolor schemeは極めて重要だ。通勤途中に急にcolor schemeを眺めたくなることがあるらしいので、Vimのcolor schemeを比較できるWebサイトを作り、モバイル対応もさせているらしい。

t9mdによるAtomでVim風の操作を実現するVMPの発表。Vimの操作はテキストバッファーに対する変更であり、その文法はoperator + targetであるといったVim操作の本質の話、後半ではVim操作のデモ(Atomで動くVMPによるデモ)が行われた。

私はVimでtext objectというものは使っていなかったのだが、熟練のvimmerはyipとvipが息を吐くように行えるのだという。AtomのVMPではtext objectを入力すると対応する部分がフラッシュするようになっていて、UIフィードバックがあるので、操作しやすくなっている。これはVimにも欲しいところだが、AtomはElectronで実装されていれるがためにCSSを数行書くだけでできる実装が、Vimでは難しいとのことであった。

text objectは覚えたいところだ。

senopenはPOSIX原理主義者として移植性の高い.vimrcの記述方法についての発表。移植性の高い.vimrc、つまりどんな環境に持っていっても変更無く正しく動作する.vimrcはどう書けばいいのか。まず、現実の環境で対応しなければならないVimのバージョンの下限を調べる。どうやらある有名なクラウドサーバーではCentOS 5.5をサポートしているらしく、するとVim 7.0を下限とすればよい。また、WindowsとPOSIXではファイルパスのフォーマットが違う。文字コードが違うといった問題があり、これに正しく対応するための記述方法が示された。

暗黒美夢王ことShougoMatsuは暗黒の力によって作られているスニペットプラグインの発表。スニペットプラグインとは何か。スニペットプラグインの実装方法とその長短について。新しいdeoppet.nvimではVimにスニペットプラグインを作りやすくするための機能を追加することにより、パフォーマンスの問題を解決したなどと話していた。今回は歌はなかった。

dice_zuは、ordinaryな人間がVimに貢献する方法について発表。どうやら彼の定義するところのordinaryには、毎朝Vimをビルドすることが含まれるらしい。

p_ckはVimのシンタックスハイライトを記述する新しい方法について発表。既存のシンタックスハイライトの記述方法がいかにダメかという話をしていた。

lambdalisueはgitのVimフロントエンドであるgina.vimについて発表。この発表を聞いた我々は、スーパーVimマン2になれるそうだ。スーパーVimマン2とは、CLIツールをVimで代替するスーパーVimマンを超えた人のことだそうだ。ちなみに、スーパーVimマン2を超えたスーパーVimマン3が存在し、これはデスクトップアプリをVimで代替する超人のことだそうだ。肝心のgina.vimだが、git logをVimで表示することができ、かつコミットを選択するとその変更内容を別枠で表示するなどの機能があり、たしかに便利そうだとは思った。しかし私はgitにVimフロントエンドが必要だとは思わない。

VimConf 2017は国際カンファレンスという位置づけであり、発表の半分以上は英語で行われ、英語と日本語の同時通訳がついていた。私は英語は英語として聞いていたので日本語通訳は聞いていなかったのだが、どうも日本語通訳はだいぶ独創的な翻訳でなかなか面白かったらしい。何でもアレがソレしてヤバイとか。

VimConfの規模をもっと大きくして来年も行うために、スポンサーを募集しているそうだ。

2017-11-01

C++標準化委員会の文書: P0399R0-P0515R2

[PDF] P0399R0: Networking TS & Threadpools

ネットワークライブラリーはスレッドプールを使いたいがどのようになるのかということを大雑把に説明したスライド資料。

[PDF] P0424R1:Reconsidering literal operator templates for strings

文字列リテラルに対するユーザー定義演算子で文字列を(harT const *, std::size_t)で取れるようにする提案。

template < typename CharT, CharT const * str, std::size_t length >
auto operator "" _udl() ;

auto x = "abcd"_udl ;

[PDF] P0429R2:A Standard flat_map

ソート済みの連続したストレージで実装されるset/mapの実装。flat_set/flat_mapの提案。

既存のset/mapはノードベースのバイナリーツリーによる実装で、これは現代のメモリが凄まじく遅くキャッシュミスが悲惨なことになるアーキテクチャではとても遅い。連続したストレージはキャッシュが聞きやすく、キャッシュが聞いたメモリ領域への読み書きは高速に行える。すると、ソート済みの配列をバイナリサーチする実装のほうが、現実のアーキテクチャでは速度の点で有利だ。

入ってほしい。

P0443R3:A Unified Executors Proposal for C++

実行媒体を表現するexecutorライブラリの提案

P0447R4: Introduction of std::colony to the standard library

歯抜けを許す連続したストレージ上に構築される要素の順序保証のないコンテナー、colonyの提案。

vectorのような連続したストレージ上に構築される要素の順序保証のあるコンテナーを考える。

std::vector v = {1,2,3,4,5} ;
// 中間の要素を削除
v.erase( v.begin()+2 ) ;

このコードは遅い。なぜかというと要素3を削除したあとに、要素3が構築されていたメモリー上に要素4をコピーし、要素4の場所には要素5をコピーして、間を詰めなければならないからだ。vectorでは最後尾以外の要素の削除は遅い。

では要素を詰めなければいいのではないか。eraseを行った後のコンテナーの中身が、{1,2,無効,4,5}となるデータ構造はどうだろうか。要素にアクセスする際は無効になった要素を読み飛ばして無視する。要素2と4の間に要素を挿入すると、無効化されていたストレージに要素が追加される。さらに、位置を指定せずに挿入すると、無効化されているストレージのどこかに要素が追加される。

colonyは要素の順序を保証しないが、中間の要素が定数時間で行える特性を持つコンテナーだ。

なお、リファレンス実装では、無効要素の読み飛ばしは要素ごとに無効フラグを持つのでもなく、ビットマップで無効フラグを持つのでもなく、jump-counting skipfieldと呼ばれる手法を用いるらしい。これによって連続した無効要素を読み飛ばすのがキャッシュ効率よく行えるそうだ。

The Advanced “Jump-Counting” Skipfield Pattern

[PDF] P0461R2: Proposed RCU C++ API

同期処理のためのRCUライブラリの提案。

P0479R2: Attributes for Likely and Unlikely Statements

起こりうる可能性の高さと低さを指定する属性、[[likely]]と[[unlikely]]の提案。

例えば分岐時に実行される可能性の低いブランチに指定することで、コンパイラーの最適化を助けることができる。


if ( is_error )
[[ unlikely]] {
// めったに起こらないエラー
}

GCCとClangは独自拡張として__builtin_expectという同等機能のcompiler intrinsicsを提供している。MozillaやChromiumのような現実のコードでも使用されている。

現実にどのように活用されるかというと、例えばキャッシュを多用するアーキテクチャでは、コードブロックの配置の場所によってキャッシュされるかどうかが変わるので、分岐時により実行される可能性の高いコードをキャッシュされやすい領域に配置することができる。x86では、隣接する複数の命令は内部で単一の命令にまとめられたりするので都合が良い。

[PDF] P0506R2: use string_view for library function parameters instead of const string & / const char *

string_viewを標準ライブラリで文字列を受け取る引数の型として積極的に使っていこうという提案。std::string const &やchar const *で受け取るよりよい。

[PDF] P0514R2:Efficient waiting for concurrent programs

スレッド所有がないmutexとして、atomic_semaphoreの提案。atomic操作にatomic_waitやatomic_notify_oneも追加。そしてcondition_variable_atomicも提案。

[PDF] P0515R2:Consistent comparison

C++における比較をより厳密にするための新しい演算子、operator <=>の提案。

operator <=>(a, b)はa, bの大小関係と等号関係に応じて適切な3値のいずれかを返す。また、strong order, weak order, partial order, strong equality, weak equalityも型で表現する。

これでだいぶ比較がマシになる。今まで同じ演算子にごちゃまぜにしすぎていた。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-10-30

C++標準化委員会の文書: P0260R2-P0356R2

P0260R2: C++ Concurrent Queues

名前通り、競合なく複数のスレッドからアクセスできるconcurrent queueの提案。ヘッダーファイルは<conqueue>、キュー本体の名前はbuffer_queue。

P0275R2: A Proposal to add Classes and Functions Required for Dynamic Library Load

C++にshared library(WindowsではDLLと呼ばれている)機能を追加する提案。

shared library機能は広く使われているが、現在C++規格はshared libraryを直接サポートしていない。


// libearth.soという名前のshared libraryファイルを読み込む
shared_library lib("libearth.so") ;
// シグネチャがint(std::string)でシンボル名がquestionの関数へのポインターをlibearth.soから得る
auto ptr = lib.get_if<int (std::string)>("question") ;

int result = ptr("the answer to life the universe and everything"s) ;

[PDF] P0303R0: Extensions to C++ for Short Float Type

floatより小さいshort floatの提案。

short float x = 1.0sf ;

規格はshort floatのサイズとフォーマットを規定していないが、背景にはIEEE 754-2008のhalf precision floating pointであるbinary16を念頭に置いている。

[PDF] P0315R3: Lambdas in unevaluated context

lambda式を未評価式の中でも使えるように制限緩和する提案。ただし、外部リンケージを持つ関数のシグネチャーにlambda式が含まれないように注意深く制限はする。

[PDF] P0323R3: Utility class to represent expected object

expected<T,E>の提案。このクラステンプレートはT型の値を保持することが期待されているが、T型の値を保持できないときには、期待通りではないエラーの意味を示すためにE型の値を保持する。

ある型の値を用意できないときに、値を保持していないことを示すためには、optional<T>が使えるが、エラーの詳細な情報を伝えたいときには、エラー通知用の型の値を渡したい。そのために、ここで提案しているある型かエラー型の値を保持するexpectedが使える。

[PDF] P0327R3:Product types access

構造化束縛で分解できる型をすべて分解することができる機能の提案。ようするにジェネリックなtuple_size/tuple_element/getの提案だ。

コア言語でやる場合、size/element/getの機能を提供する演算子を提供することになるが、キーワードの追加が必要になる。そしてtraitsでカスタマイゼーションポイントを提供しているライブラリでは使えない。

ライブラリでやる場合、現状のコア言語仕様ではビットフィールドに対応できない。

これは必要だ。

[PDF] P0330R1:User-Defined Literals for size_t

std::size_tに対するユーザー定義リテラル。zu。

#include <cstddef>
using namespace std::support_literals ;

// std::size_t
auto x = 0zu ;

これはほしい。std::support_literalsではなく、すべての標準ライブラリのユーザー定義リテラルを使えるようになるstd::literalsでもよい。

P0332R1: P0332r1 : Relaxed Incomplete Multidimensional Array Type Declaration

mdspan(多次元配列スパン)のために不完全配列の宣言の文法の制限を緩和する提案。添字数を一切書かなくてよくなるので、int[][][]などと書けるようになる。

これにより、以下のようにmdspanが書けるようになる。

// 現在提案中のmdspanの宣言
// 3次元テンソル型
using tensor = std::mdspan<double,std::extents<std::dynamic_extent,std::dynamic_extent,std::dynamic_extent>> ;

// この提案が入れば書けるようになる上と同等の宣言
using tensor = std::mdspan<double[][][]> ;

楽になる。

しかし、連続したストレージを所有しない多次元配列に見せかけるラッパークラスとして、mdspanという名前は本当に通じるのだろうか。これはもともとarray_viewと呼ばれていたが、viewという用語は正しくないと物言いがついたために、spanになった。mdspanとは、Multi-Dimentional spanだ。果たして日本語でスパンといって伝わるのだろうか。

ただ、考えてみれば、ラッパーとかサンクといった用語も当初は日本人に馴染みのない用語だったはずで、イテレーターやデリゲートやクロージャーといった用語も最初は聞き慣れない用語だったはずだ。かつてはアドレスを番地と言ったものだ。

P0355R4: Extending <chrono> to Calendars and Time Zones

chronoをカレンダーとタイムゾーンに対応させる提案。これでようやくC++で日付処理が可能になる。

P0356R2: Simplified partial function application

std::bindにかわる新しいbind_frontの提案。この提案ではstd::bindのdeprecated化を提案している。

引数を5個とる関数fが以下のようにあるとして、

int f( int, int, int, int, int ) ;

これの第一引数だけ指定して残りを受け取る引数4個の関数を作り出す場合、std::bindでは以下のように書く。

bind( &f, 42, _1, _2, _3. _4 ) ;

わりとだるい。そもそも実引数の数を把握してそのとおりに書くのがとてもだるい。

lambda式ならどうか。

[]( auto && ... args ) { return f( 42, std::forward<decltype(args)>(args)... ) ; } ;

割と難しい。このようにC++14のlambda式を使いこなし、かつPerfect Forwardingも完璧にスラスラと書けるようになる頃には、京都で9年ぐらいニートした挙句にC++の参考書を出版するようになっているか、岡山で陶芸でもしている。

bind_frontは先頭の引数だけを指定することに特化したライブラリだ。以下のように書ける。

bind_front( &f, 42 ) ;

まあ、わかりやすいとは思うが、そう都合よく先頭だけ引数を指定したい場合があるだろうか。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-10-27

C++標準化委員会の文書: P0009R4-P0237R9

2017年10月分の文書が公開された。この8ヶ月ほど、C++17参考書の執筆に注力していて文書のレビューを怠っていたが、さっくりと解説して、次はC++入門書の執筆に移りたい。

P0009R4: P0009r4 : Polymorphic Multidimensional Array Reference

改定に改定を重ねてわけのわからないことになっている連続したストレージに対して多次元配列風のアクセスを提供するラッパーライブラリ。もともとarray_viewだったが、今ではmdspanという一見してわけのわからない名前になっている。これは、viewという用語が適切ではないという違憲によって変更された。

もともとレイアウト指定はなかったのだが、レイアウト指定は絶対に必要だという違憲があって追加された。C/C++風の末尾の次元がメモリ上で連続しているレイアウトと、FORTAN風の先頭の次元がメモリ上で連続しているレイアウト、そして、subspanで一部を切り出したときにメモリが連続していないことを示すレイアウトがある。

割と一見してコードの意味がわからなくなりそうな設計をしている。

P0037R4: Fixed-Point Real Numbers

markdownで書かれている。ほー、いいじゃないか。こういうのでいいんだよ。こういうので。焦るんじゃない。俺はPDFで読みたくないだけなんだ。

固定少数点数ライブラリfixed_point< Rep, Exponent>の提案。

fixed_point< uin32_t, -12 > a(1), b(2) ;

// 0.5
auto c = a / b ;

fixed_point<Rep, Exponent>の指数はpow(2, Exponent)となる。最小値はnumeric_limits<Rep>::min() * pow(2, Exponent)、最大値はnumeric_limits<Rep>::max() * pow(2, Exponent)

面白いことに、クラステンプレートのコンストラクターからの実引数推定と実引数推定ガイドを使った、初期化子の整数値からのExponentの推定機能がある。

auto a = fixed_point(0ul);
static_assert(is_same_v<decltype(a), fixed_point<unsigned long, 0>>);

Exponentは初期化子の整数値を表現できる最大の値が選ばれる。

また面白いことに、演算結果でRepやExponentが変わる。operator *ではRepが変わらないが、multiply/divideではRepも変わる。


// 安全に演算結果を表現できる型に変わる。
auto f = fixed_point<uint8_t, -4>{15.9375};
auto p = multiply(f, f);
// p === fixed_point<uint16_t, -8>{254.00390625}

// operator *だとRepが変わらない。
auto f = fixed_point<unsigned, -28>{15.9375};
auto p = f * f;
// p === fixed_point<unsigned, -56>{0}

// Repも変える
auto f = fixed_point<unsigned, -28>{15.9375};
auto p = multiply(f, f);
// p === fixed_point<uint64_t, -56>{254.00390625}

これは除算の場合も同じだ。


fixed_point< uint32_t, -16> a(1), b(2) ;
auto c = a / b ;
// c == fixed_point< uint32_t, 0>(0)

auto d = divide( a, b ) ;
// d == fixed_point<uint64_t, -32>(0.5) ;

Exponentの変化は、乗算の場合それぞれのExponentの加算、除算の場合は減算になる。

わかりやすいようなわかりにくいような。最悪の場合を想定しすぎなような。

exponentが小さくてもすむ型であれば最初から小さくしとけというのはわかるが、あまりにも目まぐるしくExponentが変わりすぎる。文書は組み込み型のDrop-in Replacementを意図して設計されているというが、以下の関数テンプレートに渡してエラーになるようなライブラリが本当にdrop-in replacementたりえるだろうか。

// 値を半分にして返す関数
template < typename T >
T half( T x )
{
    return x / T(2) ;
}

このコードは、どんなfixed_pointを渡しても、小数部が切り捨てられる。

P0096R5: Feature-testing recommendations for C++

機能テストマクロがC++17に対応。

P0124R4: Linux-Kernel Memory Model

Linuxカーネルのメモリーモデルの解説。

[PDF] P0196R4: Generic none() factories for Nullable types

ポインター、optionalなどnullableな型に使えるジェネリックなnone()の提案。

[PDF] P0201R2:A polymorphic value-type for C++

polymorphic_value<T>の提案。コピー時にT型を基本クラスとするpolymorphic typeをディープコピーしてくれるクラス。ディープコピーをするためにT型は何か特別なclone関数を用意する必要はない。


struct Base { int x ; } ;
struct Derived : Base { int y ; } ;

polymorphic_value p1( new Derived ) ;

// 値がディープコピーされる
polymorphic_value p2 = p1 ;
// Derivedのデストラクターが呼ばれる

アロケーターの指定がないのはなぜだろう。

P0202R2: A Proposal to Add Constexpr Modifiers to Functions in <algorithm> and <utility> Headers

algorithmとutilityをconstexprにする提案。

前の提案はcstring(主にmemmove/memset/memcmp)もconstexprにする提案だったが、cstringに手を入れるのは見送られた。かわりに、compiler intrinsicsなどの方法で実現する方向に調整された。

さて、既存のC++標準ライブラリの実装を見てみると、libstdc++はcompiler intrinsicsを使っているのでこのままconstexprに対応可能で、libc++はcstringを使っているので書き換えが必要だ。また、libc++はgotoを使っているのでこの点でも書き換えが必要となる。

stable_partition, inplace_merge, stable_sortは、メモリ確保、placement newによる構築、unique_ptrの使用があるので、constexprからは除外する。

shuffleとsampleはuniform_int_distributionを使うため、constexprからは除外する。

[PDF] P0214R6: Data-Parallel Vector Types & Operations

SIMDプログラミングのためのベクトル型の提案。なんだかすごく使いづらそうな設計だ。

[PDF] P0233R6: Hazard Pointers: Safe Reclamation for Optimistic Concurrency

ハザードポインターライブラリの提案。ハザードポインターはIBMのMaged M. Michaelによって考案され、IBMのMaged M. Michaelによって特許申請された。最終的に特許申請は取り下げられた。ところでこの提案文書の執筆者はIBMのMaged M. Michaelである。この提案が特許汚染されていないかどうか注意深い検証が必要だ。

ISO国際標準規格には特許汚染された技術を持ち込むべきではない。ましてや特許汚染の前科がある人間によって提案された機能は眉に唾をつけてみるべきだ。

[PDF] P0237R9: Wording for fundamental bit manipulation utilities

Nビットの符号なし整数型をN個のbit要素が入っているコンテナーだとみなし、ビットに対するイテレーターを提供するイテレーターアダプターライブラリ、bit_iteratorの提案。

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-10-23

インデックス付きrange-based forに必要なのはネストされた構造化束縛ではなくてif constexprだった

親愛なるC++読者諸君、私がC++17を流暢に使いこなす江添亮である。前回、ネストされた構造化束縛がほしいと書いた。

本の虫: インデックス付きRange-based for文を実装したらネストされた構造化束縛が欲しくなった

このブログを公開してすぐ、同僚からwith_index側でpairを開けばいいのではないかと言われた。たしかにそのとおりだ。早速実装した。その結果、以下のコードが通るようになった。


int main()
{
    std::map<int,int> m = { {1,1}, {2,2},{3,3} } ;

    for ( auto[ i, key, mapped ] : with_index(m) )
    {
        std::cout << i << key << mapped ;
    }
}

その実装の骨子は以下の通り。


template < typename T >
struct is_pair
    : std::false_type { } ;

template < typename T1, typename T2 >
struct is_pair< std::pair<T1, T2> >
    : std::true_type { } ;

template < typename T >
constexpr bool is_pair_v = is_pair<T>::value ;

template < typename Iterator  >
class with_index_iterator
    : public Iterator
{

public :
    auto operator *() const noexcept
    {   // ここが重要
        if constexpr ( is_pair_v< typename std::iterator_traits<Iterator>::value_type > )
        {
            auto & pair = *static_cast<Iterator const &>(*this) ;
            return std::make_tuple( i, pair.first, pair.second ) ;
        }
        else {
            return std::make_pair( i, *static_cast<Iterator const &>(*this) ) ;
        }
    }
} ;

重要なのはif constexprだ。constexpr ifによって、わざわざクラステンプレートを書かずともコンパイル時条件分岐ができるようになった。これでメタプログラミングがとても書きやすくなった。

なお、この実装では以下のようなコードは通らない。

int main()
{
    std::map<int, std::pair<int,int> > m = { {1,{1,1}}, {2,{2,2}},{3,{3,} } ;

    for ( auto[ i, key, m1, m2 ] : with_index(m) )
    { }
}

再帰的なテンプレートメタプログラミングをすることにより、何段階にネストされようとも開くことができるwith_indexは実装可能だ。その実装は読者への課題とする。

また、構造化束縛がpairの他にも対応しているtupleやtuple_sizeとtuple_elementとgetに対応した型のネストへの対応も、読者への課題とする。

int main()
{
    std::map<int, std::tuple<int,int> > m = { {1,{1,1}}, {2,{2,2}},{3,{3,} } ;

    for ( auto[ i, key, m1, m2 ] : with_index(m) )
    { }
}

問題は、構造化束縛が対応しているクラスを開くことができない。


struct user_defined_pair
{
    int x ;
    int y ;
} ;

std::map< int, user_defined_pair > m = { {1,{1,1}}, {2,{2,2}},{3,{3,} } ;

これはどうしようもない。とはいえ、実用上はこれでいいのではないか。

with_indexの完全な実装は以下の通り。

template < typename T >
struct is_pair
    : std::false_type { } ;

template < typename T1, typename T2 >
struct is_pair< std::pair<T1, T2> >
    : std::true_type { } ;

template < typename T >
constexpr bool is_pair_v = is_pair<T>::value ;



template < typename Iterator  >
class with_index_iterator
    : public Iterator
{
    std::size_t i = 0 ;

public :

    with_index_iterator( Iterator iter )
        : Iterator( iter )
    { }

    auto & operator ++()
    {
        ++i ;
        this->Iterator::operator ++() ;
        return *this ;
    }

    auto operator *() const noexcept
    {
        if constexpr ( is_pair_v< typename std::iterator_traits<Iterator>::value_type > )
        {
            auto & pair = *static_cast<Iterator const &>(*this) ;
            return std::make_tuple( i, pair.first, pair.second ) ;
        }
        else {
            return std::make_pair( i, *static_cast<Iterator const &>(*this) ) ;
        }
    }

} ;

template < typename Range >
class with_index
{
    Range & range ;

public :
    with_index( Range & range )
        : range(range)
    { }

    auto begin() const
    {
        return with_index_iterator{ std::begin(range) } ;
    }
    auto end() const
    {
        return with_index_iterator{ std::end(range) } ;
    }

} ;

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

インデックス付きRange-based for文を実装したらネストされた構造化束縛が欲しくなった

親愛なるC++14以前の古臭いC++を書く読者諸君。疑う余地なく、私がC++17を華麗に使いこなす江添亮である。

私のC++17参考書も余裕で書き終わり、後は出版を待つだけだ。私の中で、C++というのはもうすっかりC++17になってしまい、以前のC++のことは忘れてしまった。いまさらC++14のような使いづらい時代遅れのC++を書きたくはない。時代はいよいよC++17が当然になったと言えよう。

私のC++17参考書はGPLv3という自由なライセンスで提供される究極の電子書籍だ。これから紙書籍、プロフェッショナルに組版された電子書籍も出版される予定になっているので、読者は読まないという法はない。

EzoeRyou/cpp17book: C++17参考書

ところで、インデックス付きRange-based for文がほしいとさえずっていた。というのも、レンジの要素のイテレートを手で書きたくはないし、インデックスのインクリメントも手で書きたくないからだ。

template < typename Container >
void f( Container & c )
{
    // 要素のイテレートは手動
    // インデックスのインクリメントは手動
    for (   auto i = std::size_t(0),
            iter = std::begin(c), end = std::end(c) ;
            iter != end ; ++iter, ++i )
    {
        // iはインデックス
        // *iterは要素 
    }
}

std::for_eachやRange-based for文を使うことにより、要素のイテレートは手で書かずにすむ。しかし、インデックスのインクリメントは依然として書かなければならない。

template < typename Container >
void f( Container & c )
{
    {
        std::size_t i = 0 ;
        for ( auto element : c )
        {
            // iはインデックス
            // elementは要素
            ++i ; // 手動インクリメント
        }
    }

    std::for_each( std::begin(c), std::end(c),
        [i = std::size_t(0)](auto element) mutable
        {
            // iはインデックス
            // elementは要素
            ++i ; 手動インクリメント
        } ) ;
}

これではfor文より読みやすさ、間違いにくさの点で悪化しているではないか。

ところで、C++17では構造化束縛が追加された。


// クラステンプレートのコンストラクターの実引数からの推定も追加された
std::pair p(1,2) ;
auto [a,b] = p ;
// 以下と同じ
// auto a = p.first ;
// auto b = p.second ;

構造化束縛は、もちろんRange-based for文でも使える。


int main()
{
    std::map<int,int> m = {{1,1},{2,2},{3,3}} ;

    for ( auto [key, mapped] : m )
    {
        std::cout << key << mapped ;
    }
}

このコードは期待通りに動く。この程度のコードは、すでにC++17プログラマーである私にとってごく自然で当然のコードだが、未だに旧態依然のC++14以下にとらわれている読者には垂涎のコードだろう。

ということは、コンテナーをラップして、インデックスカウンターを持ち、operator ++でインデックスをインクリメント、operator *でstd::pair<std::size_t, reference>を返すようなラッパーを書けば、Range-based for文にインデックスが追加できるのではないか。

早速そのようなラッパー、with_indexを書いてみた。


int main()
{
    std::vector v = {1,2,3,4,5} ;

    for ( auto[ i, element ] : with_index(v) )
    {
        std::cout << i << element ;
    }
}

いける。これは使える。

しかし、問題がある。構造化束縛はネストできないので、std::mapに使うと以下のようになってしまう。

int main()
{
    std::map<int,int> m = { {1,1},{2,2},{3,3} } ;

    for ( auto[ i, pair ] : with_index(m) )
    {
        auto [key, mapped] = pair ;
        std::cout << i << key << mapped ;
    }
}

C++にもネストされた構造化束縛がほしい。

// C++ではない
int main()
{
    std::pair< int, std::pair<int,int> > p = { 1, {2,3} } ;

    // これがほしい
    auto [a, [b,c]] = p ;
}

ちなみに、with_indexの実装は以下の通り。

template < typename Iterator  >
class with_index_iterator
    : public Iterator
{
    std::size_t i = 0 ;

public :

    with_index_iterator( Iterator iter )
        : Iterator( iter )
    { }

    auto & operator ++()
    {
        ++i ;
        this->Iterator::operator ++() ;
        return *this ;
    }

    auto operator *() const noexcept
    {
        return std::pair<
            std::size_t,
            typename std::iterator_traits<Iterator>::reference >
        { i, *static_cast<Iterator const &>(*this) } ;
    }

} ;

template < typename Range >
class with_index
{
    Range & range ;

public :
    with_index( Range & range )
        : range(range)
    { }

    auto begin() const
    {
        return with_index_iterator{ std::begin(range) } ;
    }
    auto end() const
    {
        return with_index_iterator{ std::end(range) } ;
    }

} ;

ドワンゴ広告

ドワンゴは本物のC++プログラマーを募集しています。

採用情報|株式会社ドワンゴ

CC BY-ND 4.0: Creative Commons — Attribution-NoDerivatives 4.0 International — CC BY-ND 4.0

2017-10-20

Ubuntu 17.10にアップグレードした

Ubuntu 17.10がリリースされた。

ArtfulAardvark/ReleaseNotes - Ubuntu Wiki

今回のリリースでは、デスクトップ環境がUnityからGnomeに変わった。同時に、X.orgではなくWaylandに変わっている。

このため、Ubuntuのデスクトップ環境の使用感がだいぶ変わっている。まず、GnomeはUnity風の操作感を再現するために、やや手が入っている。具体的にはSuper+数字でランチャーに登録されているソフトウエアのウインドウを選択できたりする。

残念なことに、Global MenuやHUDは再現されていなかった。

Waylandに移行したので、日本語入力環境が大変不便になった。fcitxはWaylandに対応していないので使えない。使えないが、そのことは警告されないので、fcitxを使っているUbuntu 17.04からアップグレードすると、日本語が入力できなくなる。iBusに切り替える必要がある。iBusはキーボードレイアウトとかな漢字変換機能を持つIMEをごちゃまぜにしているので本当に使いづらい。しかも、変換候補のウインドウが、カーソル位置ではなく画面左上に出る。極めてつらい。

私は事前に調べているからいいものの、これは何も知らない人がアップグレードしたら日本語入力ができずに詰みそうだ。

特に興味深いパッケージのバージョンという点では、Linuxカーネルが4.13に、GCCが7.2.0に、Clangが4.0.1.6に、Neovimが0.2.0になった。

GCCとClangのバージョンが上がったので、これでfilesystemなどの一部のライブラリを除いて、どちらもC++17をある程度実装したコンパイラーになった。

ただし、現在libc++にはxlocale.hをincludeするという不具合がある。xlocale.hは標準のヘッダーではなくglibcの内部ヘッダーであり、しかもそのコメントには、"This file is not standardized, don't rely on it, it can go away without warning"と書いてある。

sourceware.org Git - glibc.git/commit

libc++がなぜxlocale.hをincludeしているのか全くわからない。実装を読んだが、単にincludeしているだけだ。なので、とりあえず空のxlocale.hファイルを作り、そのファイルへのディレクトリーを-Iで追加して対処した。

また、メインでは使っていないDellのLatitude E7470でUbuntuがうまく動かない問題は、Ubuntu 17.10でも解決しなかった。まずアップグレードが途中で失敗する。

DellのLatitude E7470でUbuntuがうまく動かない問題は、未だに原因がわからない。以下のような問題がある。

Live環境のブートが遅い。ログを見ると、pwconvが/etc/shadow-のパーミッションを0600に変更しようとしてエラーを出し、パッケージリストを読み込むのに時間を要し、regenerating SSL certificatesでまた時間を要する。放置しても絶対に進まず、キーボードを適当にワシャワシャ叩くと進む。まるで/dev/randomへのエントロピーが十分にたまるまで待っているかのような挙動をする。

初回ログイン時に数回画面が暗転する。

突然フリーズする。マウスカーソルは動くがそれ以外の操作を何も受け付けない。ttyの変更すらできない。文字入力をしているときにフリーズしやすい気がする。

cat /dev/urandomが何故か目視できるほど遅い。urandomなのに遅い。

grub-updateが遅い。

apt upgradeしたときの"procescing triggers for man-db"が遅い。

なので実用にならないのだが、一応維持している。Ubuntuの欠陥なのかDell Latitudeの欠陥なのか、個体の欠陥なのかわからないが、私は個体の欠陥だと思っている。しかし、memtest86+は何の問題もなく何パスも通るので、メモリではなさそうだ。また、ストレージへの読み書きも遅いわけではない。単純なベンチマークやストレステストで問題が見つからないのでよくわからない。