2009-10-31

古本まつり

11月30日より、百万遍知恩寺で、古本まつりが行われている。その初日に朝から出かけた。この前、神保町で買ってきた古本も、今昔物語を残すだけになってしまったのだ。

初日は、9時15分から、古本供養があるという話である。そういうわけで、8時に家をでて、半頃には境内に入った。みると、かなりの数の店が本を出しているようだ。これは期待できる。

さて、供養が始まった。私は、宗教にはあまり詳しくない。無論、古文を読むからには、日本古来の神道と伝来の仏教が入り交じった、あのカオスな宗教観を、ある程度知っていなければならないし、英語を学ぶからには、キリスト教もかじっておかなければならない。

百万遍知恩寺は、浄土宗である。浄土宗というのは、平安末期、法然という変わり者が、六字名号さえ唱えれば往生の素懐を遂げること間違いなしと謳ったのが始まりだ。今で言う、新興宗教である。これが、当時ものすごく流行った。この概念を更に推し進めたのが、親鸞だ。

さて、肝心の念仏は、かなりの部分が、南無阿弥陀仏を連呼するというものであった。また、浄土宗は、念仏の途中に、ある特徴的な言葉が入る。「夫おもんみれば、法然上人云々」という言葉だ。浄土真宗では、親鸞上人になる。また、供養の参列者全員で、六字名号を唱えながら、巨大な数珠をグルグル廻すという奇妙な儀式もあった。

母親のメールに曰く、

法然上人と熊谷直実はどこにでも出てくる
数珠廻しは京都ではよく見かける
地蔵盆では昔はどこでもしたけど
今は子供がいないからどうかな

数珠廻しには、子供が必要なのだろうか。なるほど、それで、供養に幼稚園児らしき団体がいたわけか。そういえば、以前、祇王寺に行った時、熊谷草と敦盛草が植えてあって、いくら平家物語ゆかりとはいえと、疑問に思った事だが、単に熊谷次郎直実と敦盛の話が人気なだけなのだろうか。

供養の終わりに、今回の古本まつりの全店で使える、200円割引券というものをもらった。なるほど、後生往生はともかく、現世利益はあったわけだ。

正座のしすぎで感覚の無くなった足を動かしつつ、開始を待つ。そういえば、正座をしたのは久しぶりだ。それほどつらくもなかったのだが。

開始と共に、皆、争いて本に群がる。まだ始まって五分もたっていないのに、すでに何冊もの巨大な本をかかえてる人がいる。美術書か何かだろう。

私は、特に急ぐ必要もなかった。というのも、私の目当ての本は、主に古文漢文なので、先を争う必要もないのだ。500円均一になっている本の山の中に、悪くない本がたくさん転がっていた。

源平盛衰記が、二種類の本で見つかった。しかも安い。以前、友朋堂文庫のものを見つけるのに、あれほど苦労したのに。なるほど、ある所にはあるらしい。印刷のかすれていないものが、安く売られていたので、買うことにした。

荻生徂徠の論語徴があった。全集の一部で、二冊組である。喜び勇んで値段を確認すると、一冊一万円以上した。これは高すぎる。

さて、チャリティーオークションを見ていると、普通に買ったらかなりの値段のする物が、かなりの安値で競り落とされていた。何しろ、オークションの前は数十人ぐらいしかいないし人がいないし、値段も上がりようがない。千円に満たない値段で競り落とされるのも多くあった。何か面白そうなものがないかと見ていると、何と、定本柳田國男集があるではないか。別巻五が欠けているだけで、あとは全部そろっている。これは欲しい。

残念ながら、そこでオークションの時間は終わり、残りは午後からということであった。

和綴じの実演をしていたので、それを見物したり、買った本を読んだりして、時間をつぶした。

最終日の特選オークションに出す品物が展示されているようなので、みてみた。普通の本は一切無く、掛け軸や絵が多かった。その中に、軍人勅諭や、体操規範、旧軍の教科書とみられる手のひらサイズの小冊子が、セットで売られていた。たしか、体操規範の冊子だけなら、売っている古本屋を知っている。推定落札価格、五千円から六千円と書いてある。面白そうだが、五千円だすほど欲しくはなかった。

さて、午後のオークションだ。俳句の歳時記の分厚い本がでていた。ライバルもいなかったので、破格に安く落とした女性は、とても嬉しそうに、興奮冷めやらぬ様子であった。漢詩集も出ていて、一人の青年が中身を確認していた。私も興味を持って、中身を確認したのだが、原文がなくて、書き下しだけであった。ゴミだ。

さて、いよいよ、柳田國男集である。実は、もう一人、落とそうと試みた人がいた。四千円まで値をつけて、競り落とした。まあ、それでも破格に安いことには変わりがない。しかも驚くべき事に、これが、今回のオークションの、それまでの最高値であった。いかに競争のないオークションかということが、分かるだろう。

と思っていたら、上がいた。柳田國男集を競り落とした後に、のんびりオークションを眺めていたら、京都府警察史と題する四冊の本が出されていた。一体、誰がそんなものを欲しがるのかと、苦笑しつつ眺めていたら、すごい食いつきぶりを見せた人達がいた。最終的に、値は五千円までハネ上がった。

落札した人に、後で話を聞いた所によると、何でも、各都道府県に、この警察史は出ているらしい。古本屋を回っても、全巻揃っていることはまれで、バラで、一冊、一万は下らないという。こんなところで、こんなに安く手に入るとは思いもしなかったと、非常に喜んでいた。

さて、35冊の定本柳田國男集を持って帰るのが一苦労だった。後から思うに、素直に800円払って、宅配便を使うべきだったと後悔している。京阪の駅まで持って帰れば、いいだけなのだが、さすがに、35冊は重かった。歩みは遅々として進まず、十メートルおきに休みをいれた。

気分は、エコーズ ACT 3のスリーフリーズを受けた吉良吉影であった。

人前で「目立った行動」をすること…
それはこの『吉良吉影』が最も嫌うことだ…
それが赤の他人の前でこんな屈辱の『生きっ恥』をかくとは…

今度、ぶどうヶ丘高の方に『スポーツジム』がオープンするそうだが……
真剣に『会員』になることを考えたよ…
『体力』をつけなくっちゃあな……
でも、あーゆートコの『会員』ってのは、どーなんだろうな?
一週間もフロに入ってないヤツが
チンポいじった手で同じダンベル持ち上げたり
プールに入ったりするのかな?

でも横断歩道を渡る時が一番「体力」のなさを実感したよ…
横断途中で休んじまったら
信号が「赤」に変わって
車にブースカ いわれるからな

激しい「喜び」はいらない…
そのかわり、深い「絶望」もない…
「植物の心」のような人生を…
そんな「平穏な生活」こそ、わたしの目標だったのに…………

というわけで、道行く人々に奇異の目で見られながら、帰宅した。

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