Coding Horror: Multiple Video Cardsが、Bitcoinのお陰で中古GPUを格安で手に入れられたと書いていたので、Bitcoinの歴史と現状をまとめて見ることにした。
そもそも、諸君はBitcoinを知っているだろうか。いや、知らなくても無理はない。日本では、あまり有名ではないように思う。だから、まずBitcoinとは何かという説明をしようと思う。
Bitcoinとは、演算保証によって信頼を得ている貨幣である。およそ、貨幣というものが広く一般に使われるには、貨幣に対する何らかの信頼が必要である。たとえば、貨幣が金と交換できる保証であるとか、国による保証などといった、信頼が必要である。そのような強い保証のない貨幣は、広く信頼を得ることができず、一般に普及することはない。
Bitcoinは、P2P技術によって実装されたオンライン上の仮想貨幣である。すべての貨幣のやり取りはP2Pによる演算で処理され、個々の貨幣のやり取りは匿名で行うことができる。と、こう書いただけでは、信用のカケラも存在しない貨幣のように思われる。金と交換できず、国家の保証もない貨幣が、どうして信頼できるというのか。だいたい、どうやって偽造を防ぐのだ。それは、演算力である。
Bitcoinを得るには、演算をする必要がある。それも、かなりの演算が必要である。Bitcoinの貨幣のやり取りをP2P上で信頼できるほどに処理するには、暗号を使わなければならない。この暗号処理には、かなりの演算力を必要とする。Bitcoinを得るには、オンライン上でのbitcoinのやり取りに必要な演算の一部を負担する必要がある。すると、Bitcoinを不正に入手するというのは、つまりは暗号を解読するということである。それには、Bitcoinを普通の方法で得るより、はるかに高い演算力を必要とする。このため、Bitcoinの偽造は割にあわないということになる。ただし、誰かがSHA256の画期的な脆弱性を発見した場合は、この限りではない。Bitcoinネットワークを攻撃するには、Bitcoinネットワーク全体の演算力を上回る演算力が必要である。その演算力は、現在のBitcoinネットワークの規模から考えて、現実的ではない。
つまり、Bitcoinの信頼は、演算力とSHA256の暗号強度に依存しているといえる。金銀に交換することはできず、国家の保証もないとはいえ、不正ができないという点で、信頼を得ているのである。
Bitcoinの他の利点としては、国家の影響を受けないということと、プライバシーを守れるということである。国家が貨幣を管理していると、意図的に貨幣の価値を上下させられる可能性がある。Bitcoinの価値は、ユーザーが決定する。そのような中央の権威の影響は受けない。プライバシーというのは、貨幣の動きを特定されないということである。これは、ともすれば麻薬取引などの違法な売買や、脱税などの金銭の動きにも使われがちであるが、それは、別にBitcoinに限った話ではなく、金銀や紙幣でも同じなので、Bitcoin特有の問題というわけでもない。
では、Bitcoinの作者は誰か。これが、どうも怪しいのだ。もちろん、記録は残っている。2008年にSatoshi Nakamotoと名乗る自称日本人によって、Bitcoinの理論と仕様を説明する論文が発表された。最初の実装も、彼によって書かれた。しかし、彼は一言も日本語を発していないし、実装にも日本語は一切使われていない。彼の2010年以降の消息は不明である。彼のメールアドレスは、無料のメールサービスを利用しており、すべての接続は、Tor経由で行われていた。つまり、彼はありとあらゆる方法を使って、匿名性を保つ努力をしていたのである。日本人を自称したのも、事によると、正体を隠すための方便だったのかもしれないとまで言われている。
なんにせよ、Bitcoinの仕組み自体には、未だに脆弱性が見つかっていないし、Bitcoinで使う有名な暗号、SHA256も、未だに画期的な脆弱性は見つかっていない。
さて、Bitcoinは不正が難しいので、最低限の信頼性を備えていることは分かった。Bitcoinの仕様はすべて公開されており、オリジナルの実装以外にも、いくつかの別の実装がでてきた。とくに興味深いのは、演算にGPUを利用した実装である。GPUはCPUほど汎用的ではないが、うまく使えば、CPU以上の演算力を発揮できる。このため、Bitcoin mining(Bitcoin炭鉱業)と呼ばれる、いわばゴールドラッシュのような現象が起きた。高価なGPUが、Bitcoinを稼ぐために多数売れたのである。
Bitcoinはその期待によって、現実の貨幣(例えば米ドル)と交換する所が現れた。その交換レートが高かったので、高価なGPUと電気代を差し引いても、利益が出せたのである。
しかし、ゴールドラッシュが長く続くわけがない。Bitcoinはその多大な期待によって、実価値以上に高い交換レートで、現実の貨幣と交換されてきた。今や、そのバブルがはじけて、Bitcoinの現実貨幣に対する交換レートは暴落し、Bitcoin炭鉱業は以前ほど儲からなくなってしまった。国家や中央銀行のように、貨幣の価値を一定に保つ権威が存在しないのだから、これは当然である。ゴールドラッシュで儲けたのは、シャベルとツルハシを売っていた者であるというのはよく言ったものだ。ハイエンドGPUが山ほど売れたのだ。
そのため、ハイエンドGPUが中古市場に溢れ、冒頭でも言ったように、Jeff Atwoodとかのゲーマーがその恩恵を受けている。
もちろん、これはBitcoinの為替が適正なレートに下がっただけであり、Bitcoinの暗号自体は、未だに破られていない。
Bitcoinの合法性であるが、独自通貨の発行が合法かどうかということにかかっている。これは、国ごとに違うので、なんとも言えない。ただし、オンラインでの売買の興隆をみれば、独自通貨の発行自体は、将来的には大抵の国で合法になる方向に動くだろう。さもなければ、ゲームやPaypalのようなサービスが成り立たない。
私自身はBitcoinには興味がなかったのだが、知り合いに、Bitcoinの仕組みに共感し、自分でも実装を書き、ハイエンドGPUでせっせと掘っている人物がいるので、近況を聞いてみた。彼は、単に技術的な好奇心のためにやっているのであって、小遣い程度の金には興味がなく、したがって、最近のBitcoinと現実貨幣の交換レートの暴落は気にしていないらしい。
私はふと、このBitcoinが、一時期のP2P技術を利用したファイル共有に対する期待に似ているのではないかと思った。あの当時、P2P技術を利用したファイル共有には、なにかゴールドラッシュのような期待があった。確かに、現時点では違法かもしれないが、それは法律が現実に追いついていないだけであって、将来的には素晴らしい可能性を秘めているのではないかという期待があった。
現実としては、法律は一向に変わらず、P2P技術は、Skypeを始めとする通信、ソフトウェアのアップデートの配布などの、裏方技術には使われているが、表立って存在を意識するほどではなくなってしまった。Bitcoinも同じような過剰の期待に押されていたのではないだろうか。
このような意見を、かの知り合いにぶつけてみたところ、彼はこれを認めた。曰く、「たしかに、そういう過剰な期待があるのかもしれない」と。「Bitcoinに触発された後発の仕様もいくつか出ている。Bitcoinは、実際の価値はさておき、コンセプトとして一定の価値があることは確かだろう」とも言っていた。
国家に左右されない貨幣が主流になる時代は来るのだろうか。
いつも興味深い記事、楽しませていただいております。
ReplyDeletebitcoinやDartについて、さっそく色々あちこちを読んで回る契機となりました。
Dartについてなのですが、ダウンキャストに警告すら出さない点について、良かったら語っていただけないでしょうか。
私はJavaやC++を好んで使っています。
私の視点で見ると、(JavaScriptと違い)型安全のためのDartなのに、肝心なところが抜けていて片手落ちなように思えるのですが……。
http://www.dartlang.org/articles/optional-types/#static-checker
OOPではダウンキャストは自然です。
ReplyDeleteダウンキャストに警告を発するというのは、オブジェクト指向の思想にそぐわないものです。
もちろん、C++のような厳格な静的型システムを持っている言語では、Derivedクラスの型を使わなければならないので、明確なキャストが必要ですが、Dartでは、そもそも型キャストの文法はありません。
日本でも、興味のある方がいてくれて嬉しいです。
ReplyDeleteビットコインジャパンというサイトつくりましたので、よろしければ、訪れてみてください。
https://bitcoin.ne.jp
解りやすい解説をありがとうございます。
ReplyDelete小生、恥ずかしながら最近になってビットコインを知ってハマってます。
興味の中心は、やはり知的好奇心と、p2pネットワークで、流通が公開で、中心になる発行者が存在しないということでしょうか。
Mt.Goxで日本人が売買するのはお得で簡単なのに、日本で流行らないのが不思議ですね。数日前にMt.Goxに口座を作って、日本の銀行からMt.Goxの三井住友銀行の口座を経由して資金を入れてみました。かかった費用は、日本の銀行間の手数料210円だけです。
あとは、ビットコインを買うのに、0.6%の手数料が取られるだけ。
Mt.Goxが日本の会社なのに、経営者がフランス人だからなのか、日本語のサポートがないのも不可思議だけど、日本で流行ったら政府・金融からのツッコミが入るのを恐れての事かな?みたいな。
本の寄付のバナーが貼ってありますが、寄付用のビットコイン・アドレスも貼ってみてはどうでしょう?送金手数料が無料も同然なので、寄付のためにビットコインが流行ったらいいのになぁと思います。
日本では、Paypalの支払いは寄付のためでも手数料が高いですから、最適なんじゃないかと思ってます。
どうも、ありがとう。
http://togetter.com/li/387975
私はbitcoinの価値をあまり評価していないもので。
ReplyDelete国家という存在がなくなり、
コンピューターと電力とネットワークが無料になれば、価値があるのですが。
「国家」というのは、ビットコインを取り締まるかも知れない存在ということですか?
ReplyDeleteコンピュータと電力とネットワークというのは、まあ、分かる。
コンピュータ資源と、電力資源は、すごく無駄に使ってるのは分かります。でも、「金塊の製造や管理にどれだけ無駄に資源を使ってると思うんだ?」っていう、FAQの答えにはうなる部分もある。 https://en.bitcoin.it/wiki/Myths#Bitcoin_mining_is_a_waste_of_energy_and_harmful_for_ecology
ネットワークのトラフィックは大して使ってないと思うけど。
電力はですね、どこかの砂漠にビットコイン・マイナー基地を作って、太陽光発電とか思いついてました。トラフィックは必要ないと思うので、細いネットワークで繋がったら良い。自家発電なので送電設備もいらない。でも、冷却の問題はどうなるかな?
bitcoinが真に普及するには、既存の貨幣と交換することにより価値が出るのではなく、bitcoin自体に価値が認められなければなりません。
ReplyDeleteたとえば、普通に近所の店でbitcoinと商品やり取りが行われるぐらい普及することを考えます。
国家は、貨幣を発行し、厳禁を製造し、偽造を防ぎと、様々な手を尽くして貨幣の価値を保っています。
しかし、bitcoinはそのような価値を保つ権威がありません。
さらに、bitcoinが既存の貨幣と交換されることで価値を持つのであれば、それこそ銀行の奥にしまってある金のインゴットと同じです。
近所の店は金のインゴットと商品をやり取りしないでしょう。
もし、国家という権威がなくなれば、暗号保証により偽造を防いでいるbitcoinには価値が出るでしょう。
近所の店でbitcoinのやり取りをするためには、お互いネットワークに繋がっていなければなりません。
今の携帯電話より、もっと安価で自由な無線ネットワークが必要です。
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ReplyDelete日本ではビットコインを使える場所がほぼ皆無なのですが、欧米では少なくはないと思います。
ReplyDeleteビットコインが最初に使われるのはネットワーク上の決済だと思いますから、
>今の携帯電話より、もっと安価で自由な無線ネットワークが必要です。
という批判は今の段階では無意味だと思います。
10月末に欧州中央銀行のビットコインに対する肯定的なレポートが出版されてから、いくつかの前進があります。
ワードプレスへの支払いがビットコインで可能になったこと。ワードプレスは、ビットコインをネットワーク上で、権威によって差別されない支払方法としてビットコインを認めました。これは、ペイパルやクレジットカードが、国によって取扱いを拒否しているからです。
この際、ワードプレスはビットペイ: http://bitpay.com/ を支払いのエージェントして採用したのですが、このビットペイのエージェントとしての機能には、感心します。
ビットペイは、ワードプレスとの間の決済を米ドルで行います。支払いに先立って、ビットペイは短い有効期限付きのビットコイン→米ドルの為替レートを設定して、ワードプレスに対して保証します。利用者は、支払いの時点でビットコインを買っても、あらかじめ持っていても構いませんが、示されるビットコイン価格は、時価を適切に反映したものになります。
あくまで、ビットコインは、短期間に限り、価値を伝達するエージェントとしてのみ期待されているのです。
最近になって、交換所のビットコイン・セントラル https://bitcoin-central.net/ がフランス政府が公認する金融としての地位を得ました。ニュースによると、口座の資金は、一般の銀行の口座の用に保証されることになるそうです。盗難やビットコイン・セントラルの破綻などに対して保証されるということだそうです。
ビットコインは、通常の通貨ではなくて、金塊と比較されるべきだと思います。ビットコインの基本的な価値は、金塊に似ているんです。金塊は、誰が価値を保証しているんでしょうか?金塊は、その希少価値と、偽物を作ることが出来ない点で価値を見出されているんです。
通常の商店で、金塊での支払いを受け付けないのは、単純な理由があります。それが、本物であるかどうかを確かめることが出来ないからです。
ビットコインは、その基本的な性質として、「偽物を作ることが出来ない(ほぼ出来ない)」。「本物の確認が簡単に出来る」ということがあります。通常の商店がビットコインを受け付ける理由があります。
もし、商店が店頭に、ビットコイン支払いエージェント:ビットペイのフロントエンドがあったら、客が「ビットコインで支払いたい」と言った瞬間に、ビットペイに見積りをさせます。顧客は、その見積りに対して、ビットコインをビットペイにある商店の口座に支払います。
商店は、通常価格を米ドルで支払いを受け取り、顧客は望みどおりにビットコインで支払うことができます。
残念なことにビットペイのサービスは、米国内だけに限られてますが。
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実は、僕は別な部分で、ビットコインの心配をしています。最初の4年間で、存在可能なビットコインの50%が発行されて、そのうちの約80%、つまり存在可能なビットコインの40%が発行されたまま秘蔵されているという事実です。
この秘蔵しているのがどのような人たちで、どのくらいの塊になっているのかは分からないですが、あるグループによって多くの割合が秘蔵されているとすると、このグループはビットコイン経済圏に支配的な力を持つことになります。。。。あくまで、妄想ですが。
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