ここ数日、近未来のコンピューターという考え方が頭から離れないので、書きだしてみることにする。
未来を予測するのは難しいが、一つだけ確かなことがある。プロセスルールの微細化が、少なくとも今後10年以内に終わる。つまり、ムーアの法則が破れることになる。
ムーアの法則というのは、物理法則でも何でもない。本来、ムーアの予言とか約束などと呼ばれるべき言葉だった。1965年、Intelのゴードン・ムーアが論文を出して、それが他人に引用されるうちに広まった考えで、最も単純化された考えとしては、「集積回路のトランジスタ数は18ヶ月で倍になる」というものである。
製造の裏方では相当な努力があったにせよ、ムーアの言葉通りにトランジスタの密度は増え続けた。同時に、クロック周波数も上がり続け、コンピューターの実性能も、倍々に増えていった。しかし、クロック周波数の上昇は、すでに限界に達した。もちろん、まだもう少し上げることはできるが、商業的に成り立たない。一方、集積回路の微細化は、まだしばらく続いた。
いま、最新の商業的に製品が出荷されているプロセスルールは22nmまで達したが、そろそろ限界が近づいている。私の予想では、一桁nmの製品が出るとは思えない。おそらく2022年頃には、プロセスルールの微細化は止まるだろう。
するとどうなるのか。再びクロック周波数の上昇を目指すのだろうか。しかし、そんなことは今でも行われている。もはや、CPUのクロック周波数は固定ではなく、動的に変化するようになっている。それほど極端には伸びないだろう。
トランジスタ数とクロック数の現実的な上限が示されたとき、何が起こるのか。まず真っ先に考えつくのが、アーキテクチャの抜本的な改善である。フルスクラッチから設計した全く新しいアーキテクチャで性能向上を目指すのだろうか。
おそらくうまく行かないだろう。アーキテクチャを変えた所で、極端な性能向上はないだろうし、過去のソフトウェア資産も捨てられない。カリカリに最適化されたベンチマークコードのスコア上昇のために、過去のソフトウェアをすべて諦める人間はいない。
さて、この状態で数十年経つと、過去の特許が切れ始める。技術を自由に使えるようになり、少しだけ技術発展があるかもしれない。しかし、性能向上は微々たるものだろう。より安価なハードウェアや、自由なハードウェアが登場すれば、ユーザーの利便性は向上するかもしれない。
極端に並列化できる処理は、専用のAPUに任せるHeterogeneousなアーキテクチャのコンピューターの時代になるかもしれない。すでに、GPGPUは一部の分野では素晴らしい性能を発揮している。しかし、極端に並列化できる処理というのも、結構限られている。
全く異なる動作原理のコンピューターは、まだしばらく実用化されないだろう。タダ飯の時代は終わるのだ。
「タダ飯の時代は終わるのだ。」という比喩がよく分かりません。解説希望です。
ReplyDeleteHerb Sutterによる記事のことです。
ReplyDeleteThe Free Lunch Is Over: A Fundamental Turn Toward Concurrency in Software
この記事で、Herb Sutterはコンピューターの性能が年々上がる従来の状態を、タダ飯と呼んでいます。
現時点では遅いソフトウェアであっても、時間の経過によりコンピューターが早くなるので、自動的に十分な速度で実行できる。
これがタダ飯というわけです。
もちろん、もうコンピューターの性能上昇率はかなり鈍化しており、これからはタダ飯はありません。
匿名のコメント・質問なのに、解説していただいてありがとうございます。良くわかりました。何か良く解らないニュースを理解する時に、時々、参考にさせていただいています。
ReplyDeleteインテルがプロセスルールの細分化に失敗したな
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