2013-01-13

Aaron Swartz自殺の背景事情

Aaron Swartzが自殺したというニュースが世界に衝撃をもって伝えられた。Aaron Swartzは誰か。一体何をしたのか。何が彼を自殺に追い詰めたのか。

強欲な著作権である。

科学や技術はもちろんのこと、およそ学問は、論文に書かれて発表されている。

通常、論文の筆者は著作権を維持しない。論文を査読した者も権利を主張しない。実に、論文は多くの者に読まれるべきである。しかし、今日、その論文の閲覧を妨げている勢力が存在する。旧態依然の出版社である。

インターネットが普及した今日、情報の公開のコストは極端に下がった。しかし、論文は依然としてペイウォールの向こう側に隠されている。なぜか。旧態依然の出版社のためである。

昔の論文は、紙に印刷されている。ほとんどの論文は、すでにスキャンされ、少なくとも画像という形で電子化されている。しかし、その論文を簡単に読むことは出来ない。何故か。旧態依然の出版社のためである。

この旧態依然の論文の出版社は、論文に著作権を主張し、広く人類に読まれるべき知識の宝庫である論文を、厚いペイウォールの向こう側に隠している。

しかし、著作権は期間を限定した排他的権利である。著作権は消失する。一体何が昔の論文の閲覧を妨げているのか。論文をスキャンした出版社である。

出版社の主張では、論文をスキャンするという行為により、さらに著作権が発生するのだという。あるいは、論文をスキャンした画像に刷り込ませたウォーターマークに著作権が発生するのだという。

少なくとも、日本ではこの論理は通用しない。著作物の媒体を変更するのに伴う変化や、誤字の修正、ふりがなや句読点の増減などといった変更には、著作権は発生しない。非常に不思議な著作権法を持つアメリカは知らないが。

とにかく、本来ならば著作権が消失したはずの論文ですら、いまだに自由に読むことが出来ない。Aaron Swartzはこの現状を打破したかったのだ。

MITの構内のネットワークは、非常に開かれている。構内のネットワークの接続には認証が必要ないし、構内のネットワークから、購読している論文を自由にダウンロードできる。Aaron Swartzはこれを利用して、MITの購読している論文を片っ端から大量にダウンロードしていた。もちろん、これはMIT構内のネットワークからアクセスすれば誰でも自由にダウンロードできる状態にあった。

例えば、このブログの各記事が、一切の事前の課金やユーザー名とパスワードの認証がなく閲覧できるのと同じだ。

しかし、Aaron Swartzはこの認証も何もない状態で片っ端からダウンロードしたという行為により、懲役数十年を求刑された。興味深いことに、被害者であるはずのJSTORとは、民事上の和解が成立していた。なぜ刑事上の摘発がなされたのか。物事の本質を理解せず、この天才を汚らしい犯罪者に仕立て上げ、何十億もの価値のある情報を盗んだとでっち上げる政治的な思惑があったのだ。正義はない。著作権と強欲による、人類に対する罪である。

彼の論文は公共の財産であり、自由に閲覧できるべきであるという決意は、本の虫: Aaron Swartzによるゲリラ・オープン・アクセス・マニフェストで示されている。

5 comments:

  1. 「倫理にもとる行為なり。」ではなく
    「倫理にかなう行為なり。」ではないでしょうか。

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  2. 初めまして。

    Aaron Swartz関係の記事を探していてあなたのブログにたどりつきました。Aaron Swartzの自殺は非常に悲しいことですが、一方であなたのブログ記事に若干の違和感を覚えたのでコメントを書き込むことにしました。

    確かに学術論文は多くの人に読まれるべきであり、論文の閲覧に多額の金がかかるという状況は避けるべきでしょう。一方、論文がなぜあなたが批判されているような出版社を経由して発表されるのかというと、論文の各著者が学術雑誌に論文を載せ、出版社を通じて発表するという手段を選んでいるからに他なりません。出版にはコストがかかります。仰る様にインターネットの普及により情報発信のコストは下がりました。しかし、論文の出版にはオンラインのみの公開であっても雑誌専属の編集者や校正・サーバ管理などなど多額の費用がかかります。例えば、日本には"Progress of Theoretical Physics"という理論物理の雑誌がありました。出版元は研究所及び学会であり、営利団体ではありませんでしたが、赤字が嵩み昨年廃刊となりました。なぜ廃刊となったか?それは、出版にはコストがかかるからです。現在は同誌の後継雑誌"Progress of Theoretical and Experimental Physics"がオンラインのみのオープンアクセスジャーナルとして発行されています。この後継誌は掲載料として論文一本あたり12万円かかります。オンラインのみの雑誌でなぜこんなに掲載料がかかるのか?それは、出版にはコストがかかるからです。

    そのように出版社を通じて学術雑誌から論文を公開するのはコストがかかるというならばプレプリントサーバにアップロードして満足していれば良いという考え方もあると思います。例えば、ペレルマンはポアンカレ予想を解決した3論文をプレプリントサーバにアップロードし、私の知る限り出版社経由で学術雑誌から公開はしていません。それは一つのあり方として良いと思うのですが、現状では大多数の研究者がそのような方法を選択しておらず、出版社経由で論文を公開する選択をしています。その状況を考えると、論文公開の妨げの原因として出版社を悪の根源としてやり玉に挙げるのはフェアではないと感じます。同じことになりますが、論文出版にはコストがかかるのです。もちろん、各研究者が論文を雑誌経由で公開しているのにはそうしなければ業績にならないなどの理由があります。学術論文の出版社が必要以上に暴利を貪るのは避けるべきですし、昨今の「学界の春」運動は私もよく理解できます。しかし、だからといって出版社は悪であると言うのは違和感を感じます。結局のところ、研究者は論文を広く読んでもらうために出版社を利用しているのですから。

    また、著作権が切れた論文のスキャンに関してですが、出版社がスキャンしたものを転載することに問題があるのであれば、自分でスキャンをすれば良いだけの話です。「一体何が昔の論文の閲覧を妨げているのか。論文をスキャンした出版社である。 」と書かれていますが、別に出版社は論文のスキャンの公開を何も妨げていません。出版社はスキャンを公開してその料金を徴収しているだけで、著作権が切れているのであれば別の団体がスキャンをして無料公開することに何の問題もないはずです。この点に関してのあなたのブログの書き方はどうにか出版社を悪役に仕立てようとする悪意を感じます。

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  3. 対価を取るのはかまわないのです。
    ただし、すでに著作権が消失しているはずの物に、なぜ著作権による制限がかかるのかということです。
    スキャンという行為に対し新たに著作権が発生するはずがありません。

    そもそも、著者も査読者も、時には編集者も、権利や対価を主張せず無料労働して作成されたはずの論文が、なぜ著作権保護されているのか。

    出版社という仕組みを使い論文を発表するのは、旧態依然のビジネスモデルを存続させるためだけに行われているのです。

    そして、それを変える力のある、論文を発表する当の研究者達は、自身は個人ではなく研究機関によって購読料が支払われているために、論文は一般からアクセスできないということに無頓着なのです。

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  4. とっくの昔に著作権の切れた論文は著作権保護されない。
    スキャンに対し新たに著作権が発生することはない。

    とすれば、対価を払ってスキャン業者から入手した論文は、正当に公衆送信できるはずではないですか。

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  5. なるほど。返信ありがとうございます。
    対価を取るのは構わないけれど、著作権という理由を持ち出すのがいけないということですね。

    >対価を払ってスキャン業者から入手した論文は、正当に公衆送信できるはずではないですか。

    それは一般にはスキャン業者から購入した際の取り決めに依存するような気もしますが、適切な状況下では正当に公衆発信ができるという考え方があることは理解できます。

    いずれにせよ、一昨年からJSTORは著作権切れの記事を無償公開しているようですね。今後Aaron Swartzのような犠牲者が出ないことを祈るばかりです。

    私のコメントに丁寧な返事をくださってありがとうございました。また、コメント欄汚し、失礼しました。

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