Ta-da:ドワンゴは辞めていない。キャディでテクニカルアドバイザーとしてC++教育もすることになった。7月30日に最初の勉強会をする。
周りで転職が頻発しているので、私もにわかに転職熱をだし、自分の転職市場における価値を確かめるためにも、いくつか企業に話を聞いてみた。その結果としては、私を給料据え置きで雇いC++の仕事をさせたいという企業はあった。しかし、教育一辺倒というわけでもないし年収も現状維持、そしてドワンゴでまだやりたい仕事も残っているときている。転職も興味ぶかい人生の選択ではあるが、しばらくはドワンゴにとどまろうという判断を今回はした。
その話を聞いた企業の一つがキャディ株式会社だ。奇しくもちょうど1年前、もうC++17を現場で使っている企業があるというので話を聞きに行ってブログに書いたことがある。
C++17をすでに現場で使っているというキャディ株式会社に話を聞いてきた
キャディは板金加工の受注生産をしている会社だ。板金加工というのは一枚の金属板を切断したり曲げたり削ったりと様々な加工をして、顧客の望む形状の金属製品を作り上げる仕事だ。従来、板金加工の依頼をするとなると、板金加工業者と話をして、望む形状を伝え、熟練の職人が長年の経験と勘で必要な加工を決定していた。これは時間のかかる作業であり、価格の見積もりだけでも長時間かかるものであった。
キャディは見積もりを自動化することを目指している。顧客がキャディのWebサイトに生産したい形状の3Dモデルデータをアップロードすると、それをソフトウェアで処理し、あたかも折り紙を展開するように、1枚の板から目的の形状を作り出すための加工を決定する。必要な板金加工が自動的に決定できるのであれば、価格の見積もりもできる。従来の板金加工業者が、何日や何週間もかけてようやく見積もりを出していた作業が、自動化をすることによって一瞬で見積価格を顧客に提示することができる。これがキャディの目標だそうだ。
板金加工の見積もりを自動化する。こう書いてしまうととても簡単に読める。しかし似たような計算である折り紙の展開というのは数学的に難しい問題である。自動化の実現には、数学力とアルゴリズム力とコーディング力が必要だ。キャディは自動化の要となる処理の実装について、最新のC++を選択した。古いC++で生産性を下げている余裕はない。問題は、最新のC++を知っているプログラマーは労働者市場では希少だということだ。
しかも、単にC++を知っているだけではダメで、数学力とアルゴリズム力も問われる。しかし、これについては朗報がある。AtCoderのような競技プログラミングコンテストを定期的に開催しているWebサイトの興隆で、今や競技プログラミングは盛んに行われている。高レートを維持している優秀な競技プログラマーは本物の数学力とアルゴリズム力を持っているので、数学力とアルゴリズム力を持ったプログラマーは労働者市場に多数供給されている。
AtCoder:競技プログラミングコンテストを開催する国内最大のサイト
好都合なことに、競技プログラミングではC++が使われることが多い。問題は、単に競技プログラミングで好成績を出すためだけであれば、C++を理解する必要はないということだ。一部の突出した競技プログラマーは、プログラマーというよりはもはや数学者に近く、彼らにとってC++というのはプログラミング言語ではなく、都合のいい計算機でしかない。そのため、必要な数学力とアルゴリズム力とC++力を兼ね備えた人材は労働者市場に極めて稀にしか存在しない。労働者市場に即戦力がいないのであれば教育するしかないが、最新のC++がわかるプログラマーに数学を教えるのと、競技プログラマーに最新のC++を教えるのはどちらがマシかというと、確実に後者だ。そもそも、労働者の人口としてもC++プログラマーより競技プログラマーの方が多い。
キャディは最新のC++を現場で使う興味深い企業であるので、強い興味を持ちながらも、ドワンゴの環境も捨てがたく、結局転職はしなかったのだが、つい先日、技術顧問として月2回ぐらいキャディの社員向けにC++教育をしてくれないかという話がきた。キャディ社内には私と同等以上にC++に詳しい人間がいる。ただし彼には数学力もあるので教育よりは現場の開発に労力を費やしてほしい。単発の勉強会で30分ぐらい話してくれというのであればともかく、定期的に月2回も社員向け教育をしてくれというのは流石に無償では引き受けられない。では報酬も支払うという話になった。
ところで、今私が雇用されているドワンゴでは兼業申請が通れば兼業をしてもよいということになっている。兼業申請が認められるための条件はいくつかあるが、特に重要な条件に、ドワンゴと競合関係にないという条件がある。ドワンゴが板金加工事業をしているという話は聞いたことがないし、その他の条件も問題はないだろうと考え、兼業申請を出してみたところ承認された。
そしてこのたび、キャディ株式会社のテクニカルアドバイザーとなった。
当面の予定としては、月2回、勉強会を開くことになっている。勉強会でキャディの社内情報がかかわらない内容については、聞きたい人がいれば社外から少し人が聞きに来てもいいだろうということで、connpassで勉強会の告知を行うことになった。
勉強会の内容としては、さしあたって、テンプレート、メタプログラミング、ムーブセマンティクスを理解できるようにする目的だが、記念すべき第一回目では、ポインターについて話すことになった。
なぜポインターなのか。私はちょうどC++入門書を書いている。この入門書ではC++知識のブートストラップを試みた。参考書ではすでに教えた知識だけを使って、次の知識を教えるようにした。このような入門書を書くのは初めてなので手探りで牡蠣進めていった結果、ポインターを教えるまではなんともいいがたい教えにくいという違和感があったのだが、ポインターを説明してからは、ポインターの知識を前提にできるので圧倒的に教えやすくなった。そのため、もしポインターが理解できていないのであれば、まずポインターを理解するべきであると考えた。そのため、今回はポインターだ。
https://github.com/EzoeRyou/cpp-intro
ポインターの難しさは複合的な要因がある。アドレスや関節参照という概念の難しさ。C++の型システムの難しさ。C++の文法の難しさがある。この3つを意識しながら7月30日は2時間、ポインターについて話をする。
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