2008-12-29

The Soul of Ilithiel

OblivionのMOD、The Soul of Ilithielの本の翻訳。

依頼された、二日前に発見した旧記の写本を終えた。羊皮紙の保存状態は悪くはなかったが、触れただけでページが破れるほどであった。注意深く、できる限りの解読をしたが、断片的な写本とならざるを得なかった。

この旧記は、アシュカンダー・クシュルクサランなる魔道士によって書かれたものらしい。彼は荒廃する以前のFort Facianに住んでいたようだ。

この魔道士の実在と、旧記に書かれている内容の真偽について、さらなる研究が必要であると感ずる。

Colovius 第二記

……をやり遂げた。ついに書の封印を解いたのだ。長い間悩んだ末に、とうとう、ニンブラシルによる霊魂術上級書の封印を解く術を解明した。音楽だ。そりゃそうだ。初めから分かりきっていたのだ。私はニンブラシルについて、あらゆる面から研究してきたのだから。

正しい音階の特定には実に手間取った。しかし、もはやそれは終わったことだ。誰もが挫折していた封印の解除に、この私が成功したのだ。実に素晴らしい。さっそく兵士達に、lesser soulをいくつか集めてくるよう命じた。さっそくにも実験を始めなければならぬ。まさに、私は……を超える力を学ばんとするに……

……は思ったよりはかどらぬ。何より注意深くやらねばならぬ。霊魂の正しい取り扱いは、恐ろしいほどに複雑なのだ。単純な魔法道具のチャージや、くだらぬ日々のエンチャント以上の事を行うには、慎重にやらねばならぬ。

よりよい実験器具が入用だ。現在のものでは、大した成果は出せぬ。ニンブラシルの著述するほどの霊魂の厨が使えたならば、どんなにか好いだろう。ああ、夢物語は何らの……は、もはや失われたのだ。そこで私は……

……また、だいぶ間が空いてしまった。多忙でもあるし、何より研究に没頭しすぎて、わずかな手記すら書く暇がない。研究は多大な進展を得た。ニンブラシルの魔法障壁に関する研究には圧倒される。私の考えでは、彼の記すところの手順は、束縛された霊魂を用いて霊的な力を発揮せしめ、而して、その進入を妨害し、あるいは完全に遮断するものである。にわかには信じられぬ。一体、如何にせば、かくは……するものぞ。

……実に腹立たしい。もうだいぶ霊魂を浪費している。兵士達はいい加減に気難しくなってきている。なにしろ、毎日毎日、新たな霊魂を束縛しに出かけなければならぬのだからな。ある者は、私はとうとう気が触れて、卿の資財を浪費しているとまで愚痴をこぼしている。ああ、何とでも思うが好い。理解無き者どもよ。私は成功するに極まっている。アンナリオン卿の帰還なされる頃には、お目にかけるだけのものをこしらえて進ぜるつもりだ。

何が悪いのかさえ分かればいいのだが。私は記された手順に細部まで忠実に従っているのだ。何が足りないというのだ。実にくたびれた。少し……

……用いたpetty soulは完全に消費された。造りだされた力は、わずかの間しか持たず、また何らかの破壊力も備えていた。実験器具は酷く損壊してしまった。修復には時間と、そして金が、かかるだろう。

手順の改良が必要だ。また書にあたるとしよう。まあそれに、代替器具の到着も待たねばならぬことでもあるし。これはどうも……

……実験器具は損傷しておらぬ。これは私の計算した破壊領域の仮説が正しいことを証明するものである。完全に防げぬのであれば、もっと威力を制限できれば好いのだが。この生ずるところの破壊力を利用することもできるかもしれぬが、今は魔力壁の安定化と持続に注力するばかりだ。私はまだ、より上級の霊魂で試そうとは思わぬ。この効果がどのように増強されるのか予想しかねるし、それに……

……は実に期待できる。今回、私はアンデッドの霊魂を入れたソウルジェムを用いた。少なくとも、購入時の説明を信じればだ。この霊魂は、前に使っていたものより強力な霊である。用いるのはためらわれたが、威力は期待通りの向上を見せ、制御方法の改良も上出来だ。

付け加えるに、アンデッドから束縛した霊魂を用いると、より安定した結果を得られた。造りだされた力は、揺らぎが少なく、より長く持続した。より強い霊魂を用いれば、結果が向上することは予想していたものの、これほどまでに異なるとは思わなかった。またニンブラシルの書にあたらねばならぬ。もしや、彼はこの事に関して何か解説を……

……はだいぶ奇妙だ。この塔の近くで最後にアンデッドを見たのは、二十年以上前の事だったはずだ。しかし兵士の報告は、倒した骸骨のわずかな数の違いを除けば、一致している。

これは少し気にかかることだ。私はネクロマンサーとその闇魔法を好まぬ。つまり、アンデッドに関することだ。それ故、私はあの霊魂を使うのをためらったのだ。生を装った死者などもってのほかだ。案ずるに……

……良い点もある。兵士達が、新たなアンデッドの霊魂を束縛できたらしい。それで私は……進めて……

……ところ、卿の帰還を知らせる手紙を受け取った。何事もなければ、アンナリオン卿は早ければ来週末にも帰還なされるだろう。

これは素晴らしい知らせ。卿の実見に足るものがたくさんあり、必ずや満足あそばすであろう。卿が御顔に微笑みを浮かべ、満足をあらわすのを、すぐにでも拝したいもいのだ。他人が笑おうと、気違いに思おうと、勝手にするが好い。私は必ずや……

……で、喜びと歓迎が、悲しみと悲嘆に変わるとは。帰路に着くアンナリオン卿が襲撃された。よりにもよってアンデッドに襲撃されたのだ。すでに塔近くであったのに。骸骨どもだけではなく、軟弱な男は敢えて戦おうともせぬ獰猛な怪物までいた。奴らは撃破したものの、なんと負傷の激しかったことか。卿こそ致命傷を負わなかったものの、エレナ妃が亡くなられた。これぞ我が心を痛ましむ。もはや妃の元気な笑い声は絶え、……に楽しまれる時の瞳のまばゆい輝きも、永遠に失われるのだ。

……は地下室に安置せられた。実に悲しい葬儀であった。涙に袖を絞ったのは私だけではない。卿は打ちのめされていた。卿の肩は、あたかも重荷を背負うが如く曲がっていた。私は卿の気をそらそうと、実験について語った。これまでの実験の成果や、この実験の秘める可能性についてだ。卿は、わずかな興味しか示さなかった。無理もない。卿はエレナ妃を御自身の命より愛しておられたのだ。我らは皆、今は亡き妃の為に悲しむ。

私が、如何にして、霊魂で満たしたソウルジェムを用いて、力を造るか説明すると、アンナリオン卿は私に、旅の次第と、発見した財宝について語って下さった。卿は不思議なソウルジェムを持ち帰ったことに言及し、強力な霊魂が束縛されていると仰った。その霊魂はまだ意思を持っており、卿に語りかけてくるのだという。

私はそのような事を未だかつて耳にしたことがない。それは信じられぬ……

……は大きく進展した。力は完全に安定し、破壊力に関する私の計算は、完璧になった。私は持続時間の向上にすら成功した。何と十時間近くも持続するようになったのだ。信じられぬ。より強力なアンデッドの霊魂を手に入れさえすれば……

……は、またアンデッドの襲撃を受けた。アンナリオン卿は兵士を率いて撃破に向かった。卿の武器は炎に包まれ、電光を発し、恐ろしい獰猛さで、数多くの敵を倒した。我が兵士達の為には、ほんのわずかの敵しか残して下さらなかった。

それでも、兵士達の中には、私が霊魂を必要としていることを覚えていたものもいて、半ダースもの霊魂を束縛してくれた。中でも幽霊の形をなせるものの霊魂があったとか、少なくとも、その霊魂を束縛した兵士は語っていた。

私はさっそくにも、その霊魂を用いたかった、がしかしその前に、卿に訊ねなければならぬ事がある。門に向かった卿は、お気に入りのメイスを握っていた。卿が「拳」と呼んでいるものだ。

あの武器は、確かに有用であろうが、何らのエンチャントも施されていなかったはずだ。にも関わらず、卿の攻撃なされた骸骨どもは、炎に巻かれていたではないか。一体、卿はどんな秘められた力を纏っているというのか。これは実に……

……卿の仰らぬこと五日。本日、卿は私に秘密を打ち明ける決断をして下さった。卿を謁した私には衝撃が走った。卿の御顔は青ざめ、屈強な肩は落ち込み、全身が曲がりこんでいた。容体が優れぬのかと伺ったが、卿は力無く微笑まれるだけで、すぐに話題を変えてしまわれた。私が訪ねていた、六日前のアンデッドとの戦いの事だ。

卿の仰るには、卿自身は何らの魔法をも使っていないという。あの炎や電光は、前の旅で手に入れた、あの不思議な霊魂の力だという。卿の曰く、「イリシエル」は、どんな武器にも「憑依」する力を持っており、「彼女」は、敵の弱点を見抜くことができ、その敵に最も効果的な魔法を使うのだという。

意思ある、女の、イリシエルという名の束縛された霊魂は、あらゆる武器をエンチャントでき、他人の魔法に対する脆弱性を見抜くとは。これは前代未聞の話だ。霊魂とは単なる力に過ぎぬ。我々はその力を使って、武器や魔法道具を満たすのだ。

私は、我が卿の容体をひどく気にかけている。卿は肉体的に傷ついておられるだけでなく、精神的にもまいっており、その心は……

……は、召使によると、我が卿は一日中、地下室のエレナ妃の石棺の前で過ごしているという。卿はつやつや供御も召されず、思うに十分に睡眠もされていないのではなかろうか。

ああ、卿の為に何かできることはないものか。研究がもっと進展すれば、卿の興味を引き付けることができ、もって卿の気を紛らわすこともできよう。

さっそく研究に戻ろう。

……幽霊か何かの霊魂を用いた。もう三日になるのに、力は安定して持続しており、ほとんど貫通する能はざる障壁を為している。その強さたるや、細い棒を刺すのさえ、全力をもってしなければかなわぬ程だ。破壊力もさらに増している。この力に長く曝されたならば、小動物は確実に死ぬであろう、実験はしないが。非常に苦痛な死をもたらす、残酷なものになるだろう。

思うに、そろそろアンナリオン卿の実見を乞うても好い頃だろう。すこしは実用的になったはずだ。例えば、門に障壁をはるであるとか。ああ、少し興奮しているようだ。しかしなお……

……卿の容体は、ますます酷くなっているように思われる。このような卿は見るに忍びない。だが私が卿に、実験を見せ、ニンブラシルによる手順の記述と、私による改良について説明した時、私の意欲は卿の瞳を輝かせたようだ。卿の微笑みから、若干の悲しみが消えたような気がする。

私と卿はしばらくの間、この実験結果の実用的方法や、霊魂の束縛一般について話し合った。私は厚かましくも、卿の所有する意志ある霊魂について執拗に訊ねた。卿は決して怒らず、優しい目で私をお見つめになり、自分自身で見るが好いと言って下さった。卿はかの意思ある霊魂を手渡して下さったのだ。そこで私は……

……とは、何と不思議なソウルジェムであることか。私はしばらく呆然と眺めていた。グランドソウルジェムの倍はある大きさだ。ジェムは夜の闇のように暗いが、赤紫色の揺らめく光を放っている。紫色に揺らめく、雲に似たものが一筋流れ出し、ゆっくりと床に落ちては消えている。

それは他のジェムと比べてはるかに重かった。触れると温もりがある。温もりは光の明滅にあわせて増減する。このジェムは衝撃的であった。所謂、武器をチャージする以上に、ソウルジェムについて学んでいるものは、このジェムに圧倒されるであろう。このジェムを作るのに、一体どれほど強大な力を有していればいいのか。私はこのようなジェムを作れる者を知らない。あるいはニンブラシルならば。彼はこの手の魔術を真に極めていたはずだし、あの霊魂の厨をもってすれば、あるいは……

……昨晩はよく眠れなかった。何か悪夢を見た気がする。実に奇妙なことだ。どんな夢だったかは思い出せぬ。しかし、寝床の有様から判断するに、私は転げまわっていたらしい。酷く疲れ、頭痛もする。今日は何もできぬだろう。私は……した方が好いのかも知れぬ。

……、またあの夢だ。今度は、何やら奇妙な声が、頭の中にささやきかけていたような気がする。何がとてつもなく恐ろしいことをささやいていた。またもや、夢の内容は覚えておらぬが、悪夢であったことだけは確かだ。

疲れた。たった一晩でも安楽な眠りにありつければ好いに。今日はあの奇妙なソウルジェムに関する研究を続けられそうにはない。ニンブラシルの書にあたるべきだろう。おそらくは、何か参考になる……

……例の項を解読したが、ただちに読み進める気にはなれぬ。この書は、わが意に反する不吉な事柄をも含むものであった。人間の霊魂の束縛について論じているのだ。ああ、すると事実であったのか。動物や獣のたぐいだけではなく、残酷な者の手にかかれば、人間の霊魂をも束縛し得るものなのか。考えるだけでも気がめいる。果たしてニンブラシルも、そのような闇魔術を行ったのであろうか、あるいは、単に理論上の仮説を立てたに過ぎぬのか。このことについて、更に深く学ばねばならぬが、ただちにというわけには行かぬ。一旦、外に出て、新鮮な空気を吸わねば、そして……

……は、またあの奇妙なささやき声だ。残忍な誰かが、苦痛についてささやきかけているのだ。一体何事だろう。誰か強力な魔道士が、私を苦しめているのか。だが何のためだ。私は常に皆に敬意を払ってきたではないか。無益で下らぬ研究に没頭する者でさえも、私は差別することがなかった。何故といって、およそ人たるものは、皆、我が道を歩むものなのだ。例えば、私による束縛された霊魂の斬新な利用方法の発見も、他人から見れば気違いじみた単なる……

……ニンブラシルが人間の霊魂を束縛したという証拠は見当たらぬ。恐らく、ニンブラシルは理論上の手法を考案したに過ぎぬ。ニンブラシルならば、所謂ブラックソウルジェムを作り出すことも可能であったろうが。

この声がやんでくれれば好いに。これでは何事にも集中できぬ。疲れた。眠りたい。あの薬を試してみるとしよう。あれならば……

……は、ジェムこそ、この恐ろしげな声の主であると信ずる。おお、然り。あの中には意思をもった霊魂が束縛されておるのだ。残忍で凶悪な霊が、じわじわと私を苦しめているのだ。この霊は何らかの方法で、我が心と結びつき、私を苦しめているのだ。ささやきかけているのだ。恐怖と苦痛とを、絶え間なくささやき続けているのだ。

もしやアンナリオン卿ですら。もはや疑いようがない。卿の容体が日に日に悪くなってゆくのも頷けるというものだ。卿と話さねばならぬ。卿の耳に入れねばならぬ。我々はこれを振り払わねばならぬ。

アンナリオン卿と話した。卿はご立腹のご様子であった。しかし、あの邪悪な霊に対してではない。この私を信じてくださらぬのだ。卿は、私は物事を理解しておらぬと仰る。イリシエルは、何度となく卿のお命を救ってくれたと仰る。卿は、ただちにジェムを返すように、この私に仰った。

もはや私にはどうすることもできぬのだろうか。卿の容体は悪い。御身体は酷くやつれ、御顔は青ざめ、御目はくぼんでおられる。これは間違いなく……

……、あの邪悪なソウルジェムから離れて以来、私は眠れるようになった。神々を褒め讃えよ。頭痛はほとんど消え、食欲も戻った。

今日は研究に戻ることができるだろう。あれを破壊する方法を見つけねばならぬ。どうにかしてアンナリオン卿を説き伏せて……

……、またアンデッドの襲撃があった。酷い戦いであった。兵士は二人も死んだというのに、アンナリオン卿が生きておられるのは奇跡である。卿の盾は潰れ、鎧には激しい殴打の貫通した跡が残っていた。卿を塔に運び入れてみると、卿は酷い怪我を負われていたが、鎧を貫通した殴打は致命傷に思われた。卿は戦う前に、何らかの回復魔法を用意しておくべきであった。

容体は定かではなく、私の回復に関する知識は、簡単な塗り薬と飲み薬程度のものだ。我々は卿の傷の手当をし、薬を塗り、酒によって眠りにつかせた。卿はすぐに良くなるはずだ。

兵士達は、彼らの言によれば、「亡霊」というものの霊魂を束縛してきた。どうやらgrand soulらしい。

……して、grand soulの使用は、見違えるようであった。まったくの別世界だ。私は亡霊を入れたソウルジェムを、実験器具から別の器具に、障壁を破らずに移すことができた。障壁は一切ものを通さなかった。私は強力なクロスボウを用いて、矢を放ってみた。矢は、まるで強固な壁にあたったかのように弾かれた。

破壊力もさらに強くなった。恐らくは即死級だろう。ジェムの取り扱いは慎重に行わねばならぬ。

ニンブラシルの書を研究中に思ったのだが、障壁をジェムの近くではなく、すこし離して出現させることもできるのではなかろうか。まだ実験が必要だ。安全の為、地下室に移った方がよさそうだ。まだ障壁の設置方法の制御に確信が持てぬ。不測の事態に備えて……

……て、そして新たな研究室が完成したので、道具を地下に移して実験を再開することにする。墓の近くで研究する私を、おかしくなったと思う者がいるようだが、気にはしない。こここそがもっとも人から離れていて、安全な場所なのだ。むしろ私の安全への心がけに感謝してもらいたいぐらいだ。

……は、期待通りであった。私は配置方向と範囲を設定できるようになった。私はさらに、破壊力の方向を定めることもできた。まあ、多少だが。

この私の為し得た事が誇らしい。アンナリオン卿にもこの大成功を喜んでもらいたいのだが、卿の容体はまだよろしくない。傷はもうとっくに癒えたので、問題はないはずなのだ。あの邪悪な霊の仕業に違いない。なんとかあれを引き離し、どこか遠く……

……昨夜、アンナリオン卿が亡くなられた。我らは皆、悲しみに暮れている。皆、卿は悲壮窮まった末に死んだ、などと云っている。最愛の妻、エレナ妃なくしてこれ以上生きようとは思わなかっただとか、怪我をしたために気力をなくして死んだだとか云っている。

愚かものどもめ。何も知らんのだ。一体何が卿の心を蝕み、苛み、生きる気力を打ち砕いたかは分かりきっている。何としても終わらせてやる。あの忌々しいソウルジェムを壊すことはできなんだ。さらばよし。誰にも害を及ぼせぬよう封印してくれる。何人にも破る能はざる、この天地のつきるまで終わることのない封印をしてくれるわ。

……アンナリオン卿の為には、別に墓室をつくり、あのソウルジェムを一緒にしておくよう提案した。誰も反対はしなかった。というのも、皆気乗りのしない仕事であったからだ。アンナリオン卿とエレナ妃の墓室を分けることについては、一問答あった。私の実験室はエレナ妃の石棺に近い。アンナリオン卿は私の設計した荘厳な墓室に眠られるのだ。何で悪いことがあろうか。

……、墓室の仕事は終わった。障壁を造る準備はほぼ整った。頼んでおいた、アンデッドで満たしたgrand soul gem四個は、数日で手に入るだろう。前に実験した亡霊の霊魂を頼み、深入りはしないよう注意した。

二人の召使がFacianから出て行った。アンデッドの襲撃を恐れており、アンナリオン卿なき今、彼らは……

今日、アンナリオン卿の遺体を、新しい石室に運び入れた。私は呪われたソウルジェムを石棺の上に置いた。このうっとおしい霧を発するものは、ここに捨て置かれるのだ。

ジェムを地下室に運ぶ間、なにか不思議な感覚に襲われた。今も体が震えている。もしやまた精神的な繋がりが生じたのではなかろうか。この前よりも強い。早く障壁を完成させ、二度とあれに近づけぬようにせねばならぬ。

……な夢に再び襲われた。まだこの身が震えている。あれは私自身の事ではないのだ。私はあのように邪悪ではないのだ。かほど邪悪なものがあろうか。かかる恐怖をどうすれば夢に見ることができるのだ。あたかも陰湿で異常な精神を共有しているかのようであった。

これも私の行いを妨げるつもりであるのだろうか。ジェムは地下室にあるのだ。あの悪霊は、どうやって私に悪夢を見せているのだ。これほど遠くまで届くものなのだろうか。

また……の夢だ。夢の中で、尽きる事のない苦痛に耐えねばならぬ。やめてください、助けてください、終わらないよう。何か怒れるものが私を苛み、私は泣き叫んで抵抗する。秘密は守ります。

しかし秘密とは何だ。私を苦しめているのは一体誰なのだろう。

今日、亡霊の霊魂でみたした四つのソウルジェムが揃った。すぐに一つ目の障壁に取り掛かるとしよう。一日にひとつしか造ることはできぬだろう。細心の注意を払い、正しい調整をしなければならぬ。これには時間がかかる。準備がととのったら、すべての障壁を動かすのだ。つまり、あと四日は悪夢に耐えなければならぬ。気力が持てばいいが。

……、四つの障壁はすべて設置された。今日、私は障壁を動かすつもりだ。そして塔を後にする。もうこの夢には耐えられぬ。逃げなければならぬ。牢獄を完成させるため、今から地下に降りる。

書くのですら危うい。全身の血が煮えたぎるようだ。これでも薬を使っているのだ。さもなければ気を失ってしまうだろう。地下室に近づきすぎた。あれは私が何をしようとしているか感づいたに違いない。防壁を動かした時、恐ろしい力に襲われた。あの悪夢が現実になったようであった。

何故だろう。何故、これが記憶のように感じるのであろうか。

またニンブラシルの書にあたらねばならぬ。別の暗号を使った部分が残っている。解読しなければならぬ。ニンブラシルの知識のすべてを知らねばならぬ。

……は、本当だった。アンナリオン卿の仰ったことは、すべて本当だったのだ。ニンブラシルの報告は、明解にこのことを述べている。彼女は私の夢を蝕んでいたわけではなかったのだ。あれは彼女の記憶を、私が寝ている時に、すなわち心の置き所がなく、開かれている時に、共有していたのだ。彼女の力を欲するがために、際限なく威され続ける、彼女の記憶だったのだ。あれは私ではなく、彼女の救いを求める声だったのだ。じわじわとその美しい身を焦がし、なおも逃さぬ苦痛から逃れる試みであったのだ。死すら彼女を逃がさず、尚も精神を蝕み続けているのだ。

私には彼女の記憶を共有できるだけの力がなかったのだ。彼女を繋ぎとめ、苦痛から解き放つだけの力がなかったのだ。何ということをしでかしたのだ。アンナリオン卿が自身の悲嘆に暮れ果てたことにより、もはや助けてくれる者は誰もいなかったのだ。なぜ私に分からなかったのか。私は彼女を助け、繋ぎとめ、救ってやるべきだったのだ。かわりに、私は彼女を封印して、死体と置き去りにしてしまった。彼女の所へ降りていかねば。

……、墓室にできるだけ近づいてみた。障壁のために死にかけて、引き返さざるを得なかった。なんとか彼女に話しかけようとしたが、どうやら結びつきは十分に強くないらしい。

とにかく、しばらくそばにいると、彼女の苦しみは少し和らいだようだ。おそらく、近くに友好的な心があることを感じ取ったのだろう。

……て、最後の暗号を解読した。これで、私はニンブラシルの書をすべて読んだことになる。ニンブラシルの書のすべてを理解したとは言わぬが、あの障壁をけしさる術は載っていなかった。自分で見つけなければならぬ。

……、恐らく、これが最後の手記になるであろう。私はイリシエルの元に向かい、防壁を破りに行く。成功するとはもとより思わぬ。ひょっとしたら、すこしでも弱められるかもしれぬ。つまり、より強く、賢い者が、後に障壁を破ってくれるだろう。

私は地下室には行かぬよう、皆に告げた。もっとも、大半の者は、もはや塔から逃げ出してしまっているが。ありったけの回復薬をかき集めてきた。さあ、行かねば。

神々よ、憐れみたまえ。

アシュカンダー クシュルクサラン

2 comments:

  1.  はじめまして。翻訳お疲れ様、およびありがとうございます。

     こちらの訳文ですが、やはりできれば.esp自体に反映させたいのでTabの追加やInportテキストへの改造をこちらでさせていただきたく。二次使用および公開・再配布の許可をいただくことはできませんでしょうか。

     いきなりぶしつけなお願いでまことに申し訳ありませんが、御検討をいただければ幸いです。

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