前回の、手書き履歴書と万年筆が、予想以上に受けたので、本当に履歴書に使えば評価されるかもしれない、真面目でコアな話をする。つけペンである。
結局のところ、一本千円程度のデスクペンも、それほど悪くはない。ただし、わざわざ履歴書を書くためだけに、使い慣れない千円もするペンを買うのは、無駄だとということである。だいいち、万年筆は、上を望めば、値段にキリがない。実は、そんな事をしなくても、低価格で最高の道具は、手にはいるのである。良い筆記具で履歴書を書くことが評価につながると考える人は、続きを読むと良い。
硬筆というのは、様々である。単純にインクを使う硬筆用のペンだけでも、ボールペン、フェルトペン、万年筆、つけペン等がある。これらは、それぞれ特性が違っており、単純に良し悪しを比較することはできない。しかし、いまなお最高の硬筆用のペンは、なんといっても、つけペンである。
つけペンといっても、大部分の読者諸君は、全く実感がわかないことであろうと思う。おそらくは、「漫画家が絵を描く時に使うと聞く、アレのことか?」程度の感想しか出てこないはずである。しかし、昔から、つけペンは、硬筆用として、最高のペンであったし、今もって、そうである。硬筆の字がうまいことで名の知れた習字の先生で、つけペンを使ったことのない者は、まずいない。というより、およそ硬筆のプロと名乗るぐらいなら、いろんな種類のペンを使えるはずだが。
まず、道具を揃えなければならない。つけペンには、三種類の道具がいる。つけペンのペン先(ニブ)、ペン軸、インクである。
まず、ペン先である、これには、実に様々の種類がある。漫画家は、よくGペンを使うし、描きたい線に応じて、ペン先を使い分ける。しかし、日本語の文字を書く時には、たいてい、さじペンか日本字ペンが使われる。値段は、非常に安い。ひとつあたり、だいたい、70~80円である。三つで二百円程度。グロス単位で買えば、もっと安くなるだろうが、字を書く際には、漫画家ほど大量に使い潰すということはない。私は、タチカワか、日光ブランド(日光は潰れて、今はタチカワに吸収された)の日本字ペンを使っている。
次に、そのペン先をさして使う、ペン軸である。これも、数百円で売られている。ペン軸は、太さや重さなど、好みがあるので、何が良いということもない。私は、いろいろ試したあげく、タチカワのT-36を使っている。
最後に、インクである。これも、非常に安い。たとえば、パイロットの製図用インクは、30mlで五百円である。私は、いろいろ試したあげく、開明墨汁に落ち着いた。
これらは、ちょっと大きな文房具屋か、画材店に売っている。身近なところでは、アニメイトで売っている。そう、あのアニメイトは、画材店でもあるのだ。アニメイトは、字を書くというより、絵を描くための画材を取り扱っているのだが、たいてい、つけペン関連の商品も置いている。
さて、以上で、つけペン習字に必要な道具は、すべて揃った。これを考えれば、千円以内でつけペンを始めるのに必要な道具はすべてそろうということである。そしてこれは、およそ望みうる最高最良の道具である。
よく、弘法は筆を選ばずという。しかし、弘法大使は、良い字を書く時は、筆を選んでいたとも、言われている。実際、我々は、物事が上手くいかない理由を、自分の能力ではなく、道具のせいにしがちである。しかし、世に名高い、硬筆習字のプロも、上に挙げたような道具を使っているのである。
すなわち、この道のプロですら、ひとつ百円に満たないペン先、一本数百円のペン軸、一瓶数百円のインクを使っているのである。たかが千円で、プロと同じ道具を揃えられるのである。もはや言い訳はできない。デスクペン一本分の値段、千円で買い揃えた、君の道具は、この世で最高の道具である。
良い筆記具で履歴書を書くことが、評価されると信じている輩は、つけペンを使うといい。わずか千円足らずで、プロと同じ、文句のつけようがない、最高の道具が手に入る。
さて、こんなことを書いていると、本物のつけペンマニアからお叱りを受けるので、最後に、つけペンの価値について書く。
大部分の者は、誇るほど字がうまくはない。それでもつけペンを使う価値があるだろうか。もちろんある。
つけペンに関する誤解がある。曰く、インクで手が汚れる、頻繁にインク壺の中にペンを突っ込まなければならない、そもそも使いづらい。などである。これらは、誤解である。
インクで手が汚れるのは、使い慣れていないだけである。私も、最初はインクで手が汚れたものだが、今は、全く汚れることがない。
つけペンのインクは、予想以上に持つ。一度ペンにインクをつければ、驚くほど多くの文字を書くことができる。
使いづらいというのは、少しあるかもしれない。というのも、ペンにインクをつけたまま、書かずに五分ほど放置するだけで、インクが乾いてしまい、書けなくなってしまう。この場合、一度ペン先を洗わなければならない。私はいろいろ考えたあげく、手元に水とティッシュを常備するようにした。
つけペンの利点であるが、実に多くある。第一に、書きやすい。ボールペンのような不自然な力を入れずにかけるし、ボールペンのようにペンを不自然に立てて書く必要もない。好きなインクを使える。万年筆には使えないような渋いインクでも、つけペンには、全く問題がない。ペン先は安くて使い捨てるので、万年筆のように気を使う必要もない。
結論としては、つけペンは、安価で最良の道具が手に入る、遊び心満載の、すばらしい筆記具である。是非とも使うべきだ。
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