2010-06-06

専門用語を一切使わないDPIの解説

近頃、DPI(Deep packet inspection)の広告目的の利用の是非についてもめている。しかし思うに、物事の本質を理解していない人が多いのではないか。この問題は、技術とは全く関係の無い話である。OSIのレイヤーがどうのとか、TCPの仕組みとか、ましてやHTTPプロトコルの仕様などとは、何の関係もない話である。

そこで、ここでは、できるだけ簡単に、DPIについて開設しようと思う。

問題なのは、通信の秘密である。我々がよく言う、道徳だとか、一般常識などということを、ひとまず忘れてみよう。そうすると、通信の秘密というのは、別に守らなくてもよいのではないのか。なぜ守らなければならないのか。法律があるからである。

今、甲が乙に手紙を出すとしよう。甲は、乙にあるモノを借りており、そのお礼の為に、手紙を出すのである。

拝啓、先日、貴君より借り居りし艶本、喜能会之故真通(きのえのこまつ)を、ついに堪能致し畢。これ、世に並び無き逸品にて、平生貴君の主張せし、「葛飾北斎の絵は萌え」も、宜なる哉。聞説、世に初めて「萌え」なる言葉を使いしは、かの藤原道長なるべしと云々。その故は、御堂関白記に、「一条天皇萌え給ふ」と記されたるに由りてなむ、かくは云いつる。これまことに畏れ多い事乍ら、関白殿の自筆の文書残る上は、疑いは無之候。喜能会之故真通にも、就中、蛸と海女は、随一の傑作にて候。

一見してすぐ分かるように、この文章は、あまり人に見られたくない。そのため、甲はこの手紙を封筒に入れて、郵便で送る。

通信の秘密という、法律上の制限があるために、郵便事業者は、この封筒を開けて、中身を覗き見ることはできない。

DPIを広告目的で認めるということは、この法律を緩めるということである。では、この場合、何が起こるか。

例えば、甲乙の家に、以下のようなダイレクトメールが送られてくるかもしれない。

拝啓、先日、貴殿は葛飾北斎の蛸と海女を言及なされ候。弊社はこれ日本霊異記を出版する会社にて候。ご存知のごとく、日本霊異記の中巻、第四十一には、「女人大蛇所婚頼藥力得全命縁 (にょにんおろちにくなかはれくすりのちからにたよりていのちをまつたくすることをうるえん)」と題する話の有之候。これ、女人の蛇に二度までも(くなか)はれる話にて候。興味のある上は、是非とも弊社の製品を買うてくださるべく、ひとえに願いたてまつり候。

これは、言うまでもなく悲惨である。いくら、封筒の中身はからくり人形が読むので、プライバシーの問題はないと言われたとしても、納得出来る話ではない。とはいえ、もし、広告を許可すれば、郵便料金が極端に安くなるか、無料だったとしたら、どうだろう。悩ましいところだ。

以上が、DIPの説明である。

しかし、通信の秘密が守られたとしても、結局乙がこの手紙を読むことにはかわりない。そもそも、この郵便事業者とは何を言うのか。OSIのモデルなど無視すれば、ISPもWebサイトも、郵便事業者に変わりないではないか。現在、メールの内容を読んで、広告を表示するWebサイトは存在する。GMailなどがいい例だ。ISPがやれば、単なるWebサイトやメールプロトコルを超えた情報が得られる。しかし、情報の多い少ないはあるとはいえ、結局、やっていることは変わらないではないか。ならば、緩めてもいいのではないか。

しかし、ただ広告を許可するだけでは、誰もそんなISPを使いたがらないだろう。一体、どうなれば、消費者は喜んでDIPを気にせず使うようになるのか。

たとえば、DIPを広告利用するかわりに、ISPや携帯電話の料金が無料になれば、どうであろうか。

これは、別に夢物語ではないと思う。NHK以外のテレビ局は、広告で利益を得ている。Googleも、広告で利益を得ている。うまく設計すれば、無料の携帯電話サービスを提供することも、可能になるかもしれない。

実際のところ、無料にでもならない限り、私はISPのDIP広告利用を許可したくはない。

3 comments:

  1. 途中からDPIがDIPになっていませんか?

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  2. こいつはやはり、拝啓から始まる文章が面白く(もしくは一般的だと)思えるような人に向けてあるんでしょうねぇ。
    せっかく分かりやすいのに…

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  3. 無駄なSSL化が進んで無駄な計算リソースが浪費されることになるに1票.

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