2010-06-06

専門用語を一切使わないDPIの解説2

前回、ネタが分からないという指摘を受けたので、仕方なくネタを封印する。

ともかく、DPI(Deep packet inspection)の広告利用の是非について、専門用語を使わずに説明する。

日本には、多くの、行政による規制が存在する。例えば、殺人や窃盗は、規制されている。道徳とか一般常識などという、時代や国や人によって変わるものは、あまり信用できない。なぜ、日本で殺人や窃盗が犯罪になるかというと、結局、法律で規制されているからである。

公道で車を運転したり、危険な物質を取り扱ったりするには、特別な許可が必要である。この許可を得るためには、行政の試験を通過しなければならない。

日本では、実に多くの事が、法律で規制されている。我々が犯罪と呼ぶところのものは、この規制を破る行為のことである。

では、なぜ規制されているのか。それは、規制があったほうが、都合がいいと、法律制定当時、皆が考えたからである。当時、人が勝手に他人を殺すのは不利益だと考えたから規制した。他人の所有物を盗むのは不利益だと考えたから規制した。十分な技量を持たぬ者が公道を運転しては不利益だと考えたから規制した。

しかし、時代が進んでいくと、当時思いもしなかった事情がでてくる。公職選挙法の文面が書かれた時代、我々は、候補者が使えるビラの枚数を制限した。これは、今のように、インターネット上のビラ、つまりはWebサイトやメールなどが、ほとんどコストを掛けず、何回でも閲覧できるような時代ではなかったからである。当時、そんなことは、まったくの夢物語であった。

新しい技術や事情、道徳、一般常識がでてくると、それに対応して、規制を緩めたり、廃止したり、あるいは新たに規制を作る必要がある。つまりは、法の改正である。

日本の規制の中に、通信の秘密というものがある。

たとえば、手紙を送る途中で、郵便事業者が、その中身を盗み見たとしたら、どうであろうか。あるいは、電話をしている途中で、電話事業者が、会話内容を盗聴したとしたら、どうであろうか。

通信の秘密は、この盗み見る、検閲行為を規制する法律である。通常、プロバイダとかISPと呼ばれるインターネット事業者は、通信の内容を盗み見てはならない。

この通信の秘密という規制は、ほとんどの日本人の道徳と一般常識に照らし合わせると、当然この規制があるべきだという答えが返ってくるだろう。

今回問題になっている、DPIの広告利用とは、この、盗み見る、検閲行為を、広告利用に限り、許可しようというものだ。

Googleを始めとした、多くの企業がやっている事とは、何が違うのか。ある私企業の名前で説明するのは差し障りがあるかもしれないが、結局、Googleは分かりやすいので、Googleで説明する。たとえば、Googleで検索する場合、Googleは、検索ワードやその他の情報を、保存しているではないか、と指摘する人がいるかもしれない。Googleは、通信を中継する者ではない。Googleは、手紙の差出人であり、電話に出る人である。

今、Googleに手紙を送ったり、電話をかけたりした場合、Googleがその手紙を保管したり、電話の内容を録音するのは、規制されていない。通信の秘密とは、これを中継する郵便と電話の事業者が、途中で盗み見るのを禁止しているのである。

だから、Googleとの通信内容を、Yahooが知ることはないし、その逆もない。

では、DPIの広告利用が許可された場合、どうなるか。

今、Googleで猫の画像や動画を検索したとする。Googleは、猫の画像や動画を検索したことを覚えておいて、次回、Googleにアクセスしたとき、まだ何も検索しないうちから、猫の画像や動画をおすすめしてくるかもしれない。これは、問題ない。なぜなら、Googleは、「猫を検索してくれ」と書いた手紙の差出人であるからだ。このことは、他の検索サイト、例えばYahooやBingは知らない。

しかし、DPIの広告利用が許されているので、インターネット事業者は、この一連の通信を、盗み見ている。いや、盗み見ているというと、語弊がある。なぜなら、DPIは規制されていないので、犯罪ではない。堂々と見ていると言った方がいい。

この後、YahooやBingにアクセスすると、「あなたは、以前Googleで猫の画像と動画を検索して、これとこれとあれを閲覧しましたね。実は、我社でも、猫の検索にかけては非常に優れています。チーズバーガーはお好きですか? Googleよりもおすすめですよ」などと表示されるかもしれない。これはなぜか。インターネット事業者が、通信内容を見ていて、YahooやBingに、Googleで猫について検索したという情報を、売り飛ばしているからである。いや、売り飛ばすというと、語弊がある。なぜなら、このことは規制されていないのだから、犯罪ではない。堂々と販売しているのである。

これを是とするか否とするかは、その人の道徳や価値観、一般常識などといった、あまりアテにならない判断基準に基づいて決定される。しかし、一般に、通信内容が、第三者に知られるのは、好ましいとは言えない。通信内容を売り飛ばすインターネット事業者などと、契約したくはないと考える人が多いであろう。とすると、規制がなくても、顧客を失うことになるので、事業者は容易にDPIはできない。一体、なぜこの規制を緩めることが重要なのか。

我々の世界は、広告に溢れている。テレビを見ればCMが流れ、外に出れば看板だらけ。インターネットも、広告で溢れている。広告は、非常に重要なのである。Googleが、無料で検索やメール等のサービスを提供できるのも、主に広告で利益を上げているからである。

たとえば、DPIをするかわりに、月々のインターネットの接続料金が大幅に下がる。あるいは、無料になるとしたら、どうであろうか。DPIをする代わりに、携帯電話の料金が安くなったり、無料になったとしたら、どうであろうか。電話をかけ放題、使い放題、ダウンロードし放題、しかも無料となれば、DPIがあってもいいと考える消費者は、多いのではないか。

あるいは、インターネットや携帯電話の事業者は、広告の利益を利用して、大幅に設備投資をすることもできる。日本中、どこでも携帯電話がつながる。しかも速度が速い。これらは、技術力の向上によって改良することもできるが、やはり、金の力も大きい。結局のところ、基地局を建て、光ファイバーを電柱に取り付け、あるいは地中に埋め、通信を中継する機器を増設する。それらの設備を保守するための、人員も増やさなければならない。カネさえあればということも、世の中には実に多いのである。

しかし、通信の秘密という規制がある以上、たとえ消費者が望んでいたとしても、DPIを提供することはできない。ここで、DPIの広告利用を許可するかどうかという議論になっているのである。

もちろん、問題がないわけでもない。特に言うまでもなく、プライバシーの問題がある。例えば、

何年何月何日何時何分何秒から、3時間ほど、Googleでエロ動画を検索した。

などという情報が知られても構わないという人は、おそらく、そう多くはいないだろう。もちろん、公開しても構わないという人はいる。しかし、全員がそうとは限らない。あるいは、秘密にしておきたかった情報が、漏れてしまう恐れもある。

以上が、DPIの解説である。私の意見では、DPIをしてもよいという明示的な意思表示があって、初めてDPIを許可するべきだと思う。また、事業者としても、DPIによる相当な利点を提供しなければ、消費者の心を掴むことはできないだろう。

DPIの広告利用が許可された未来の世界を予想してみる。

携帯電話には、DPI許可ボタンが搭載されている。このボタンを押すと、DPIの許可、不許可が変更される。DPIが許可されている間は、通信料が極端に安くなるか、無料になる。

この仕組みでは、DPIされても構わない通信と、秘密にしておきたい通信を、簡単に使い分けることができる。現実的には、このようなハイブリッド型の運用になるのではないかと思う。

もちろん、最初から全ての通信をDPIする。変更方法は存在しないということを、契約時に明言しておいて、そのかわり、それに見合った何らかの利点を提供する事業者が現れることもありえる。それはそれで、お互いが納得して契約するのならば、いいのではないかと思う。

いずれにせよ、これらの話は、規制が緩められてからの話である。現時点では、日本においてはDPIの広告利用は許可されていない。

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