2012-06-05

モラトリアムの終了と匿名文化の終了

2chまとめブログが、にわかにTwitterまとめブログに鞍替えする中、文化の違いによる軋轢が起こっている。

何が問題視されているかというと、まとめブログがtweetの引用に対し、出典元を隠しているということだ。私は、これは悪意あるものではなく、文化の違いによる一時的な混乱であると思う。

かつて、2ch.netでは、暗黙の自由な文化が築かれていた。私はこれを、「モラトリアムによって保護された自由な文化」と呼ぶことにする。このモラトリアムによって保護された自由な文化の元では、著作物は暗黙的にあらゆる利用を許諾されているものと認識されていた。もしくは、そもそも著作権保護は存在しないものと認識されていた。

こう書くと、犯罪文化の響きがするが、そうではない。自由な文化を築くには、明示的な許諾は重荷になるのだ。たとえば2ch.netでは、あるスレの書き込みを別のスレに転載する行為は、許諾なしで転載元も明確に示さず行われていた。時として、転載は改変を含むが、改変を改変であると明示せずに行われていた。特に印象に残る書き込みは、自由な文化による淘汰を生き残り、コピペやAAとして、長く残った。一体誰がオリジナルを書いたのかということを気にする者はいないし、そもそも気にする必要もなかったのだ。なぜならば、2ch.netの著作物は、すべてモラトリアムによって保護された自由な文化の元で発展していったからだ。

こういう文化の元では、わざわざ出典を明記しなくても自由な文化が保証されるので、実名主義になる必要はない。むしろ、匿名の文化が発展していった。わざと出典をぼかす文化が生まれていったのだ。たとえば、ネットゲームのスクリーンショットを2ch.netに転載するときには、たまたま写り込んでしまったキャラクター名は黒塗りして隠すことが礼儀であった。もし、ネットゲームのキャラクター名を2ch.netに出した場合、それは「晒し」と呼ばれ、大変に攻撃的な行為であった。「晒し」は、攻撃を行う意図がない限り、慎むべき大変失礼な行動だったのだ。

もちろん、匿名といっても限りがある。ログを取っていなかったとしても、結局通信には双方のIPアドレスが必要である。VPNを間に挟むことはできる。しかし、それは単に特定を少し難しくするだけのことだ。しかし、現実的には、ログインを強制せず、特定のニックネームの使用も強制せず、IPアドレスから一位に生成されるIDは、日毎に変わる。また、匿名文化により出典はぼかされる。これにより、十分実用的な匿名性が実現できていた。

だから、いま、まとめブログが出典を明記しないのも、この匿名文化が関係している可能性がある。2ちゃんねらーにとって、実名を上げて引用するのは、「晒し」であり、失礼で攻撃的なのだ。出典をぼかすのが、むしろ美徳であり礼儀なのだ。

2ch.netでは、商業主義を忌避する動きもよくあった。しかし、これは商業主義の忌避というより、モラトリアムによって保護された自由な文化の崩壊を恐れてのことであった。たとえば、既存の2ch.netのAAキャラクターが商品化されて、商標が取られた場合、それはモラトリアムによって保護された自由な文化の外に出てしまう。モラトリアムによって保護された自由な文化では、原作者や改変に関わった者の特定ができないので、商業主義者を訴えることもできない。逆に、商業主義者から訴えられた場合、負けてしまう恐れだってあるのだ。なぜならば、オリジナルを作ったという確たる証拠が用意できないからだ。そもそも、裁判の原告、被告となるべき具体的な者すらいない。

しかし、もはや、2ch.netの運営すら、このモラトリアムの暗黙の了解をやめたのだ。すべての書き込みのあらゆる著作権は、2ch.netの運営に譲渡されるようになった。だから、ユーザーも、もはやモラトリアムに頼ることはできない。これからは、法的根拠のある、積極的に自由を保証するライセンスを、明示的に使わなければならない。シェアアライクやコピーレフトといった概念をもつライセンスだ。同時に、匿名になることもできない。なぜならば、モラトリアムによって保護された自由な文化をやめて、法的に保護された自由の文化を求める以上、問題の解決は、個人間や特定の集団内で行われるのではなく、裁判所で行わなければならない。そのとき、オリジナルを確かに自分が作ったという証拠を示せなければ、負けてしまうのだ。

かつての2ちゃんねらーとして、モラトリアムと匿名文化がなくなってしまうのを目の当たりにするのは悲しい。しかし、残念ながら、我々は常に先に進まねばならない。自由な文化の未来のために、モラトリアムから決別しなければならないのだ。

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