2012-07-12

将来、ISBNやハッシュ値の提供が違法になるだろう

児童ポルノを提供しているWebサイトへのURLを提供したことは、児童ポルノを提供したことと同じであるという判決が注目を集めている。このURLと参照先は同一であるという解釈は、非常に危険である。

まず、児童ポルノから離れよう。児童ポルノという言葉が出た時点で、何が何でも違法であり反論するものは児童虐待者であるという、議論を許さぬ雰囲気がある。しかし、児童ポルノ以外にも、違法な表現は様々ある。たとえば、日本国ではわいせつ物は違法である。したがって、児童ポルノでなくても、わいせつであると裁判所によって認定された表現は違法なのだ。もちろん、著作権もある。著作権侵害は違法である。さらに、著作権法により、技術的保護手段の回避方法や、回避ツールを提供することは違法である。これも、表現が違法になる場合だ。さらに、個人情報もある。

実に、現在の日本国では、様々な表現が違法である。これ自体は、現在の価値観と法によるものである。気に入らなければ法を変えるしかない。

URLとは何かというと、インターネット上の場所を参照する文字列である。URLにより、Webサイトやその内部のページを参照することができる。たとえば、http://ja.wikipedia.org/wiki/Uniform_Resource_LocatortというURLがあると、ブラウザーは簡便化のため、URLから参照先の表現を取得することを、自動化してくれる。

このように、URLから参照先の表現を得ることは非常にたやすい。これは、インターネットと、インターネットを使うツールの発達によるものである。

あるいは、このURLから参照先の表現を得る容易さから、URL文字列の提供と、参照先の表現の提供は、同視できると判断されたのかもしれぬ。

しかし、この解釈は危険である。なぜならば、参照元を容易に入手できる参照方法というのは、他にも多数あるからである。

たとえばISBNだ。ISBNは中央管理された割り当てをされている。これにより、すでに発行された紙書籍のISBNを知っていれば、重複や混同なく、ある紙書籍を参照することができる。

さて、ISBNから参照先の書籍を入手することは、技術的に可能である。もちろん、今は、まだ多くのISBN参照されている書籍は著作権保護されていて、現実には容易に入手できない。しかし、著作権保護が切れる数百年後には、この重複しない一意なISBNによる書籍参照というのは、非常に便利な仕組みとして認識されているはずだ。著作権保護もないので、ISBNリンクから参照先の書籍を簡単に閲覧できる仕組みが整っているはずだ。現代ですら技術的に可能なのだから、全面核戦争で文明が衰退しない限り、数百年後には、このような仕組みが整っているはずだ。

そのような未来において、URLの提供と参照先の提供は同視できるというこの解釈を適用すると、非常に危険なことになる。ISBNの提供と参照先の書籍の提供は同視できるのだ。児童ポルノやわいせつ性や著作権や個人情報といった、違法な表現の定義は、時代により変わるものである。現代では公然と出版されていて、誰もその違法性を疑わない書籍であっても、将来は違法な表現に変わっているかもしれない。このために、違法な表現という概念そのものが危険なのだが、ここではその危険性は考えない。ともかく、将来、ある数百年前の書籍(つまり現代の書籍)が違法な表現であり、この解釈の判例が継承された社会では、ISBNの提供は参照先書籍の提供と同視でき、したがってISBNを提供するだけで違法だということが起こりうる。

もっと危険なのは、ハッシュ値だ。ハッシュ値とは、ある情報から計算される一意な値である。ハッシュ値の計算方法は、計算元の情報が1ビットでも異なれば、ハッシュ値も異なるように数学的に設計されている。もちろん、現実的には、ハッシュ値は、より多い情報をもとに計算した場合、重複する可能性がある。しかし、ハッシュ値はこの重複をできるだけ抑えるように設計されている。だから、ハッシュ値は情報を参照する値と呼ぶこともできる。

さて、ハッシュ値から元の情報を復元することはできない。しかし、ハッシュ値が一意な参照として働くのであれば、URLやISBNと同じく、表現への参照として使うことができる。したがって、ハッシュ値リンクから参照先の表現を容易に入手できるシステムを作ることができる。これも、現代の技術で可能である。

すると、この解釈の判例により、ハッシュ値の提供と、ハッシュ値により参照された表現の提供は、同視できるのではないか。

我々は恐ろしい暗黒時代に突入している。将来、ハッシュ値の利用は違法になり、ハッシュ関数の使用も政府の許可を必要とするようになるだろう。その時、我々はお互いを同志と呼び合い、あらゆる創作はスピークライトで行い、テレスクリーンの前で楽観的なほほ笑みを取り繕いながら体操することになるのだ。

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