2012-01-14

リチャード・ストールマンは常に正しかった

Richard Stallman Was Right All Along

去年の年末頃、オバマ大統領はテロリストの容疑者を裁判や令状なしに拘束できる法に署名した。世界中で起こっている平和的なオキュパイ運動家は、権力者からテロリストだとレッテル貼りをされている。通信を監視するSOPAを成立させるような圧力もある。30年前、リチャード・ストールマンがGNUプロジェクトを立ち上げてからこのかた30年間、彼の極端な物の見方は、馬鹿げていてパラノイアじみていると嘲笑されたものだ。しかし、この2012年において、パラノイアだと思われていた予測が、現実のものになろうとしている。

ごく最近まで、リチャード・ストールマンを世間離れしたパラノイアの狂人だと一笑に付すことは簡単であった。まあ、いってみれば、奴は古臭いコンピューターヒッピーだ。地下室に引きこもって自分の世界に浸っているパソコンオタクだ。あのヒゲ、あの髪、あの服。我々の価値観からすれば、単に彼を笑い飛ばすのは、実に簡単であった。

彼の思想は常に常軌を逸していた。彼の持つ唯一のコンピューターは、Lemote Yeeloong Notebookである。なぜならば、これは、フリーなソフトウェアだけを使い、ファームウェアに罠はなく、BIOSすら非フリーではないという、完全にフリーなコンピューターだからだ。彼はまた、携帯電話を持たない。なぜならば、携帯電話は追跡を容易にするからだ。Yeeloongのような携帯電話が出るまで、ストールマンは携帯電話を持ちたいとは思わないのだ。そう、すべてのソフトウェアはフリーであるべきだ。フリーソフトウェア財団がいっているように

我々の社会がより一層コンピューターに依存する中、フリーな社会の未来を守るために、我々の実行するソフトウェアの果たす役割は重い。フリーなソフトウェアは、我々が家庭で、学校で、仕事で、コンピューターを使うあらゆる個人、商用の作業において、ユーザーによる技術の制御を実現してくれる。非フリーなソフトウェア企業や政府による制限や監視から逃れることができるのだ。

私自身も、ストールマンは極端にも程があると考えていた。フリーなソフトウェアで政府の支配や監視と戦う? 世界征服をたくらむ悪の企業? プライベートな通信を監視するソフトウェア? まあ、そりゃ、フリーでオープンソースなソフトウェアってのは大事だよ。もし非フリーなソフトウェアと同等機能を提供するフリーなソフトウェアがあるならば、もちろんそっちを選ぶさ。でも、ストールマンとフリーソフトウェア財団の非常識な主張にはうんざりだね、と。

しかし、2012年が始まるや、オバマはNDAA for 2012に署名した。これにより、アメリカ市民は、テロリストの容疑だけで、裁判や何らの令状手続きなしに、無期限に拘束され得るのだ。そして、SOPAだ。これがもし通れば、何らの裁判や令状なしに、Webサイトは消されるし、インターネットの通信を監視することも可能になる。さて、権力者がオキュパイ運動をなんとレッテル貼りしているか、テロリストである。さて、この先どうなるかは、明白である。

この動きを、中国や似たような全体主義国の傾向にみるのは、決して見当違いではない。アメリカ映画協会、すなわちMPAAでさえ、誇らしげに言っているではないか。中国、シリア、イランなどの国でうまくいっていることは、アメリカでもうまくいくに違いないと。中国のグレート・ファイアーウォールや似たようなフィルターシステムは、この自由であるべき世界に対して、実現可能な手法であると。

重要な点は、昔と違い、秘密警察と密告者によって通信を傍受しなくてもいいということだ。ただ、我々の使っているソフトウェアとハードウェアを支配すればいいのだ。我々のデスクトップPC、ノートPC、タブレット、スマートフォン、その他のあらゆるデバイスは、通信に使われる。リアルで体面すれば秘密を守れると思っているのかい? ちょっと待ちたまえ。どうやって密会を取り持ったのかね? まさか電話で? ネットで? しかも、そのポケットやバッグに入ってる、常にネットワークにつながっている状態のデバイスはなんだい? 

これこそが、ストールマンが30年も我々に警告してきた脅威なのだ。それなのに我々は、私も含めて、彼を真面目に取り合って来なかった。しかし、世界が変わろうとしている今この時、自分のデバイスで実行されているコードを検証できるということの大切さは、誰の目にも明らかである。もし、我々が、自分の所有するコンピューターを検証することができなければ、我々は奴隷だ。

これこそが、フリーソフトウェア財団とストールマンの信条なのである。すなわち、非フリーなソフトウェアはユーザーの支配力を奪うものであり、結果として深刻な脅威を引き起こすのである。特に今、我々はコンピューターに全てを依存しているのだから。ストールマンがこの事実を30年も前に気づいていたというのは、驚嘆すべきである。彼の活動は正当化される。この30年に及ぶフリーソフトウェア財団の活動も正当化される。

そして、この2012年において、我々は以前にも増して切実に、フリーかつオープンソースなソフトウェアを必要とするであろう。去年、ベルリンで開かれたChaos Computer Congressにおいて、Cory Doctorowは「汎用コンピューターに来るべき戦争(拙訳:本の虫: 汎用コンピュータ戦争)」と題して、スピーチを行った。その中で、Doctorowは汎用コンピューターに振りかかる脅威、特に、汎用コンピューターに対するユーザーの支配力に対する脅威に対して警告した。著作権戦争など、本当の戦争の前哨戦に過ぎないのだ。

「ウォークマンの世代として、僕が老いたときには、補聴器が必要になることに納得している。もちろん、僕が体に装着するのは補聴器ではなく、コンピューターである。僕が車に乗り込む時というのは、自分の体をコンピューターの中に押し込んでいるのだ。もちろん、補聴器も、僕の体の中に装着しているコンピューターだ。僕は、これらの技術に、何か秘密の機能が搭載されていて、僕の意志に反して動作の強制終了を拒否するようになっていないかどうかを確かめたい。」

上記は、ほんの一部の引用である。コンピューターが聴覚や移動などのあらゆることを補助する世界では、自分の支配できないコンピューターなどもってのほかだ。我々は内部動作を確認できる必要がある。我々が監視、検閲などなされていないように確認できる必要がある。我々は少し前まで、単なるパラノイアだと一笑に付していた。しかし、近年の動きを見るに、もはやパラノイアではない。現実である

「未来の自由を守るためには、自分の使っているデバイスを検証できる必要がある。実行中のプロセスの検証と終了により、デバイスが自分に忠実なしもべであると確証できる必要がある。コンピューターが犯罪者や諜報機関や規制派のための道具に成り下がってはならない。我々はまだ、敗戦しているわけではない。しかし、我々はインターネットとPCを自由かつオープンに保つため、この著作権戦争に必ず勝利しなければならない。何故ならば、インターネットとPCは、将来の戦争のための武器だから、これ無くして来るべき戦争に勝つことはできない。」

だからこそ、我々は、たとえiPhoneの方が気に入っていたとしても、Android(GoogleではなくAndroid)をサポートしたほうがよい。たとえWindowsを使っているとしても、Linuxをサポートしたほうがよい。たとえIISを使っていたとしても、Apacheをサポートしたほうがよい。フリーである、オープンであるというのは、単にかっこいいだけでなく、必要となる時代が来るのだ。

リチャード・ストールマンって実は当時から一貫してすんげー正しかったんじゃね? というお話。

3 comments:

Anonymous said...

まてーい!Android にゃあの恐ろしいGoogle様が付き添っとるがな!
http://takagi-hiromitsu.jp/diary/20111126.html
http://kari2mofu2.com/archives/2680863.html
Android使わずGoogle使うってなかなか難しい事おっしゃりますなぁ…

江添亮 said...

ここで問題にしているのは、自分の所有するデバイスの動作の検証なので、そのためにはソースコードにアクセスできる必要があるのです。
Googleがサーバーサイドで何をしているかというのは、ここでの問題ではありません。

Anonymous said...

スノーデン事件の後に読むと、RMSは未来から来た人間のように感じる