2013-06-07

ステレオタイプなLinuxカーネル開発者

この記事はおふざけで書いた。

30人のLinuxカーネル開発者から、PC環境がステレオタイプというか、古典的というか、典型的というか、硬派なカーネル開発者像に合致するような人物を探してみた。主に、「ソフトウェア開発に愛用している生産性向上ツールを教えてください」という質問を参考にして考察した。もちろん、完全に主観的な見た目の評価である。技術力の評価ではない。

硬派の考察としては、主にGUIのソフトウェアも存在するような場合でもCLIのソフトウェアを使っていることや、そのほかの利用しているPC環境の一般人から考えての奇抜さを考慮した。ただし、カーネル開発ならば当然使うようなツールは除外した。

30人のLinuxカーネル開発者:Linus Torvalds

Linux Torvaldsは、もちろんLinuxカーネルの元を最初に書いた本人そのものなのだが、どうもインパクトに欠ける。いや、技術上はすごい人だし、GUIもあるようなソフトウェアでもあえてCLIのツールも多数使っているのだが、例えば、「リーナスはターミナルエミュレーターの立ちあげにはマウスクリックするアイコンを使う」などと書くと、他の硬派な人たちからすれば見劣りする。もちろん、すごい人ではあるのだけれど。これだけ世界中で使われているソフトウェアをひとつならずふたつも書く人間なんてそうそういない。

これは別のインタビューの内容だが、リーナスは以前、UbuntuやLinux Mintのようなディストロを使うのはなぜかと聞かれて、他のディストロで設定ファイルを手動で書き換えて詳細な変更ができることに言及し、それに対し、「俺ができるからと言って、俺がやりたいわけじゃない」と答えている。そういう詳細を普通の利用者に直接弄らせるのは不便だと考えているのだろう。リーナスはデフォルトの設定がリーナスの価値観にとってまともかどうかを重要視している。リーナスはやろうと思えば、いくらでも自力で設定、あるいは作り出せる力を持つだけに、なおさら興味深い。

30人のLinuxカーネル開発者:Thomas Gleixner

彼はコマンドラインツールを使っていることを肯定したものの、どのテキストエディターを使っているかについては明らかにしていない。Vi vs Emacs論争に巻き込まないでくれとのことだ。体よくかわしたともとれるが、このような発言をするところも硬派といえるのではないか。

30人のLinuxカーネル開発者:Sarah Sharp

彼女はVim(テキストエディター)とMutt(メールクライアント)を愛用している。どちらもCLIのソフトウェアであり、硬派ということができる。

30人のLinuxカーネル開発者:Jean Delvare

まあ、特筆すべきことはないとおもう。エディターもGUIのものを使っているようだ。ただし、

私はとてもシンプルな人間です。端末と make と gcc があれば十分です。

とは言っている。硬派だろう。

30人のLinuxカーネル開発者:Greg Kroah-Hartman

まあ、普通の硬派な開発者だ。mutt(メールクライアント)とvim(テキストエディター)とirrsi(IRCクライアント)を愛用している。どれもCLIのツールであり、硬派な人間という事ができる。

30人のLinuxカーネル開発者:Dave Jones

サングラスとおヒゲが非常に硬派な見た目の人。PC環境については多くを語らず、他のカーネル開発者と同じだと答えている。作業を楽にするためのシェルスクリプトをたくさん書いているとも言っているが、これはプログラマーとしては自然なことで、特に硬派というほどでもない。デスクトップはXfceで、GUI環境としては、GNOMEやKDEに比べれば、やや硬派な部類にはなるかもしれない。

30人のLinuxカーネル開発者:Paul Mundt
英語版:30 Linux Kernel Developers in 30 Weeks: Paul Mundt | Linux.com

Paul Mundtさんは、優勝まちがいなしの硬派なカーネル開発者である。

彼の主な作業環境はfbcon。Xは起動しない。これはフレームバッファー上のターミナルである。フレームバッファーを使えば、ターミナルでも日本語表示ができる。他にもvimとmuttを使っているらしいが、メイン環境がfbconの衝撃に比べれば、些細なことだ。

デスクトップの環境ではいい仕事ができたためしがないので、なるべく避けています。とは言っても、lynx で開けない Web サイトを見る時、非常識なフォーマットの資料を開く時、あるいは日本語入力で必要以上にてこずった時は、やむを得ず fvwm2 を起動することもあります。テキスト データでの作業が一番理想的です。

筋金入りの硬派なカーネル開発者だ。

「デスクトップの環境ではいい仕事ができたためしがない」とか、「非常識なフォーマットの資料」とか、「やむを得ず fvwm2 を起動する」などという言葉がすばらしい。

しかも見た目が髭面と、非常に硬派だ。インタビュー掲載の画像では、少し太めに見えるが、騙されてはいけない。どうやらTwitterを読むに、登山やウルトラマラソンもやるらしく、相当に肉体的にも鍛えられていることが伺える。登山はともかくとしても、ウルトラマラソンはすごすぎる。

Paul Mundt (pmundt) on Twitter

さらにすごいことに、今日本在住で、日本語も理解しているため、このブログで安易にステレオタイプがどうこうとネタに取り上げていることがバレる恐れもある。日本語では隠し通せない。とんでもない人だ。

30人のLinuxカーネル開発者:Alan Cox

見た目が老ハッカーらしくてかなり硬派だ。利用しているツールも、CLIのものばかりで硬派だ。

30人のLinuxカーネル開発者:Arnd Bergmann

このインタビューを読む限りでは、他の硬派なカーネル開発者の前に霞んでしまう。もちろん、多くを語ってはいないので、情報不足なのだが。

30人のLinuxカーネル開発者:John W. Linville

私は単純なコマンドライン人間です。デスクトップはいつもターミナル ウィンドウで一杯です。自動化が必要な時は、Bash、sed や awk を使って楽しんでいます。

とあるから、硬派な開発者だ。

30人のLinuxカーネル開発者:Johannes Berg

まあ、テキストエディターにCLIのjoeを使っているので、硬派といえるか。

30人のLinuxカーネル開発者:Martin K. Petersen

この人も相当に硬派な開発者だ。

デスクトップでは Fedora を走らせていますが、基本的にはただの X ターミナルです。重要な仕事は全て複数のリモートマシンで行っています。愛用するツールはあまり変えません。xterm、emacs、perl、mc、そして git です。グラフィカル デスクトップには遠い昔にしびれを切らし、今は i3 ウィンドウ マネージャーを使ってます。ターミナルをきちんと管理させてくれるのが理由です。

Xこそ使うものの、単にターミナルエミュレーターを画面上で分割して管理するためのXでしかない。

30人のLinuxカーネル開発者:Julia Lawall

Emacsとocamlを使っているので硬派でまちがいなし。

30人のLinuxカーネル開発者:Ben Hutchings

あまりPC環境について多くを語っていないので情報不足。

30人のLinuxカーネル開発者:Mauro Carvalho Chehab

メールクライアントは主にThunderbirdだそうだ。硬派な選択肢としては、pineも使うらしいので

通常はテキスト モードのツールを好んで使いますが、必要があれば GUI ツールを使うことにも抵抗はありません。ファイルの編集にはおもに nano を使いますが、高度な作業には kate が最適です。

柔軟な人間だろうか。

30人のLinuxカーネル開発者:Jiří Slabý

vimを愛用しているらしいが、情報不足。

30人のLinuxカーネル開発者:Laurent Pinchart

この人もvim愛用以外には詳しく語っていないので情報不足だが、

歴史的な理由から、デスクトップではKDEを走らせています。開発面でいうと、キーボードのみのコンソール コントロールのオプションがあるシステムなら何でも良いです。

とあるから、やはり硬派なカーネル開発者といえるだろう。

30人のLinuxカーネル開発者:Jiří Kosina

KDE の黎明期以来 KDE を使っていました。でも KDE4 で限界に達しました。ずっと軽いツールに変えずにはいられなくなったのです。現在は、icewm の中でたくさんの xterm を開き、vim、gcc、git、quilt, (al)pine、ブラウザー、任意の IM クライアント、IP 電話用の twinkle、mplayer などを使っています。

硬派好みのキーワードは散見されるものの、温和な方ではないかと思う。

30人のLinuxカーネル開発者:Chuck Lever

忌まわしいと思う人もいるかもしれませんが、デスクトップでは Mac Os を走らせています。そして、Linux の開発は仮想環境で行っています。Mac Os は使い勝手もよく、有効な生産性ツールも備えています。Evernote は頻繁に使う生産性ツールの1つです。

硬派ではない。

30人のLinuxカーネル開発者:H. Peter Anvin

おそらく硬派ではない。

30人のLinuxカーネル開発者:Steven Rostedt

私はデスクトップのタブレット パラダイムには興味がありません。

生産性向上ツールは Emacs です。Emacs は、OS の上で動作する私の OS です。

このようなことをわざわざ答えるからには、相当に硬派なカーネル開発者であるといえる。

また、「コードを書くときには何か聴いていますか?」という質問に、「コンピューター ファンの音です」と答えるのも評価点だ。

30人のLinuxカーネル開発者:Stephen Hemminger

硬派らしくヒゲを生やしている。残念ながら、利用しているソフトウェアについてはKVMによる仮想化と答えるのみで、エディターとかメールクライアントについては未詳。

30人のLinuxカーネル開発者:Glauber Costa

読む限り硬派な感じは受けない。シーランド公国の爵位を持っているのはネタとして面白いが。

30人のLinuxカーネル開発者:Jonathan Corbet

あまり硬派な感じは受けない。

30人のLinuxカーネル開発者:John Stultz

ヒゲは生やしているものの、あまり硬派な感じは受けない。

30人のLinuxカーネル開発者:James Bottomley

硬派な感じは受けない。

30人のLinuxカーネル開発者:Chris Mason

おもに Arch Linux を使っています。このソフトのローリング アップデート モデルはメインライン向けの作業に適しています。ウィンドウ マネージャーには他のデスクトップ環境を使わず、awesome を使用しています。たくさんのウィンドウを扱うにはこれが一番賢い方法です。

疑いようなく硬派な開発者である。

30人のLinuxカーネル開発者:Herbert Xu

テキストエディターはelvis、GNOMEだが常にターミナルエミュレーターを全画面表示といっているので、それなりに硬派といえるのではないか。

30人のLinuxカーネル開発者:Frédéric Weisbecker

情報不足。

30人のLinuxカーネル開発者:Paul E. McKenney

立派なヒゲを生やしている。硬派かどうかは判断しかねる。

なぜ viか? それは、30 年前に使っていた共同利用システムは 、emacs のセッションを 1 つしかサポートできませんでしたが、vi のセッションなら同時に 7~8 個サポートできたからです。そういう環境で emacs を使うのは社会的に許されませんでした。

これを読めば硬派にみえなくもないが、今もviを使っているものの、UbuntuのUnity2Dを使っているそうだ。ただし、Unity2Dはもう打ち切られたので、今はなにか別のものを使っているはずだ。UnityではなくUnity2Dをわざわざ使っていたことから、硬派とも言えないことはないが。

感想

何人かのカーネル開発者がviと答えているが、まずオリジナルのBill Joyによって書かれたviではなく、クローンだろう。

メールクライアントとして、MuttとPineの多さが目についた。

エディターはViかEmacsが多いようだが、GUIのエディターとして、NEditを挙げるカーネル開発者も数人いた。NEditはそれほど有名というわけではないと思うのだが、面白いことだ。

途中で、自分でも硬派の基準がよくわからなくなってきた。なんとなく評価後に自分が何を硬派と評価していたのか振り返ってみると、テキストエディターやメールクライアントのようなソフトウェアにCLIのソフトウェアを使うのは硬派、デスクトップ環境に軽量だったり、ミニマリストなタイルベースだったりするのは硬派、ヒゲは硬派、といったところか。

最も硬派でステレオタイプなLinuxカーネル開発者は、たぶんPaul Mundtさんだと思う。

2 comments:

Anonymous said...

GUIと来ればCUIがバランスのいい言葉かなと思って調べるとCUIは和製英語だということをこの記事をきっかけに知りました。

江添亮 said...

CUIというのは日本独自の造語で、英語圏ではCLIを使っているというのは、私も英語を学び始めた時に驚いたことですね。