2013-09-12

xkcd: 1337

この一連の5部作のタイトルは1377。これはleet(英語圏における2ch語に相当する記法)をleetで書いたもの。またひょっとしたら、ジョージ・オーウェルの1984も意識しているのではないかと思う。

xkcd: 1337: Part 1

母「あんたまさか、お隣さんのWiFi使ってるんじゃないでしょうね?」
子「そうだけど何か?」
母「その管理者は・・・イタズラ好きなのよ」
子「大丈夫だって。何なら今からセキュアなVPN経由にするさ」

子「何だと! トンネルしようとすると一瞬でコネクションがブチ切れるぞ」
『VPNですって? あら可愛いわね。sshもやめときな』
子「ありえん。誰かが俺の見てるページに埋め込みやがったァッ! 手でッ! リアルタイムにTCPストリームを編集してやがるッ!」
子「そんなに素早いヤツがいるわけがねェーッ。この管理者、何者ォッ?」

ロバーツ夫人「おーやおや、お隣んとこのドラ息子が無線に引っかかってるわい」
ガタタタタタタタ

母「ロバーツ夫人のことは話しておくべきだったわね」
子「あのババア、一体どうやってオーブン用の手袋したままタイプしてやがるんだ?」
母「こっぴどくやられたわね。お座りなさい」

捕捉:

ロバーツ夫人(Mrs. Roberts):

この架空の人物は、xkcd: Exploits of a Momに出てくるカーチャンと同一人物であることが強く示唆されている。息子の名前はボビー、娘の名前はエライネだが、titleテキストでミドルネームであると書かれている。これは、xkcd 327のテキストとtitleテキストの記述に一致する。

titleテキストは、一昔前に流行った、WiFiタダ乗りしてくるヤツに対して、HTTPプロトコルで要求される画像を改ざんし、反転させて提供するイタズラをしこんだネタ、及びその時に使われたスクリプトを指す。

xkcd: 1337: Part 2

子「すると、今の時代の最高のハッカーは、あのクッキー焼いてるババアなのか」
母「二番目に最高なのよ」
子「え?」

ロバーツ夫人には二人のお子さんがいたの。息子さんのボビーは、あんまりコンピューターの才能がなかったんだけど、娘さんのエレイネの方は、それはそれは才能があってね

エレイネが11歳になった時、お母さんは修行のためにドナルド・クヌースのいる深山の隠れ家に送ったの。

そこで四年間、アルゴリズムについて学んだのよ

クヌース「弟子よ」
クヌース「なぜA*探索はこの場合、不適なのか述べよ」
シュバッ
エレイネ「メモリ使用量!」
クヌース「うぬは何を使う?」
エレイネ「ダイクストラのアルゴリズム!」

そしてついに師を打ち負かしたの。

クヌース「ゆえに、この場合における下限はO(n log n)」
エレイネ「違うわ、O(n log( log n ) )にできるわ」

そして師のもとを辞した。

捕捉:

ボビー(Bobby):

この架空の人物は、xkcd: Exploits of a Momとの関連が強く示唆される。本名は、 Robert'); DROP TABLE students;-- であろう。通称はリトルボビーテーブルズ(Little Bobby Tables)

エレイネ(Elaine):

この架空の人物は、xkcd: Exploits of a Momのtitleテキストとの関連が強く示唆される。本編のtitleテキストに書かれているように、エレイネは、実際にはミドルネームである。また、327のtitleテキストを考慮すれば、本名は、ヘルプ!アイムトラップドインアドライバーズライセンスファクトリー・エレイネ・ロバーツ(Help! I'm trapped in a driver's license factory Elaine Roberts)であろう。

ドナルド・クヌース(Donald Knuth):

Donald Knuthは実在の人物。The Art of Computer Programmingの著者であり、伝説的なアルゴリズムとデータ構造の第一人者である。また、本を書くためにまともな組版ソフトウェアがないため、texを開発した。本編では、山中の隠れ家に住んでいる。

xkcd: 1337: Part 3

90年代後半、エレイネはアドリアン・ラモの助けを借りて、国家施設へ侵入したの。アドリアン・ラモは「ホームレスハッカー」で、仮想的にも物理的にも侵入技術を持っていたのよ。

ラモ「こうやって、布切れをフェンスにかけて・・・ところで、ここは一体どこだい?」
エレイネ「いや、別に」
ラモ「エレイネ、ひょっとしてここは、NSAの建物じゃ?」
エレイネ「奴らがRSAを破ったかどうか知りたいだけなのよ」

エレイネは、ローレンス・レッシグからアメリカ合衆国の著作権法の横暴について学んだの。

エレイネ「で、どうやって現状を直すの? 悪人をブッ刺せばいいんじゃない?」
チャキッ
レッシグ「私は、『クリエイティブ・コモンズ』と名付けたものを立ち上げようと思っている」
エレイネ「悪人をブッ刺した方がいいと思うんだけどな・・・」

エレイネは、スティーブ・ジョブズと会って、Appleの未来について議論したわ

エレイネ「圧縮と帯域はすべてを変える」
ジョブズ「誰だね君は、午前3時だぞ」
エレイネ「Appleはポータブルミュージックプレイヤーを作るべきだ」
ジョブズ「警察を呼ぶぞ」
エレイネ「おお、そうだ。携帯電話と合体させてはどうかな」

エレイネは、ドラム演奏にも手を出したわ。

一時期、一大の女性運動に発展したわ。プログラミングと音楽を独学する女性集団。昼はコーディング、夜はロック。

RIOT PRRL

捕捉:

アドリアン・ラモ(Adrian Lamo):

Adrian Lamoは実在の人物。セキュリティ研究家で、脆弱性の実証のために、実際に数々の攻撃を行った。2009年、彼はアメリカ政府の手先となり、Bradley Manningと連絡をとって、彼の正体を突き止め、逮捕の糸口を作り出した。先の実証実験で逮捕され犯罪に問われていたので、なにか司法取引のようなものがあったのではないかと推測される。

ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig):

Lawrence Lessigは実在の人物。法学の教授で、現行の著作権法への疑問を提案し、またクリエイティブ・コモンズの基礎となるアイディアを提唱した。

スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)

Steve Jobsは実在の人物。リード大学を中退し、友人の学生寮に潜り込んで空き缶拾いで生活し、インドで悟りを得ようと修行僧に会いに行ったり、LSDによって人生観を変えたりした。Appleを立ちあげ、後に追い出され、後に買収し、落ち目だったAppleをiPodやiPhoneやiPadといった製品で再び立ち上がらせた。作中では、iPodやiPhoneのアイディアをエレイネから得たとされている。

RIOT PRRL

RIOT PRRLは、おそらくPerlを書くフェミニスト集団の架空の社会現象。これは、Riot grrrlという実際のフェミニスト集団による社会現象を元にしている。Riot grrrlは、フェミニスト集団によるロック音楽として、一時期、アメリカ合衆国で社会現象となった。

xkcd: 1337: Part 4

やがて、エレイネはハッキング技術を遺憾なく発揮するようになり、多くの脆弱性を突く攻撃を匿名で発表するようになったの。

プロプライエタリなハードウェアをクラックするため、エレイネは信号処理とデータ転送プロトコルの第一人者と組んだわ。

エレイネ「ただいま、カーチャン」
ロバーツ夫人「おかえり、調子はどう」

二人の活動は止められなかったわ
エレイネ「CSS解読プログラム、完成したよ」
ロバーツ夫人「よくやったわね。ヨンに送っとくわ」

そして、ついに発覚に至った。
RIAA「ゲームオーバーだな」
MPAA「一緒に来てもらおう」

エレイネ「どうかしら?」
チャキッ
ロバーツ夫人「まあ、まあ、エレイネ」

スチャッ
スチャッ

ロバーツ夫人「挑発するんじゃありません」
RIAA「我々に危害を加える意図はない。お嬢さん方」
ロバーツ夫人「バカなことをいうない。レコード会社の社員が勝手に他人の家に押し入って斬り捨て御免が許されるとでも?」

RIAA「ほう、まだDMCAを読んでいないようだな」
MPAA「4章408項、武力行使の認可」

聞けい!

ストールマン「そこなる者、自由への侵害をやめよ」
ストールマン「さもなくんば、せいぜい己が身を守るがよい」
MPAA「ストールマン!」

ヨン(Jon):

Jon Lech Johansenは実在の人物。DVD-Videoに使われているDRM技術、CSSの解読をするプログラム、DeCSSを開発した。作中では、実際に開発したのはエレイネで、ヨンは単にロバーツ夫人から受け取っただけだとされている。

RIAA:

Recording Industry Association of Americaは実在の団体。著名な音楽業者が参加する圧力団体であり、音楽の記録媒体の技術制定や、音楽の著作権侵害を行ったものへの訴訟の原告として活動する。訴訟をちらつかせて和解金をせしめる商売をしていたが、著作権侵害の証拠をまともにそろえないヤクザな脅しばかりしていたため、実際の裁判になると負けていることもある。作中では、ヤクザな仕事をしている。

MPAA:

Motion Picture Association of America - Wikipedia, the free encyclopediaはアメリカの映画業者の参加する圧力団体。

ストールマン(Stallman):

Richard Stallmanは実在の人物。完全に自由なUNIX互換OSであるGNUの開発を宣言し、また自由ソフトウェア財団やGNUプロジェクトを設立し、自由ソフトウェアの概念を提唱した。作中では、二刀流の剣客として活躍。また、このマンガの影響で、カタナをプレゼントされた。

titleテキストの、「ロバーツ夫人がすぐに立ち上がらなかった理由は、もちろん、find ~とfind ~nomadをxargs shredにパイプするのに忙しかったからである。念の為」は、UNIXにおけるホームディレクトリ化のファイルをすべて完全に消去するための方法。find ~でホームディレクトリ下のファイルをすべて列挙し、パイプでxargsに渡し、xargsは一行ずつshredに渡す。shredは、ファイルを擬似乱数で何度も上書きするツールである。これにより、ファイルの情報を、完全にストレージ上から消すことができる。~nomadは、おそらくカーチャンのコンピューターにある娘用のユーザー名がnomadなのであろう。

xkcd: 1337: Part 5

エレイネ「ありがとう、ストールマン」
ストールマン「礼には及ばぬ」

エレイネ「でも、待てよ。どうして追い詰められてるって分かったの?」
ストールマン「これなん我が友、風船に乗りて、ここな外道を追跡せり」
ストールマン「友、我を呼べり。我、応じて馳せ参じたり」
ドクトロー「イヨゥ、オレっちコリー・ドクトロー。よろしくな」

エレイネ「風船?」
ストールマン「左様さ。天に『ブロゴスフィア』なるものを建設せり」
ドクトロー「そゆこと、20km上空のタグクラウドの上に作ったのさ」

ボビー「カーチャン、お腹空いた」
ロバーツ夫人「シッシッ、今コーディング中なんだよ。昨日食べたでしょ」
ストールマン「いかに、ロバーツ。GNUに、汝が如き良きコーダーの居場所あらんか。参加する意あらんか」
エレイネ「まあ、気が向いたらね。今は業界を崩壊させるほうが先よ」
エレイネ「音楽業界にはこの手のバカは必要ないわ」
ドクトロー「カエレ、俺らのスレを二度と荒らすなよ」

ストールマン「適当な脆弱性を突く攻撃のみして業界を直すことさらに望みなし。公衆をして共有の精神に目覚めしむるを要せり」
ドクトロー「イヨゥ、オメエっちの音楽とコーディング技術を使えば、良さげなP2Pシステムを作れんじゃね?」

エレイネ「ハァ? 単なる海賊」
ドクトロー「まあ、そういうこったね。考えてみたことはあるかい? 君なら偉大なる海賊(Dread Pirate)になれると思うよ。ロバーツ」

とか

エピローグ

ブラム・コーエンは、エレイネが語った構想をもとに、BitTorrentを開発した。

ロバーツ夫人は、Ubuntuの開発に精を出し、また、自分の娘に対して「お前のカーチャン」というジョークを使用する者を逆に辱め続けている。

エレイネはいまだにネット上をさまよっている。彼女はいくつものコミュニティに参加しては、コードやコメントで貢献し、また旅立っていった。もし、深夜に、ストリーミングオーディオプレイヤーで正しいIPアドレスに正しいタイミングで接続したならば、エレイネがロックしてる様子が聞ける。

ハッピーハッキング

捕捉:

コリー・ドクトロー(Cory Doctorow):

Cory Doctorowは実在の人物。ブロガー兼ジャーナリスト兼SF作家。ブログBoing Boingを運営している。多くの作品をクリエイティブコモンズのうちのどれかのライセンスで公開している。現行の著作権法の行き過ぎに批判的であり、クリエイティブコモンズにも賛同している。作中では、風船に乗り上空で、ブロゴスフィアとかタグクラウドといった言葉を文字通りに実践している。

ブラム・コーエン(Bram Cohen):

Bram Cohenは実在の人物。BitTorrentプロトコルの設計者にして、BitTorrentプロトコルを実装したソフトウェアBitTorrentの実装者。作中では、ブラム・コーエンはBitTorrentプロトコルの構想をエレイネから得たとされている。

偉大なる海賊ロバーツ(Dread Pirate Roberts)

Dread Pirate Robertsは、ウィリアム・ゴールドマンの小説プリンセス・ブライドに出てくる架空のキャラクター。伝説的な海賊で、七つの海で恐れられている。

追記:このブログでは引用するときは必ず出典を明記している。著作権上、どこまでが「引用」にあたるのかは、個別の判断になるのでわからない。この記事を書いた時、explain xkcdは確かに参考にしたが、そこから訳したわけではない。それをパクリというと、この記事はむしろ、Wikipediaのパクリである。なぜならば、人物説明はほとんどWikipediaを読んでまとめたからだ。explain xkcdの人物説明も、ことによるとWikipediaを参考に書かれているのかもしれない。

2 comments:

gamelocalize said...

面白かった。ところで

> RIAA「ゲームオーバーだな」
> RIAA「一緒に来てもらおう」

これ片方MPAA(映画業界団体)じゃね

江添亮 said...

あ、よく見たら。