楽天の三木谷社長は、「日本中でWiFiを開通させてすべて無料にしてしまえば、今までなかったようなイノベーションがどんどん起きる」と言ったそうである。
楽天社長「WiFi無料化で革新的な起業促せ」 :日本経済新聞
たしかに、もし日本国民全員に、無料の無線ネットワークが提供されていれば、なかなか面白いことになる。
たとえば携帯電話だ。今の日本の携帯電話は、甚だ不自然で不公平な権力の不一致を引き起こしている。
携帯電話のほとんどは、制限コンピューターである。制限コンピューターとは、ハードウェア上で動くソフトウェアが、利用者の意のまま支配できず、提供者に支配されるものをさす。私が所有している紙の本が、出版社により遠隔操作で華氏451度(馬鹿げた単位を使うアメリカ人以外のために説明すれば、これは約摂氏233度)に設定できるとすれば、もはや我々は、その紙の本を支配しているとは言えない。もし、紙の本にそのような技術が搭載されていれば、許しがたいことだ。しかし、何故かこの2013年では、コンピューターにそのような装置(遠隔操作での消去)が搭載されていても、多くの無知蒙昧なる奴隷は文句を言わない。
制限コンピューターはそれだけで悪だが、さらにひどいことがある。ネットワークが固定されているのだ。
どのようなネットワークを使うかが、物理的なハードウェアと固定されているのは、許しがたい制限である。しかし、この2013年の日本の携帯電話は、皆そのような許しがたい制限を備えている。これは、携帯電話の利用者ではなく、提供者に一方的な権力を与えるものである。ここでは、このような携帯電話の提供者を、抑圧勢力と呼ぶ。
もし、日本全国に無料のWi-Fiが提供されていれば、少なくとも、携帯電話のようなハードウェアとネットワークを固定して、その不公平な権力の不一致を利用して不公平な利益を得る、そもそも存在すべきではなかった既存の抑圧勢力を一掃することができる。無料のWi-Fiを提供するカネはどこからでるのかという問題はある。税金だろうか。すくなくとも、この2013年では、テレビ放送に対して、受信設備のあるものに強制的な負債を設定するよりは、Wi-Fi設備のほうが、はるかにマシだろう。
しかし、騙されてはいけない。無料のWi-Fiは、不公平な権力の不一致を是正しない。既存の抑圧勢力が、新たな抑圧勢力に取って代わるだけである。すなわち、Wi-Fi設備の提供者が抑圧勢力になるのだ。通信設備が、少数の提供者によって寡占されているというのは、極めて危険なことだ。通信設備の提供者は、通信を監視し、検閲し、改変できるのだ。そのような邪悪な監視検閲改変から身を守る暗号は、法律によって禁止されるだろう。秘密鍵は、法律によって提出を求められるだろう。通信設備を牛耳られていては、暗号のように見える通信を監視し、検出し、悪法によって暗号を使った罪を問われるのだ。
ではどうするのか。抑圧勢力が存在するのは、中央管理を必要とする技術的な仕組みの必然である。ならば、中央管理できない技術を使えばいいのだ。すなわち、物理層からのP2Pネットワークだ。
携帯電話が独占的に無線通信設備を提供できるのは、国家が特定の周波数帯の、独占的な利用許可を与えているからである。これは、誰もかもがてんでバラバラに好きな周波数帯を使い、結果として信頼して無線通信に使える周波数帯域がなくなってしまうよりは、いくらかマシな仕組みである。しかし、独占的な利用権利を特定の団体に与えるのは、好ましくない。
無線の周波数帯の独占の害を、もっとわかりやすく例えてみよう。例えば、我々は空気振動によって音声会話している。我々が声を出した時、その音は、空気中を伝わる振動として周囲に伝達される。もし、我々に公共の場で空気を振動させる権利が与えられていないとすれば、どうだろうか。そのような権利は、独占的な団体に一括して与えられていて、そのような団体から空気振動会話をする許可を得なければ、空気振動会話できないとするならば、どうだろうか。悲惨な制限社会ならずや?
幸い、この2013年では、空気振動は自由に行える。不必要に大きな空気振動は公共の妨げとなるので、騒音として規制されるべきだが、一般に我々が公共の場で会話しても、すなわち空気振動による通信を行っても、違法ではない。
しかし、電波に関しては、このような規制が行われている。我々が公共の場で、特定の許可のある周波数帯以外や、あるいは極めて微弱以上の電波を発すると違法である。周波数帯の利用許可は、特定の団体に独占的に与えられており、個人がある周波数帯の電波を発信したい場合は、特定の団体から許可を得なければならない。どうだろうか。悲惨な制限社会ならずや?
そこで、ある周波数帯を、誰でも自由に使えるようにしてはどうか。もちろん、騒音と同様、無意味に高出力な妨害電波の発信は規制されるべきだが、一般に我々が公共の場で、その周波数帯で通信を行っても、違法でない社会になるべきだ。
そのような自由に使える周波数帯で、我々は非中央管理型のネットワークを構築する。これは、物理層からP2Pなネットワークになるだろう。周辺のノードとメッシュ状につながり、通信を伝えていくのだ。
もちろん、これは今すぐ使えるわけではない。第一、我々にはその周波数帯の電波を送受信するプログラマブルで安価な装置がない。そのような物理層を扱うべきソフトウェアや、そのような物理層を前提にしたソフトウェアもない。しかし、もし我々が、真に通信の自由を求めるならば、自由な周波数帯が必要である。
ネットワークが自由であることの意義や、その実装方法については、以前にも考察している。
本の虫: ストールマンのいう不自由なSaaSSを打ち破る方法について、FreenetやBitTorrentやBitcoinの先例を考える
本の虫: インターネット上での自由は、もはや限界に達した。これからはピアネットだ
4 comments:
その自由な周波数帯があったとして、
第三者が自由に盗聴可能で、
(今は電波法で禁止されているが)
その内容をまた、第三者に伝えることが
合法であるとすれば、果たして、我々は
この自由な周波数を使うのであろうか?
水清ければ魚棲まずではないが、自由すぎるのもまた害になるかと
だよな
秘密鍵の提出が義務付けられているということは要するに政府はP2Pだろうとなんだろうと盗聴しほうだいってこと
だいいち、暗号鍵が無意味なら大きなノードの所有者であればあるほど著作権侵害や児ポ法違犯やその他の罪で簡単に逮捕できるってことで
そんな社会ではとうてい成立するわけがないな。結論はともかくそれを導くための前提がおかしい
とりあえずアマチュア無線家が泣いているぞ
あそこの帯域は免許とか取ったら
一定出力以内なら
何送ろうが自由なはずだし。
実際アマチュア無線の帯域使って
TCP/IP通信もやっている人もいる。
江添さんのblogではよくあることですが、記事の内容とtwitterで言ってることが全く違うんですよね。
> そこで、ある周波数帯を、誰でも自由に使えるようにしてはどうか。もちろん、騒音と同様、無意味に高出力な妨害電波の発信は規制されるべきだが、一般に我々が公共の場で、その周波数帯で通信を行っても、違法でない社会になるべきだ。
> そのような自由に使える周波数帯で、我々は非中央管理型のネットワークを構築する。これは、物理層からP2Pなネットワークになるだろう。周辺のノードとメッシュ状につながり、通信を伝えていくのだ。
> もちろん、これは今すぐ使えるわけではない。第一、我々にはその周波数帯の電波を送受信するプログラマブルで安価な装置がない。そのような物理層を扱うべきソフトウェアや、そのような物理層を前提にしたソフトウェアもない。しかし、もし我々が、真に通信の自由を求めるならば、自由な周波数帯が必要である。
元々無線での実現を語ってたはずなのに、twitterでは
>https://twitter.com/EzoeRyou/status/392854221453680641
>@bolero_MURAKAMI ただし、私の想定している物理層からP2Pなネットワークが必要とされる世界は、日本やアメリカのような監視検閲社会なので、通信方法は主にスニーカーネットになるでしょう。足ではこべ。
> https://twitter.com/EzoeRyou/status/392855060381585408
> @bolero_MURAKAMI UUCPが一般的だった時代のアメリカみたいな感じになるんじゃないですか。ユーザーからのメッセージ送信を送らずに蓄積しておいて、跡で一括して、電話料金が安い夜間に送ったり、あるいは物理的なストレージを運ぶ。運んだ先で蓄積からメッセージを展開。
と、スニーカーネットなる謎のローテクで実現するという話に変わっている。
まあ、ここのコメント欄で突っ込まれたから考えを変えただけなのかもしれませんが。
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