2020-03-29

村上原野(ボレロ村上)の思い出

村上原野(ボレロ村上)の思い出を色褪せないうちに書いておこうと思う。

村上原野の父親であり師匠であった猪風来は縄文土器による芸術家である。縄文土器の制作方法を復元した人物だ。

猪風来プロフィール | 美術館の紹介 | 猪風来美術館

縄文土器は窯を使わずに野焼きで焼き上げる。野焼きで窯ほど燃焼温度が上がらないので、低温でも焼き上がるような粘土を使わなければならない。その製法は再発見され、村上原野が縄文土器作成を学ぶ頃には、一通り完成していた。製法を復元した上で、その製法を使って芸術品を作るというのだ。

聞いた話では、猪風来は極めて形から入る芸術肌の人間で、縄文人の心を理解するために、北海道に竪穴式住居をこしらえて家族で住んでいた。つまり、村上原野の父親と母親と本人は中学生か高校生ぐらいまで北海道の竪穴式住居に住んでいたのだ。

竪穴式住居とは歴史の教科書にも出てくる様式の原始的な家だ。地面を掘り下げ、その上に屋根を設営する家だ。竪穴式住居は全国にあるのだが、北海道のような寒い地方では、寒さ対策のために地面をかなり深く掘り下げる。猪風来がかつて展示会で語っていた話では、竪穴式住居の中で座ると、ちょうど目の高さが地面すれすれになるほどだという。そうして猪風来は縄文人の心を会得した。

その後、村上原野の一家は岡山の廃校に引っ越す。廃校を作品制作の作業場と作品の保管所と美術館として利用している。

村上原野はそのような特殊な家庭環境にもかかわらず、当初は高専を卒業し、確か本人の話では製図技師か何かで数年、民間で働いていたそうだ。ただし本人曰く「やはり土をいじっている方が楽しい」ということで仕事をやめ、家業をつぐことにしたのだという。

村上原野のいでたちは、かなりガッシリとした体格で、よく日焼けしていて、母親の作った作務衣を着ている。どこから見ても偉丈夫であり、刺しても死なないほどの健康な見た目であった。

このブログの読者が知る村上原野は、ボレロ村上、もしくは中3女子という名前で知っている人物で、C++プログラマーだ。

https://github.com/bolero-MURAKAMI/Sprout

Sproutは村上原野によるC++ライブラリであり、C++におけるコンパイル時計算用のフレームワークを提供している。

このSproutを使った村上原野の作品としては、コンパイル時レイトレーシングがある。

constexpr レイトレーシング - ボレロ村上 - ENiyGmaA Code

当時の純粋なテンプレートメタプログラミングのみのレイトレーシングや、あるいはC++11時代のまだ本体はreturn文ひとつしか書けなかった頃のconstexpr関数を使ったレイトレーシングがある。

あるいは、コンパイル時音声生成がある。

constexpr で音階生成&シンセサイザー&音声合成 - ボレロ村上 - ENiyGmaA Code

生前の村上原野に、C++によるこの作品は芸術なのかと聞いてみたことがあるが、彼にとってこれらは芸術ではないらしい。

村上原野 aka ボレロ村上, 中3女子 逝去

ボレロ村上、中3女子ことC++プログラマーで陶芸家の村上原野の訃報が流れている。それによるとどうやら、2月16日未明に、陶芸作品を製作中に倒れ、翌朝に発見されたようだ。

2月15日の21時51分のtweetに体調の変化を示唆する書き込みがある。倒れたのが16日の未明とあるので、そこから6時間後ということになる。

この書き込みから急な脳梗塞ではないかと思われる。体調の変化を感じたら病院に行くべきなのだろう。

大一報はおそらく猪風来美術館のFacebookで、これは20日に公開されたとのことだが、我々プログラマーの界隈に知られるまでに9日間を要したようだ。

岡山にある猪風来美術館は村上原野とその両親が経営している廃校を利用した美術館と製作所のはずで、すぐにでも岡山に行きたい気持ちがあるのだが、あいにくと世間にはコロナウイルスが流行している。行けば至近距離で会話をしたくなるだろうから、東京に住んでいる身としては軽々と訪れることができない。早くコロナウイルスが収束してほしい。

ゲンヤよ!

2020年2月16日未明、おまえは32歳という若さでこの世を去った。最後の作品を制作中、倒れる直前粘土をひと掻きした跡そのままに、手に竹べらをもったまま息絶えた。きらめく魂、やさしい魂、躍動する魂よ、おまえのすべての命が燃え尽きたのだ。 力いっぱい、こんなに精一杯生きて、表現して、苦悩し、愛して、未来へ、新しい地平へ翔けていくはずだったおまえは、今力を尽くして、生命を生き切って、美しい魂の宿る作品を私たちに託して旅立っていった。

おまえの大きな縄文の渦はここから湧きあがり、おまえはその渦に乗りここから翔けあがり、おまえの愛した山や海や大地をめぐり、生まれ育ったアイヌモシリや遥かなアメリカの大地をめぐる。おまえの渦はしなやかに美しく螺旋を描き、無数の夢を乗せて伸びやかに繋がっていく。おまえが見た精霊たちは、今おまえの後を追って螺旋の渦をなし、ひきもきらさず列をなしている。

そして渦に乗ったおまえは何度もなんどもこの地に戻ってくるだろう。まわりの森の木々を震わし、みんなで協力して建てた竪穴住居の茅屋根を撫で、野焼きの野炉の灰を散らし、おまえやほかの人の作った縄文作品を愛で、いつも、どこでも残った私たちにおまえの記憶を喚起させるだろう。おまえの成し遂げた仕事、思索、大きな夢、愛する人たち、すべてがここにあったのだから。

おまえはここで新しいおまえの地平を切り開き生きていくはずだった。縄文のスピリットに惹かれ、現代に生きる己の感性で縄文の新時代の美を求めてひたすらに挑戦を続け、その手でやり遂げていく意欲に溢れていた。私たちは底のない悲しみの中、その夢を引き継ぎ繋いでいかなければと、今祈るような気持ちで歩み始めようと思う。

生前、村上原野を支え、愛し、共に力を携えて活動してくださった方々に感謝の思いでいっぱいです。これから私たちは心を寄せる人たちと共に彼の魂の宿る最後の作品を無事焼き上げます。そして彼の残した作品を新しい縄文芸術として世に提示していきたいと思っています。彼の縄文の渦はまだ終わっていないのですから。どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

(猪風来・むらかみよしこ)

猪風来美術館 - ゲンヤよ!... | Facebook

2020-03-08

赤倉温泉スキー場に来ている

2月に白馬に2週間滞在してスノーボードと温泉三昧だった。白馬に2週間も滞在することになったのには長い話があるのだがまたの機会に書くとして、結果として、長期滞在して温泉に浸かりスノーボードをしてリモートワークをする価値に目覚めてしまった。3月も同じことをしたいと思ったので、人を誘って再び一週間の長期滞在をしてきた。

滞在先は赤倉温泉だ。詳しくは知らないが、この暖冬にもかかわらず全国のスキー場の積雪ランキング上位にあるスキー場だ。予約時に300cmの積雪があったので、これならば雪はあるだろうと宿を予約した。赤倉ホテルという宿だ。さぞ予約は取りづらいだろうと思っていたが、あっさりと予約を取ることができた。

宿はなかなかよかった。食事は悪くなく、宿の建物内に温泉が3箇所あり、しかも2箇所は24時間入り放題。そしてもう一つ露天風呂があり、これがやや特殊な完全な外に設置されている露天風呂で、涼しくて湯温も高く最高だった。この露天風呂、変わったことに混浴でかつ周りから丸見えなのだが、そもそもホテルにはほとんど客がいないので気兼ねする必要はなかった。ただし、例年では雪が高くつもり、完全に周囲から隠れてしまうそうで、本来は女性客も入りやすいそうだ。

肝心のスキー場だが、宿の目の前に赤倉温泉スキー場がある。当初、このスキー場にのみ行くだろうと思って、あらかじめリフト券を4日分手配しておいた。しかし、これは間違いだった。赤倉温泉の近くには赤倉温泉スキー場、赤倉観光リゾートスキー場、杉ノ原スキー場、池ノ平スキー場、関温泉スキー場がある。特に赤倉温泉と赤倉観光は隣り合ってつながったスキー場で、赤倉温泉スキー場は広くて簡単でつまらないコースばかりだが、赤倉観光リゾートスキー場の方は難しくて面白いコースが多かった。

まず移動日は滑らず、初日は赤倉温泉スキー場で足慣らし、白馬で2週間、1日滑って2日休むという筋肉を鍛えるのに理想的な頻度で滑っていたので、体には余裕があった。2日目に赤倉観光リゾートスキー場に行ったが、これまた前日の疲れがまったく気にならないほどの余裕があった。3日目は流石に連続しては辛いだろうと赤倉温泉スキー場でのんびりと滑ったが、これまた余裕があった。4日目は再びリゾートに行った。5日目は念の為に休みを入れた。膝は多少痛むが、危険な痛みではない。

これを書いている時点では土曜日だが、明日の日曜日に1日滑り、月曜日は余力があれば午前中に滑って帰ってこようと思っている。こんなにも膝と脚に余裕ができているほど体が鍛えられているとは自分でも驚いている。しかも、スノーボードの腕も上達している。白馬でスイッチができるようになったが、さらに滑走が安定した。

白馬での目的はスイッチだったが、今回の目的はGoProを持っている友人と一緒に言ったので、追い撮りと自撮りの上達を目標にした。そのために自撮り棒を購入した。結果は大成功だった。もっと難しいものだと思っていたのだが、自撮り棒を持っての滑走はほとんど滑走に影響を与えない。簡単であることがわかったので、GoProの来年のモデルが販売されたら購入を検討しようと思う。

今回使ったGoProはHERO 7だが、使う上での注意点がいくつかあった。まずGoProはバッテリーが持たない。リフト営業開始から終了までの丸一日の全滑走を撮影したいというのであれば、4K解像度や120FPS撮影は諦めた上で、予備のバッテリーを2つ以上持っていくのがよいだろう。逆に、事前に危惧していたSDカードの容量は全く問題がないことがわかった。今は512GBや1TBのSSDカードが数万円で売られている。動画のビットレートが90Mbpsであったとして、512GBあれば12時間は撮影できる計算になる。そしてGoProのバッテリーは1時間持たない。

GoProを撮影した後の注意点もある。GoProはSDカードのフォーマットにexFATを使っている。exFATのfuseではないマウントにはLinux kernel 5.4が必要だ。Ubuntu 19.10は5.3、Ubuntu 20.04が5.4になる予定となっている。

GoProが使う動画フォーマットはh.265(HEVC)の10bitプロファイルを使用している。この動画のリアルタイムデコードはとても重い。筆者はここ10年ぐらいCPUのパフォーマンスは十分すぎるぐらい向上したので、いまだにSkyLake世代のIntel CPUを積んだラップトップを今回の旅行に持参した。ところが、H.265 10bitのデコードのハードウェア支援はSkyLakeの次の世代のKirbyLakeが必要だ。KirbyLakeもそうだが、AMDやNvidiaのGPUのハードウェアデコード支援も、h.265 10bitに対応したのは2016年に販売された製品からだ。今回の撮影は2.7k 60fpsで行ったが、筆者のPCではリアルタイムデコードできなかった。前のフレームからの差分で表現するIフレームや、前後のフレームからの差分で表現するBフレームを多用するh.265の再生は、リアルタイムデコードが出来ない場合破綻する。そのために当初は単に映像を確認するためだけにffmpegでh.264にエンコードしていたが、いろいろと試した結果、ブラウザーを実行しない状態でmpvを使うとややフレームレートに違和感はあるものの、再生できることがわかった。

2.7k 60fpsでこの負荷なので、4K 60fpsはもっと負荷が高いのだろう。GoProで撮影した動画を編集するには最新の高スペックなコンピューターを容易すべきだ。最も筆者はffmpegのフィルターでできる以上の編集をするつもりはないのであまり気にしていない。今のところ考えている編集は動画の切り出しと連結、あとは別音声のmuxぐらいだ。今回撮影した自撮りと追い撮りはすぐにでも動画サイトにアップロードしたいのだが、現在滞在している宿のWiFiの帯域は20Mbps程度で2割程度のパケットロスが発生するという基本的人権がないほど貧弱な環境なので、自宅に帰ってからアップロードする予定だ。

追い撮りと自撮りについてだが、まず自撮りについては特に難しいことはなかった。単に自撮り棒をもって滑るだけだ。スノーボードは両手が自由なので様々な持ち方ができる。360度カメラではない自撮り棒に固定したカメラの場合、後ろ手で持って山側から谷側への撮影、前の手で持って谷側から自分を含む山側を撮影、前の手で持って谷側を撮影という方法が考えられる。全て試してみたが、どれも特性の違う動画ができあがる。

追い撮りは難しい。単に追いかけて被写体をフレーム内に納めるだけならそれほど難しくはないのだが、問題は距離だ。GoProは画角が広い。これは被写体をフレーム内に維持するという点ではいいのだが、実際の距離以上に被写体との距離感が出てしまう。被写体を大きく移すには近づく必要があるのだが、これも難しい。被写体は自分ではないので滑走の速度があわない。直滑走すると追い越してしまうし、丁度いい速度を保つのが難しい。撮影中、離されたので直滑走して追いつき、そして抜きそうになったので減速してまた離されることがたびたびあった。これは自分のショートターンの腕前を上げるほか、被写体と無線で連絡を取り、離されすぎた場合減速してもらうなどの連携が必要だろう。

もう一つ難しいのが、実際に見たとおりに撮影できないということだ。雪面は日光の反射で白飛びしてしまい、起伏が目立たなくなってしまう。かなり深いコブ斜面でもまるで圧雪されているかのようになだらかに見えてしまう。そして、傾斜も実際より浅く見える。これはカメラ自体が傾斜にそっているために仕方がないことではある。カメラを水平にすると撮影できるのはほとんど空だけだ。速度感も乏しい。カメラを高い位置で保持すると全く速度感がない。それなりの傾斜のある斜面を直滑走しても、雪面が白飛びすることと画角の広さのせいで、全然速度が出ているように見えない。速度感を出したければカメラを低い位置に置かなければならない。

また、今回は追われ撮りもためしてみた。これはカメラを後方に向けて滑り、被写体に追いかけてもらうことで、被写体を全面から撮影しようという試みだ。これはある程度はうまくいったが、なかなか難しい。減速やターンをするたびにカメラを左右に降ってしまうので、被写体はフレームに入るためにかなり努力して滑らなけれならない。直滑走すると被写体と撮影者の道具と技量と体重差によって速度差が出てしまうので破綻する。今回、私はスノーボードで友人はスキーだったが、私は毎回ホットワックスをしているが友人はスプレーワックスで済ませるズボラな人間であるのと、私が友人より20kg重いために、直滑走すると友人よりかなり相対速度が開いてしまう。それに、被写体一人だけで同じ姿勢を維持して直滑走し続ける動画はそれほど映像映えしないという問題もある。複数人でのレースのような面白さを追加する要素が必要だ。

手ブレ補正も一長一短がある。GoProの手ブレ補正はなかなかに優秀ではあるのだが、手ブレ補正をかけると滑走のダイナミックな動きが消えてしまう短所もある。

友人はスキーヤーなので、スキーでの自撮りや追い撮りを模索していたが、自撮りについては圧倒的にスノーボードのほうが楽だ。追い撮りもスキーでは細かい調整が聞かずに難しい。ヘッドマウントではカメラ位置が固定されてしまい、自撮り棒を動かすというダイナミックな撮影ができない。スキーで自撮り棒をもつと滑走が難しくなる。スノーボードでは手を固定して滑ることもできるが、スキーは手を動かしてバランスを取りたい特性があるようだ。

今回、自分の滑りを追い撮りしてもらう機会にも恵まれたが、やはり滑走中にバランスを取るために上半身をリーンする癖が抜けない。下半身の屈伸だけで十分にバランスをとれるところでは積極的に下半身を意識して使っていきたいところだ。