今、私が常時使えるネット回線は、DTIの提供する格安のSIMカードを利用したLTE経由のものだ。利用料金は月々490円+ユニバーサルサービス料3円となっている。
とてつもなく格安だが、極端な制限がある。帯域が100kbps、今は実験的に150kbpsに制限されているということだ。転送量制限はないのだが、この帯域は、2013年にはなかなかに厳しい。
私は、まだ56Kbpsのアナログモデムの頃からインターネットを利用しているが、もはや最低でも数Mbpsは当たり前になったこの時代に、100kbpsは、結構難しいところもある。使えるかどうかは、Webサイトにより異なる。
今、風邪をひいて体調が悪く、外に出れないのを幸いに、この低帯域でできることを試してみることにした。
まず、まともに閲覧できないWebサイトだ。
例えば、GMailのような、巨大なJavaScriptでできたプログラムで、常にサーバーと通信しているようなWebサービスは、かなり使いづらい。GMailのWeb UIには遅いネットワーク版もあるが、これでも100kbpsでは使いにくい。
結局、問題は帯域なのだ。あらゆる通信は100kbpsの帯域を通らなければならないのが問題なのだ。これら、数百キロバイトから数メガバイトもあるような巨大なJavaScriptプログラムをダウンロードするだけで時間がかかる。また、それだけではなく、そのJavaScriptプログラムは、さらにサーバーと通信を行う。
単に時間がかかるというだけではない。詳しい理由はわからないが、通常のGMailはたいてい、いくら待っても使えない。何度かリロードしてようやく使えるようになる。思うに、HTTPやHTTPSプロトコルを使い、複数のファイルを同時にダウンロードしようと試み、それがすべて狭い100kbpsのネットワークを通過しなければならないため、どのファイルもダウンロードが完了せずに延々とちびちび読み込み続けているのではないかと思う。通常のGMailは極端な低帯域は考慮していないようで、そういう場合に、いくら待ち続けようとも、延々と読み込み中の画面を表示し続ける。何度かリロードすると使えるようになるというのは、あるいはファイルの一部がキャッシュされてダウンロードしなくても済むため、並行ダウンロードが減少し、GMailのJavaScriptプログラムでも動く程度の時間でダウンロードできるようになるのではないか。あるいは、あまりに時間がかかりすぎるため、JavaScriptプログラムかブラウザーのどちらかがダウンロードを諦めたのか。
はたまたあるいは、これらのサイトがHTTPSプロトコルを使っているからなのかもしれない。あまりに低帯域でHTTPSプロトコルを使うとこういう問題に出くわすのかも知れない。
ひとたびGMailの巨大なJavaScriptプログラムが動きさえすれば、あとは快適に使えるのだが。
TwitterのWebサイト上のUIも、同じ問題を抱えている。Twitterのページを読み込む際に、他にも、別のページやファイルなどのダウンロードが発生している場合、たとえ別のページやファイルのダウンロードが終わって、帯域が空いても、読み込み中のまま一向に進まないことがある。
Googleの検索も、同じ問題を抱えている。
YouTubeは、動画の再生はともかく、極小のサムネイルの表示まで遅い。
では、まともに閲覧できるWebサイトは何か。
基本的に、テキストを主体とし、JavaScriptで高度で頻繁な通信を行っていないようなページは、問題なく表示できる。Hacker Newsも問題ない。[Wandbox]三へ( へ՞ਊ ՞)へ ハッハッも問題ない。
意外なところでは、pixiv.netが快適に閲覧できるということだ。サムネイルの表示も十分に速い。もちろん、100kbpsなので、個々の画像をダウンロードして表示するのにはそれなりに時間がかるが、このサムネイル画像の速さは大したものだ。また、pixivはHTTPSを使っていないことも影響しているのかも知れない。しかし、それをいえばYouTubeだってHTTPSではないのは同じだ。しかも、pixiv以上に小さいサムネイル画像の表示が遅い。
あるいは、YouTubeを閲覧する利用者のネットワークは、そもそもそれなりに広い帯域が必要であろうから、手描き画像に特化したpixivほど低帯域ユーザーの需要がないのかも知れぬ。需要がなければ供給もない。Yahooが既存の広告媒体よりは安いが、ネット広告としては高すぎるのに、無知な広告主によって払われる多額の広告料にあぐらをかいて技術革新を怠り、Googleに追いぬかれたように、需要は重要である。
はて・・・低帯域ユーザーでも変わらず需要があるものとなると・・・
深い技術的好奇心の念に駆られた筆者は、あくまで知的探究心のために、xvideos.comを閲覧した。
Lo and behold!
すると見よ! わずか100kbpsの低帯域だというのに、YouTubeよりはるかに大きな、しかも大量のサムネイル画像が一瞬にして表示され、マウスカーソルを当てるとコマ送りまでするではないか。
筆者は慄然とした。今にして始めて芸道の深淵を覗き得た心地であった。
誠に残念ながら、OSから上は自由なソフトウェアのみで構成された筆者のコンピューター環境にはFlash Playerがなく、したがって、100kbpsのネットワーク越しに動画を再生できるかという肝心の主要機能に関しては、技術上非常に興味はあるものの、遺憾ながら検証できなかった。ただ、おそらくうまくやるのではないかと思う。
無論、これは今に始まった話ではない。エロサイトの動画プレイヤーの方が、YouTubeよりよっぽど優れているというのは、昔から言われていたことだ。
本の虫: なぜエロサイトの動画プレイヤーはYouTubeより高機能なのか
このようなエロサイトは、厳しい競争にさらされている。収益をあげるためには、できるだけ多くの閲覧者を得る必要がある。広告収入を得るにしても、課金収入を得るにしても、とにかく大量の閲覧者を集めなければならない。そのためには、低帯域ユーザーが閲覧できないということは、取り逃すことのできない機会損失なのだろう。それにしても・・・
論語に言う、いまだに色を好むが如きものを見ざるとはこのことか。
追記:pixiv.netとxvideos.comが快適な件について、少し事情が異なった。
ご注意事項|ServersMan SIM LTE:【dream.jp】
DTIの格安SIMカードを経由してHTTPプロトコルによりダウンロードされる、画像フォーマットのうち、JPG, GIF, PNGは、DTI側で自動的に劣化圧縮される。
xvideos.comで確認したときは、まあ、エロサイトだしこんなものかと思っていたのだが、さすがに引越し前まで毎日見ていたpixivは気がついた。
何のことはない。HTTPSプロトコルが遅いと感じていたのは、中間で乗っ取りできないからだったのだ。pixivやxvideosが快適に閲覧できたのは、画像を劣化圧縮していたからなのだ。
というわけで、この記事は当初の面白い記述から遠ざかってしまった。この記事を書くときは、「やはりエロ需要の力は偉大だ」という、あからさまに面白い結果になったと早合点して、そのように面白おかしく書いたのだが、現実はそれほど面白くはなかった。残念。