とりあえずハゲ、もとい浄海入道から話すけどさ、四人の妻がいたことが分かっている。まず、正室の時子、宗盛の母だ。これは別に問題ない。次に、平家物語ではやたらと持ち上げられている小松殿、こいつの母は、右兵衛将監高階基章の娘ということになっている。まあ、やんごとなききわにはあらねどって奴で、重盛も史実は、それほどいい奴でもなかったと思うよ。だいたい殿下ののりあひの仕返しをしたのは、じつは重盛って話もあるぐらいだしね。大体、燈篭大臣って、今から考えるとマヌケだよね。
人に胸を張って紹介できるのはここまで。ここから先がちょっと人に後ろ指を指されそうな、一歴史ある女ばかり。まず有名なのは、常盤御前。知らざぁ言って聞かせやしょう。この女は元々、かの朝敵、源義朝の側室だ。そして、あの有名な牛若丸とて、源義経の母親でもある。並び無き美人として知られていて、源義朝が誅ぜられたとき、清盛に子供たちを殺さずに置いてくれるように頼み込んだ。清盛はこのいい女とファックしたかったがために、義経を殺さずにおくわけだ。
これだけでも無間地獄へ落ちるに値するんだけど、もっとキモい話もある。
清盛が厳島神社を斜ならずに拝んだというのは有名な話だ。性的な意味で。なんと拝むのみならず、その厳島神社の巫女に手を出しているのだ。このころから、巫女萌えってのはあったんだね。まあ、厳島神社は特別で、巫女とは呼ばずに、内侍っていうらしいんだけど、それは話の枝葉。んで、こさえた娘を、法王のところに送ったりしてる。高倉天皇が死んだ直後だったんで、殿上人から、大きに顰蹙を買ったがね
んで、こんな色欲深いハゲ殿が、四人程度の女で満足すると思うかい。己はとてもそうとはおもわない。歴史に残っていないだけど、もっともっとファックしてたと思うんだ。きっと、在原業平といい勝負してたと思うよ。
まあ、地獄の閻魔様も困ったと思うね。ことによったら、まだ清盛の裁判しているのかもしれない。罪過が多すぎてさ。
さて、お次は高倉天皇のお話。高倉宮と紛らわしいんだけどさ。高倉宮は以仁王のことだからお間違えなきように。平家物語は、このすめらみことも、死ぬ間際には、色々と持ち上げて褒め称えているんだけど、その逸話が、ほとんど女がらみ。要するに、女のほかには、大した話もなかったわけだ。まあ、この帝は、単なるお飾りだったから、特に話があるはずもないんだけどね。大体官職がついているだけで、七人ぐらい奥さんがいたんだけどさ。まあそれはいいんだ。残っている逸話というのが情けない。
ある夜、人の叫び声がしたので、「今さけぶものは何ものぞ。きッと見てまいれ」と、仰せがあったんで見に行ったら、「あやしのめのわらは」、つまり下女、言うなればメイドが、ながもちを抱えて、泣いていた。どうも後白河院のところで召し使われているメイドらしいんだけど、仕立てられた服を運んでいたところ、強盗に奪われたらしい。このままでは首にされてしまう。行く当てもない、と泣くばかり。高倉天皇は、「民は帝の心を写す。こう治安が悪いのも、朕の心を写したためだ」、と仰せられて、盗まれたものと同じ色の服を与えて、護衛までつけて帰してやったと云々。
そりゃ治安が悪いのも、今みたいに警官が巡回しているわけでもない。当時のまつりごとと言えば、歌を詠むとか、そんな遊びばっかりだったからに決まっているだろうが。ところで、もしこのとき、下女ではなく、下男だったら、高倉天皇は果たして助けただろうか。
(今思ったのだけれど、なんか、平家物語を読むと、区切りの次に言及する文章を書きたくなる。ここで言えば、「治安が悪い」、というのは、次の、「遊んでばかりいたから」、という文章にかかっていたりとか。あまり読みやすい文ではないのだが、困ったな。後ほど詳しく書こう)
それはさておき――
「中宮の御方に候はせ給ふ女房のめしつかひける小童、おもはざる外、龍顔に咫尺する事有けり」
(天皇は、中宮の平徳子の下女に、意外と惹かれている様だった)
これもメイドだ。何しろ天皇とメイド、もとい賤女では、身分が雪と墨ほど違う。この下女の名前は葵の前と言ったのだけれど、葵女御などと陰口を叩かれていた。何しろ京都の人は、陰口が好きだからね。まあ、色々あって、結局この葵たんも死ぬんだけどね。
ほかにも、小督殿という女もいて、櫻町中納言成範卿の御むすめだったんだけど、どういう女だったかというと、「宮中一の美人、琴の上手にてをはしける」とある。天皇がこの女とばかりファックするんで、清盛が大瞋恚を起こすわけだ。なにしろ、先も言ったように、中宮はハゲの娘、平徳子だ。清盛の娘と子作りしてもらわなきゃ、清盛の子孫の出世にかかわる。これを聞いた小督殿は、「我身の事はいかでもありなん。君の御ため御心ぐるし」(私の身の上はどうなってもかまわないけど、天皇の身の上が心配だ)とて、身を隠す。高倉天皇は、まだまだ小督殿とヤリ足りないとみえて、夜も悶々として過ごすわけだ。で、何とか探し出させて、危うく出家して世捨て人になりそうなところを、連れ戻す。そしてめでたく孕ませましたとさ。だって高倉天皇は、まだ二十歳前だしね、ヤリたい盛りというわけだ。
というわけで、己の脳内では、高平太はエロオヤジ、ノリヒトはヤリたい盛りの二十歳の若者というイメージが定着しつつある。
――と勢いにまかせて書いてみたけれど、このネタ、どれくらいの人が分かってくれるんだろう。まあ、ともかく、平家物語は、是非とも読んでおくべきだ。何故と言って、およそ日本の文化というのは、ひとえに平家物語の影響を受けているからだ。平家物語が、一般常識という前提の下で、御伽草子なり、歌舞伎なりと、様々な芸術があるのだ。平家物語を知らなければ、これらの芸術も、また楽しめない。
ところで、平家物語には、「初音の僧正」という人が出てくるんだけど、この人の話も、また機会があれば書いてみようか。そのためには、袋草子にあたる必要があるのだが、どうもこの本、マイナーのようで、どこかで手に入らないものか。まあ、どうも調べてみた限りでは、そんなに大した話でもないみたいだけれど。