2012-03-17

著作権法改正案に対する疑問

著作権法の一部を改正する法律案:文部科学省

変更点は、fair useの概念がある他国で認められている権利のいくつかを、日本の著作権の制限に追加しようというものと、電磁的方法を用いたDRM破りの違法化だ。DRM破りの違法化については、実はどうしようもないのだ。なぜなら、日本はすでに著作権に関する世界知的所有権機関条約に加盟しているので、これは単に条約違反だった国内法を整備したに過ぎない。もしこれが嫌ならば、条約から脱退するしかないのだ。

忌々しいDRMのことはさておき、どのような著作権の制限が付け加えられたかというと、写真の撮影等(写真のほかに、録音や録画も含む)の際に、仕方なくうつりこんでしまった著作物を付随対象著作物と定義し、複製と翻案を認めるというものである。はて、複製と翻案だけなのだろうか。じゃあ、公衆送信や頒布はどうなるのだ。私の部屋を撮影した際に、たまたまあの有名なネズミがうつりこんでしまったとする。この録画をYouTubeにアップロードすることは違法なのか? 氏名表示はどうなるのか。すべての付随対象著作物の氏名表示をしなければならないのか。それでは引用とどう違うのか。このままでは何の訳にも立たないのではないか。

概要によれば、著作物の利用となっているのに、実際の文面では、複製と翻案だけだ。これは一体どういうことなのだろう。

そろそろ、Creative CommonsのShare Alikeではなく、GFDLを用いることを検討するべきかもしれない。

8 comments:

anon1 said...

著作権法(現行法):
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html

【PDF】改正法案:
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/03/16/1318798_4.pdf

技術的保護手段に「変換型」(主に暗号変換するものとか)が新たに追加されたのでCSS/AACSが保護手段入りしてしまったようですね。

一方119条1項括弧書きの「30条1項[...]に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者」ってのは堅持されているので「CSS破りし且つ複製」してもお巡りさんは来ないようです。民事責任は勿論今まで通りあるので、法案が通れば以降「CSS破って複製」という行為に対し、差止、損害賠償、不当利得返還が請求されそうです(114条の2で立証責任転換があるとはいえ、行為の証明は難しいとは思いますが…)。

>電磁的方法を用いたDRM破りの違法化だ。

分かってて書いていらっしゃると思いますが、「DRM破りが違法化」というよりも「DRM破りで権利侵害する形の『複製』が(私的複製じゃなくなくなるので、許諾(63条1項)なくやれば)違法」です(30条1項2号)。

しかも「違法化」というより、現行法でも著作権者、実演家、及び著作隣接権者の許諾なくやれば「違法」です。(正確には著作者人格権や実演家人格権も噛んで来てややこしい。勿論「DRM破ってコピらせてくれ」なんて彼らが許諾するはずありませんので単なる机上の空論ですが…)。

今回の法案ではDRMの種類の対象範囲が拡大しました。ただ「変換型」がどういうものを指すか曖昧な気がします。相変わらずいい加減な法律ですねw

http://togetter.com/li/273963

anon1 said...

連続かつ長文コメント恐縮ですが…
お気を悪くなさったならば大変申し訳ありません…。

>写真の撮影等(写真のほかに、録音や録画も含む)の際に、仕方なくうつりこんでしまった著作物を付随対象著作物と定義し、複製と翻案を認めるというものである。はて、複製と翻案だけなのだろうか。じゃあ、公衆送信や頒布はどうなるのだ。私の部屋を撮影した際に、たまたまあの有名なネズミがうつりこんでしまったとする。この録画をYouTubeにアップロードすることは違法なのか?

おそらく違法でしょう。たしか文化審議会著作権分科会で「写り込みを許容するにしてもそれをブログへアップするのは如何なものか」って仰ってた委員がいたはずです。ちょっとソースが見つかりませんでしたが。スナップ写真、ホームビデオはokでもそれらの公衆送信は許さんというのが権利者側の考えなんでしょう。私的複製の条文を見ると少し彼らの考え方が分かると思います(「家庭内その他これに準ずる範囲内」ってフレーズなんか特に。)

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20120316_519448.html

「写り込んでしまった写真をブログで公開するといった行為が、著作権侵害にはあたらないことになる。」
というのは、嘘な気がします…自信はないですが…

>氏名表示はどうなるのか。すべての付随対象著作物の氏名表示をしなければならないのか。

これについては、現行法でも改正法でも同じですが、30条~「47条の9」という所謂「権利制限の個別規定」というのは氏名表示権(19条1項)などを支分権に持つ「著作者人格権」には一切影響を及ぼしません(50条)。つまり「著作権(の財産権にあたる支分権)は制限されても、著作者人格権を制限されるということは断じて無い」ということですから、いくら権利制限で利用できるとはいえ氏名表示権を侵害すれば違法です。ここ48条の「出所明示義務」と勘違いしがちですが、分けて考えなければなりません。

>それでは引用とどう違うのか。このままでは何の訳にも立たないのではないか。

でしょうね。仰せのとおり何の役にも立ちません。引用とほとんど同じなのになんでこんな規定が個別に作られたのか意味不明です。「家族で某浦安テーマパーク内で写真とっても許される(但しブログは駄目よ)」、その程度のことを認めるが為に。

ただ改正案では、どうやら48条の出所明示義務が課されていないので、引用(32条)と比べて要件が緩和されています。著作者人格権は付いて回りますが。

余談ですが、ネズミ野郎は白黒バージョンについては、日本では保護期間満了だと思います(戦時加算込みで)。しかし浦安のカラー版は切れてないでしょうね…

>そろそろ、Creative CommonsのShare Alikeではなく、GFDLを用いることを検討するべきかもしれない。

おそらく自由な著作物を増やす最善の方法はCC(できるなら永続的フリーなコピーレフト型のCC-*-SA)、若しくはGFDL又はGPLです。

が、それでも人格権(著作者人格権、実演家人格権)は付いて回ります。わざわざフリーで提供する人が人格権にうるさいとは思いませんが、法的に人格権が認められている日本ではグレーです。ライセンシーは綱渡りなのです。

愚痴っても仕方ないですが、「われわれが何もしてこなかったせいで彼らが勝っている。」というレッシグ先生のお言葉が身に染みます。

http://ittousai.org/lessig/free_culture_japanese_text.html

江添亮 said...

ああ、この時代に生まれたのは失敗だったのか。

Anonymous said...

改正案の第30条の2第2項で
> 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。
と規定されていて、こちらはとくに支分権の限定はありませんが。

江添亮 said...

おお、これなら付随対象著作物が含まれた著作物をYouTubeにアップロードすることが合法になりそうですね。

江添亮 said...

問題は、もともとfair useを参考に取り入れたものだからなのか、やはりこういう文面も入っているのですね。

>ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

何が妥当か不当かといことは、結局判例を積み重ねるしかないのでしょうか。

もっとも、パブリッシャーはこの手の判例により著作権の制限の範囲が解釈されてしまうことを嫌う傾向にありますが。
たとえば、小林よしのりが漫画の連続したコマの引用は、著作権侵害であると訴えて敗訴した一件は、1997年のことです。

この時小林よしのりは図の引用は慣例上認められていないなどと主張して破れています。
認められたのはコマの配置を変更したことにより同一性保持権を侵害したということだけで、その部分を修正して販売を続行しています。
そういう主張するぐらいだから、多分図の引用、特に漫画の連続したコマの引用について争った判例というのが最近までなかったのでしょう。

anon said...

まあ引用が認められても著作者人格権侵害を持ち出されたら、仕方ないとは思います(よって慰謝料若しくは謝罪広告又はその両方は覚悟しましょう)。

画像の引用ですが、ご存知かもしれませんが知財高裁が面白い判決下した例が過去ありました。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80755&hanreiKbn=07

知財高判平成22年10月13日(平成22年(ネ)第10052号)は、パロディ事件最判を置き換えるものになりそう(とはいえしょせん高判ですが)といわれていたやつで、元来引用法理の原点であるパロディ事件というのが実際は旧著作権法を規範にしている為(引用の要件として明瞭な区別と主従関係)、新法に即していないと言う文句があった、しかし、この判決は32条1項の条文通りの考察をしています。判決文PDFのノンブルpp.13-15なんですが「公正な慣行に合致したものということができ、かつ、その引用の目的上でも、正当な範囲内」であると考察して引用であると事実認定しています。まあ縮小コピーだったってのが決め手だとは思いますが、従前とは異なる引用の認定なので面白い(というか新法下では当然)です。

議事録しっかり追いかけていないので分かりませんが、文化審議会の法案策定過程でこの判決が改正法案の30条の2に取り込まれたのかもしれませんね。とはいえ「引用」ですけどねどう見ても。まあどちらにしろ「正当な範囲内」というスリー・ステップ・テスト基準つきなので法改正後も判例の蓄積が待たれます。

後、上のコメントされた方が仰るとおり同条2項に付随著作物の「利用」となっているので公衆送信できますね。これも引用と似ていることからやっぱりこの判決を取り込んだのかな。

江添亮 said...

なるほど。
fair useを取り入れたというより、引用の範囲の拡大ということなのかな。