2009-05-18

一ツ橋書店の参考書の設問がひどすぎる

私はかつて、まともな国語能力を有する者の手によって作られた、国語の問題を見たことがないのだが、それにしても、今使っている一ツ橋書店の一般曹候補生の試験の参考書はひどすぎる。

文学史に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
①新古今和歌集は8番目の勅撰和歌集で、編者は藤原定家などである。
②松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶のことを江戸時代の三大俳人という。
③島崎藤村は初め浪漫主義の詩人として出発したが、『千曲川のスケッチ』を機に、詩から散文に転じた。
④北村透谷は、北原白秋らと「文学界」を興し、自然主義文学の先頭に立った。
⑤芥川竜之介は、人間の心の奥にひそむものを鋭くとらえた短編小説を数多く書いた。

①は事実である。①を否定する資料は、私の知る限りない。
②も、多くの人が賛同するであろう記述である。江戸時代のもっとも有名な俳人を三人挙げよと言われたら、松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶になるであろう。
③についても、事実であろう。島崎藤村は自らを以てロマン主義であると宣言したかどうかはしらないが、日本のロマン主義といえば、島崎藤村を列挙する資料が多い。また、島崎藤村は、初め詩を能くし、しかる後に「千曲川のスケッチ」なる小説を書いたのは、事実である。
④は誤りである。一般に、文学界とは、北村透谷、島崎藤村が作った同人誌であると言われている。北原北宗は関わっていない。

⑤は主観的な感想である。真偽は各人の主観的な評価に由る。例えば、「はぁ? あくたがわりゅーのすけ? あー、あれだろ、昔の作家だろ。よくしらんけど」、などと発言する無教養の徒は、⑤を真とは認めないであろう。この無教養の徒は、小説を読まない人種である。小説を読まない人種に対して、芥川竜之介の短編小説をもって、彼の心の奥にひそむものを鋭くとらえること、は不可能である。誤っているものを選べという選択問題に対して、主観的な文章を使うというのは、はたしてどうであろうか。他ならぬ芥川竜之介自身が、「自分は人間の心の奥にひそむものを鋭くとらえた短編小説を数多く書いた」と言ったであるとか、あるいは芥川竜之介イコール「人間の心の奥にひそむものを鋭くとらえた短編小説を数多く書いた」であるという定評があるなら、正しいのかもしれないが、私はそんな話を聞いたことがない。Googleの検索結果を見ても、そんな定評があるとは思えない。(2009年5月18日現在、37件しかヒットしていない)

もっとも、

「これらの大部分の問題は口語訳ができれば容易に解けるものとなっている。つまり、古文は口語訳ができれば楽勝!ということである。

などと、恥ずかしげもなく書いてある参考書のことである。期待するだけ無駄というものなのかもしれない。ところで、上記の文は実際に書いてあるのだが、同じ事をもって結論としている。この論法は、「AなのでAである」、という、不思議なものになっている。こんな不思議な文章を書く人間が、どうやって国語の問題を作ったのだろう。

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