2011-03-17

予備自衛官補に関する本を書きたい

今回の地震が起こってから、自分に何ができるかを考えていた。私は補上がりの予備自衛官であり、もしかしたら、招集がかかるかもしれない。それに関しては、すでに下着などの必要な荷物をリュックに詰めて準備している。

私が危惧しているのは、今回の地震によって、予備自衛官補という制度に志願する人が急増するのではないかということだ。なぜ危惧しているのかというと、予備自衛官補の教育訓練を修了できる割合が、非常に低いからなのだ。

予備自衛官補は、退職した自衛官以外でも、予備自衛官になれる制度である。予備自衛官補は、3年以内に50日間の教育訓練を修了すれば、予備自衛官になれる。訓練は5日単位で行われる。この5日単位を、課程という。50日間なので、10課程ある。A課程からJ課程である。

予備自衛官補の試験に合格するのは、比較的簡単である。もっとも、今回の地震で、志願者が急増するかもしれないので、倍率は上がるかもしれない。しかし、予備自衛官補になったからといって、訓練を修了できるとは限らないのだ。

私が予備自衛官補の最初の訓練を受けたとき、ある駐屯地の教育部隊には、その年に同じく予備自衛官補の試験に受かった数百人の予備自補がいた。しかし、最終過程にまで残った予備自補は、わずかに数十人。つまり、予備自補の訓練の修了率は、たったの1割なのである。

もちろん、すべての人間が1年以内に訓練を終了するわけではない。確かに、3年以内に50日間の訓練を終了すれば、予備自衛官になれる。しかし、2年、3年かけて訓練を修了した人間は、わずかに数人なのだ。つまり、一年以内に訓練を修了できる確率は1割で、2年、3年かけてに修了できる割合は、数パーセントという割合になる。残りの9割弱の予備自補は、訓練を修了できずに脱落してしまうのだ。

なぜこんなに修了率が低いのか。それには、二つの理由がある。ひとつには、訓練に参加できないという問題である。一年に50日間、しかも一度の訓練につき5日単位の拘束というのは、民間で働いている人間には、なかなか難しい。

もう一つ、訓練が厳しすぎると感じて脱落していくのである。もちろん、「厳しい」というのは現職の自衛官、すなわち自衛官候補生や一般曹候補生、幹部候補生の教育訓練に比べれば、天と地とほどの差がある。現職の厳しい訓練に比べれば、予備自補の訓練は全然厳しくないのだが、それでも9割方の人間は、脱落していく。どれほど強い志を持っていても、自由のない、完全に外界と遮断された、規律のある集団生活に、精神的に耐えられない人間はかなり多い。

それが、予備自衛官補の教育訓練の修了率1割という数字になって現れるのである。

今回の地震によって、予備自衛官補を志願する人が増えることは、予備自衛官の制度の知名度の上昇という点においては、好ましいことであるが、単に試験の手間や訓練の脱落者を増やすだけになるのは、好ましくない。

このため、実際に私の予備自衛官補の教育訓練の体験から、そのような安易な志願を戒めるような本を出版したい。今回の地震をきっかけに、予備自衛官補への志願を煽るような無責任な宣伝は、今後かなり増えるであろうと思う。そのような宣言は、私がするまでもない。私がすべきことは、むしろ、頭を冷やすための宣伝である。「熱に浮かされて予備自補を志願するのはいいが、本当に予備自衛官補の教育訓練を修了できるのか」ということを警告するような本である。予備自補の試験や訓練の内容を、実体験から執筆すれば、安易な志願を思いとどまらせることができるかもしれない。

そもそも、自衛隊の本分は災害派遣ではない。日本の国土の防衛である。災害への対処は、消防や警察のほうが優れている。災害に置いて自衛隊の優れているところがあるとすれば、それは、自衛隊は完結した組織であるということだけだろう。つまり、自衛隊は炊事から道路の整備、橋を架けるなどといった基本的なことも行えるし、目的地に徒歩で到達するような訓練も行っている。もちろん、個々の技術、たとえば道路整備や橋の建築を考えれば、自衛隊は民間より劣っている。これは、自衛隊は長期にわたって実用的な道路や橋を作るのではなく、有事の際に一時的に建設するという、そもそも異なる目的を持っているので、当然である。そのため、自衛隊の災害派遣用の装備も、一人で担いで持ち運べることを基本としている。民間には、もっと優れた機材がある。ただし、一人で持ち運べるとは限らない。自衛隊は一人で持ち運べることを考えて、機材を導入しているのだ。

もちろん、そのような本を実際に出版するのは、色々と難しい。まず、出版社を探さなければならない。また、自衛隊とも連絡を取り、そのような本を出版していいのか、また仮に出版できるとしても、公開してはいけない情報が含まれていないかどうかという確認を行ってもらわなければならない。そのような作業は、まだ現実に災害が続行中である現段階ではできない。一段落してからでなければならない。

実現できるかどうかは分からないが、とにかく私ができることをしようと思う。

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