xkcdのWhat ifで、お茶をどのくらい激しくかき混ぜたら沸騰するのかということについて考察していた。
ぼんやりと熱い紅茶をかき混ぜながら、こう思った。「まてよ、俺は運動エネルギーをこのカップに与えているのではないか?」とね。お茶をかき混ぜると冷めやすくなるけど、もし、高速にかき混ぜたらどうだろうか。かき混ぜることによって、お湯を沸かすことができるだろうか。
Will Evans
ノー
基本的な考えとしては間違ってない。温度というのは単なる運動エネルギーだ。お茶をかき混ぜるということは、運動エネルギーを与えているということだ。そのエネルギーはどこかに行く。お茶がにわかに浮遊したり光を放ったりしない以上、そのエネルギーは熱に変わっているはずだ。
熱に気が付かない理由は、それほど多くの熱を与えていないからだ。水を熱するにはとても多くのエネルギーを必要とする。容量あたりで言えば、水は通常の物質の中では相当に多くの質量あたりの熱容量を持っている[1]
[1]: 水素とヘリウムは、より多くの質量あたりの熱容量を持っているが、これらは気体だ。通常の物質で水に勝るのは、跡はアンモニアぐらいしかない。これら3つの物質は、体積あたりで比較すれば、水に負ける。
水を室温から沸騰寸前まで二分で加熱したい場合、相当の力が必要になる。
\[1\text{ cup}\times\text{Water heat capacity}\times\tfrac{100^\circ\rm{C}-20^\circ\rm{C}}{2\text{ minutes}}=700\text{ watts}\]
注意:沸騰寸前の水を沸騰にまで持って行くには、沸騰寸前までにかかったエネルギーに加えて、さらに大量のエネルギーを必要とする。これはenthalpy of vaporizationと呼ばれている。
この数式によれば、二分でコップ1杯のお湯を得たければ、700ワットの力が必要になる。通常の電子レンジは、700から1100ワットぐらいで、お茶を淹れるぐらいにコップ1杯の水を熱するのに、二分ほどかかる。動くってのは素晴らしいことだ。[2]
[2]: もし動かないとしたら、「非効率」とか「熱源」とかに文句を言うべきだ。
700ワットを二分間というのは、とてつもなく大きなエネルギーだ。水がナイアガラの滝から落ちるとき、運動エネルギーを得て、落下地点で熱に変わる。しかし、相当な距離を落下しても、水は小数点以下の温度ぐらいしか上昇しない[3]。コップ1杯の水を沸騰させるには、大気圏外の高さから落下させなければならない。
[3]: \(\text{Height of Niagra Falls}\times\frac{\text{Acceleration of gravity}}{\text{Specific heat of water}}=0.12^\circ\text{C}\)
オチャアアアアアアァァァァァーーー!!!
かき混ぜることと電子レンジを比較すると?
工業ミキサーの技術レポート[4]によると、筆者の推定では、カップのお茶を激しくかき混ぜると、約百万分の一ワットの熱を与えることになる。これは無視できる範囲だ。[5]
[4]: Brawn Mixer, Inc., Principles of Fluid Mixing (2003)
[5]: お茶はこれよりはやく熱を失う。参照:Ben Harden, Tea temperature vs. Time graph
かき混ぜることによる物理的効果は、やや複雑だ[6]。ティーカップは、その上を対流する空気によって熱が奪われるため、上から冷めていく。かき混ぜるということは、新鮮な温かい水を底からもたらすので、冷却の過程に貢献するだろう。しかし、かき混ぜることによって、空気の流れが阻害され、コップを温めることもある。データ無しでは、なんとも言えない。
[6]: ある状況では、液体をかき混ぜると温度維持に貢献することになる。温かい水は上昇し、水の量が広く十分ならば(例えば海)、温かい層が水面に形成される。この温かい層は冷たい層よりも、ずっとはやく熱を放出する。かき混ぜることに寄って、この温かい層を崩すと、熱を失う速度が減少する。ハリケーンの移動が止まると、力を失うのは、このためである。ハリケーンの波が冷たい水をかき混ぜて、主要なエネルギー源である薄く温かい水の層から遠ざけるのだ。
幸い、我々にはインターネットがある。StackExchangeユーザー、drhodesが、かき混ぜるVSかき混ぜないVSスプーンを連続的に出し入れすることについて、ティーカップの冷却率を計測してくれたのだ。素晴らしいことに、drhodes君は高精度グラフもうpしてくれたし、さらになんと、生データまでうpってくれたのだ。どこぞの科学記事よりよほどデキる奴だ。
結論:かき混ぜるかどうか、スプーンを出し入れするかどうかでは、何も変わらない。お茶は同じ割合で冷却されていく(ただし、スプーンの出し入れはわずかに冷却速度が早かったが)
さて、もとの質問に戻ろう。十分に激しくかき混ぜたら、お茶を沸騰させることができるか?
ノー
まず問題なのだ力だ。700ワットとは、約1馬力にあたる。そこで、お茶を二分間で沸騰させたければ、少なくとも馬を一頭用意して、十分に激しくかき混ぜてもらわなければならない。
あの・・・君、もしよかったら、その・・・
スプーンをくわえて、かき混ぜてもらえるかな?お茶を長時間加熱することにより、必要な力を減少させることはできる。しかし、時間をかけ過ぎると、加熱より冷却速度が勝ってしまう。
仮にスプーンを十分に激しく--毎秒一万回--かき混ぜることができたとしても、液体力学が立ちはだかる。これほど高速になると、お茶にはキャビテーションが発生する。スプーンの軌跡に真空が発生し、かき混ぜ効率を下げてしまうのだ。
それに、お茶にキャビテーションが発生するほど十分に激しくかき混ぜた場合、水面部分は激しく上昇し、数秒で室温に冷却されてしまうだろう。
いくら激しくお茶をかき混ぜようとも、それ以上に温かくはならないのだ。
3 comments:
2馬力のミキサーを使えば湯気の立つお茶ができるはず
http://portal.nifty.com/kiji/120325154518_1.htm
ミキサーには蓋があるし、蓋がないと飛び散るのでは。
左手でカップに蓋をし人差し指と中指の間の付け根にスプーンを指して右手でかき混ぜるのはどうか。
というかスプーンはやめて手で蓋をしてただ激しく振ればいいような気がしてきた
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