2009-03-17

ニコデムス

なに、ナザレのイエス。ああ、そういや、そないなやつもおったな。昔の話やけどな。何でも自分のことを、油ぶっかけられた者、とか言うてはったわ。ほれ、あん時は世の中がいろいろ狂っとったやろ。そいでああいう手合も出てきたっちゅうわけや。よう分からんけどな。ほれ、よく言うやろ。水の上歩いたはったとか、病気治したはったとか、まあ、いわゆる奇跡っちゅうやつやな。そないな噂聞いたもんやから、ほな、一発、見たったろかあと。まあ、ワシそう思うたわけやな。そいでワシ、ある夜、行ってみたんや。なに、どこかて、イエスさんとこに決まっとるがな。

で、行ったらな。おでっさん、ぎょうさんおんねん。ワシてっきり、何や変な趣味でもあるんやないかと思たわ。いやどう考えたかて変やろ、あんなにぎょうさんおるんは。で、ワシうっかり聞いてしもたんや。なにかて、その趣味をや。そしたらやな、「おまへん、センセはそないな人とちゃいます」、言うて、えらいけんまくで怒りよるねん。しもたわあ、聞かなよかったわあ、思てな。はあ、えろうすんまへん言うて、ともかく会わしてもろうたわけやな。

で、イエスさんに会うたわけやけどな。いやあ、これがまた、えらいやさ男やねん。ワシあんだけいろいろ奇跡起こしてんねやから、そらもうどんだけすごい男や思うてたら、えらいやさ男やねん。やっぱりワシ、変な趣味あるんやないかと思たわ。今度は言わへんかったけどな。いや、さすがに言えへんで、本人の前ではな。そらセンセも気い悪うしよるがな。ワシ言えへんでそんなの。で、ワシその時思うたんやけどな。こないな男でも奇跡起こせるのにな、なんでワシ、なんも起こせへんねん思たんや。何でも聞くところによると、ただの水を酒に変えたそうやないか。ワシもそないな奇跡欲しいわあ、ホンマ。そないな奇跡あったら、一生、カネに困らへんやないけ。水なんてナンボでもあるし、それ酒に変えて売ればいいんやから。そやろ。そら欲しいわそないな奇跡。ナハハハ。なんでそないな奇跡起こせるのに、お布施集めてたんやろな。ワシ、アホやさかい分からへんわ。ナハハハハ。

で、ワシ言うたんや。「いやセンセ、神さんのこと教えてえな。なんせ神さんでもおらんかぎり、センセみたいな奇跡でけへんやないか」、言うたんや。そしたらやな、センセ、よっしゃよっしゃ言うて、こう言いよるねん。ん、いや、ホンマによっしゃよっしゃ言うねん。何なんやろな。よっしゃいう言葉、好きなんやろか。よう分からんけどな。ともかくな、こう言うねん。「よっしゃよっしゃ。言うとくけどな。も一度生まれへん限り、王の宮は見れへんねやで」、言うねん。ワシわけ分からんでな。いや、そりゃ分からへんやろ。何やねん、も一度生まれるて。王の宮っちゅうのは分かるんやけどな。きっとゼニがたくさんあるんやで。そらそうやろ。ゼニもなくて何が王の宮やねん。

で、ワシわけ分からへんかったから言うたんや。「センセ、も一度生まれるて何です。母ちゃんのお腹ん中戻るんか」、て。そしたらセンセ、「よっしゃよっしゃ。言うとくけどな。水とスピリットによって生まれへん限り、王の宮は見れへんねやで」、ところでスピリットって何やねん。スピリッツならワシも嫌いやないねんけどな。そいでやな、「肉から生まれたんは肉やで、霊から生まれたんは霊やで。そんなびっくりせんとき。も一度生まれへん限り、王の宮は見れへんねやで」。またや、おんなじ事の繰り返しやないか。ええ加減にせえよ、ええ加減に。で、こうも言うねん。「あんな、風が吹くやろ。風が吹いたんは聞こえるけど、どっから吹いて、どこへ行くかは、分からへんやろ。霊から生まれたんも同じやで」、言うねん。もうわけ分からへんわ。風吹くんのと、霊から生まれるのと、何の関係があんねん。それより桶屋の儲かる方がよっぽどマシやわ。なんせ儲かるんやからな。そらマシやわ。ついでに言うとな。風がどこから吹いてどこに行くかを調べんのは、簡単な話やで。人をやな、こう、ぽつんぽつんと、前後左右、等間隔に並べるんやな。恐ろしい広い範囲でやで。そしたら風がどこから吹いて、どこで消えたかぐらいわかるがな。人をそれだけぎょうさん使うのは、まあ、カネもかかるし難しい話なんやけどな、決して出来ん話やない。そやろ。で、仮にやな、風吹くんが分からへんから、霊から生まれるんも分からへんいうんならな。ほれ、もう風吹くんは分かったやないか。人並べればいいんやから。霊はどないやねん。なんで分からへんねん。おかしいやないけ。土台、間違うとるわ。

で、ワシ言うたったんや。「さっぱり分かりまへんわ」、て。そしたらセンセ、言いよるねん。「あんさんイスラエルのあるじちゃいますん。なんでこないなことも分からへんねや。よっしゃよっしゃ。言うとくけどな。ワシら分かりきったこと、見たこと言うてるんやで。何で信じへんねや」

あとはみんなお決まりのセリフやわ。ワシは神の子やで、ワシを信じたら救われるで、信じなかったら地獄行きやで、ちゅうようなことや。それをなんべんも言うんや。言い回しはちいとばかし違てるんやけどな。それ延々と聞いてたらやな、ワシもそのうち信じたくなってきたわ。危ないところやったな。そら神さんの子ならワシも信じたいけどな。そもそも、あのセンセが神の子っちゅう証拠は、ひとつも言わへんねん。あんたらも、あの手の話に騙されたらあかんでホンマ。まあでもな、面白いセンセやったから、何も殺すことはなかったと思うんやけどな。惜しいわあ、ホンマ。

ヨハンによる福音書、King James Version より、心の内に浮かびしままに書ける。ユダヤ人には関西弁がよく似合うと思うのは余ひとりのみであろうか。それにしても、これほど奇妙な書を、真面目に研究している奴らはいったい何なのだろう。

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