注意:これは私の記憶と主観だけで書いたものである。友人は、ギターに関しては相当の経験があり、ここには書いていない、私がよく覚えていないことも、たくさん語っていた。私はギターに関しては一切わからない。さらに曖昧な記憶をもって書いたものである。この文章をもって、友人のギターの腕前を評価すべきではない。
先日、旧知の友人宅を訪ねた。物が大量にあって狭い部屋に通されてまず目についたのが、真赤な黒いギターだ。友人がギターを弾くことは、昔から知っていた。
無言のまま、友人は得意げな顔をしてギターを引き始めた。しかし、不思議に音はほとんど鳴らない。耳をすませばかすかに鳴っているのが分かるだけだ。そこで気がついた。これはエレキギターなのだと。
弾き終わってから友人は言った。「たとえアンプに繋がなくてもわずかに音がなるのが、いいエレキギターなんだ」と。
エレキギターは、弦の振動を内部のコイルで増幅させて僅かな電気信号にし、さらに外部のアンプで増幅させることによって音を発する電子楽器である。
このエレキギターは安くないはずだ。友人はそういう男だ。自分のこだわるものに対しては金や手間を惜しまぬ人間だ。ましてや、これは楽器だ。エレキギターに関しては、相当に高いものがあるとも聞いている。
「50万だ」と、友人はこともなげに言った。50万。まあ、それぐらいはかけてもおかしくはあるまい。値段はいい。しかし、本当に値段分の価値があるのだろうか。
私「しかし、エレキギターは単に弦の振動をコイルで増幅させて、わずかな電気信号として出力するためだけのものだろう」
友「そうだ」
私「50万か」
友「そうだ」
一体、何がそこまで値段を上げるというのだろうか。
私「そもそも、エレキギターに、ギターとしての形状は必要なのか?」
友「それは重要だ」
私「関係無いだろう」
友「違うんだなぁ・・・」
友人は、何もわかっていないという眼差しで私を見た。そして、エレキギターでも木材との共振は重要であること。弦だけではいい音が出ないこと。アンプを通す前にもいい音がでることが重要であることなどを熱く語った。残念ながら、その解説の詳細を、私は覚えていない。
私「なぜ高いんだ」
友「まず木だ」
木。はて、本当に木は必要なのだろうか。ギターならば分かる。ギターはギター全体に共鳴させて音を鳴らすのだから当然だ。その形状は重要だろうし、木の質にこだわるのも、分からないでもない。しかし、エレキギターは、ほとんど弦の振動だけではないか。
「安物のエレキギターはな」と友人が言う。「二枚の板を貼りあわせて作るんだ。だが、これは一枚の板をくり抜いて作っている」
言われて、私はギターの側面を見た。たしかに、貼りあわせたあとはない。
私「まてよ、ということは、これはくり抜いたあとに手作業で中の配線をしているのか」
友「そうだ」
それは手間がかかる。本当に木が必要なのかどうかはともかく、人手がかかっているのであれば、高価格の少しぐらいは認めてもいい。
友「それから、インレイ、つまり貝もいい物を使っている」
見ると、ギターの弦の部分に、表面をよく研磨された貝が埋め込まれている。遠目に見たときは、シールか塗装かと思った。
私「貝? なぜそんなものを使うんだ?」
友「そこそこのギターなら、たいてい貝は使っているものだ」
私「しかし、いくらなんでも貝は音質に関係無いだろう?」
友「うん、関係ない」
「高いギターを買うというのは、確率の問題なんだ。ギターの木は天然物だから、当然良し悪しがあるし、見た目では分からない。安いギターでもいいギターである可能性はある。ただ、高いギターは、いい木を使って作られていて、いいギターになる可能性が高い。つまり、値段は確率の高さを買っているわけなんだ」
「もちろん、ギターを買うときは、値段ではなく、実際に弾いて確かめるさ。だが、このギターは、弾いてすぐに購入を決めた。これはいいギターだ」
私は怪訝そうにギターを眺めた。友人はさらに、塗装も高級で手間がかかっているなどと話し始めた。
「まあ、怪訝そうになるのも分かる」と友人は言った。「しかし、ちゃんと意味があることなんだ。たとえば、そのペグだがな。ペグというのは弦をとめておく、そこのでっぱっている金具だがな、それも一万ぐらいするんだ」
私はギターを見た。なるほど、無骨な金具がある。
「しかし、これは音質に関係無いだろう?」
「違うんだな。まあ、ペグは強く締めておくから、傷みやすいんだ。安物だとすぐ痛んでゆるくなる。高いペグにはそういう意味もあるんだ」
私は半ばあきれてきた。たしかに、ギターが高い理由で納得できるものもあるが、納得できないものもある。そもそも、一番音に影響するはずの、肝心のギターの弦はどうなるのだ。弦は高いのか。
私「この弦はどうなんだ。いくらするんだ」
友「弦はそんなに高くない。数百円ぐらいだ。ただ、俺が見たことのある弦で、一番高いのは、三千円ぐらいしていたな」
私「なんだ、弦はたいして高くないんだな。やれやれ」
友「ただ、弦ってのは結構頻繁に張り替えるんだ。それこそ、一回弾いたら張り替えるとまで言われている。まあ、さすがにそこまではいかないが、それでも月に一回は張り替えてるな」
友「つまり弦は消耗品だから、それで三千円ということは、結構高くつくんだ」
私はぼんやりとギターを眺めていた。みると、弦の間になにか小さなプラスチック片が挟まっている。これは、名前はわからないが、弦を弾くのに使うものだ。
私「まさか、これまで高いなんて言うなよ」
友「ああ、ピックは高くない。ひとつ100円ぐらいだ」
私「高いものはあるのか」
友「さあ、見たことないな」
これを考えると、我々プログラマーはよほどわかりやすい客観的評価の世界にいると言えよう。処理速度の速さは客観的に計測できる。コンパイラー、デバッガー、ライブラリなどのソフトウェアも、機能の大半は客観的に判断できる。キーボード、マウス、ディスプレイ、テキストエディターなどの、人間と直接対話するものは、好みの問題がある。
しかも、コンピューターのパーツひとつに何十万ということはない。何十万もするパーツはあるが、それだけの理由がある。たとえばエンタープライズ用途で購入後のサポートがすばらしくきめ細かいだとか、宇宙空間でも動作するよう熱や放射線耐性が高いだとか。一般人には必要のない付加価値だ。
3 comments:
エレキギターには明るくないですが
コイルが本体に付いてる以上
本体の振動はコイルが生じさせる電気信号に影響をあたえますよ。
実際にコイルが感知する振動は、
コイルの振動と弦の振動が合成されたものになるはずですから。
ついでに言えば、
アンプなしで音が出るエレキギターが、良い物であるというのは
電気的には間違ってないです
トランジスタの増幅特性は、リニアではありませんから、
弱い信号を無理に高い増幅率で増幅すると波形が歪みます。
複数のトランジスタで多段増幅すれば緩和できますが
それでも入力信号自体が、大きいに越したことはないので
ハードディスクとかファンとかの
機械的機構の物は
性能・騒音・衝撃耐性などなど結構当たり外れあるんじゃないでしょうか。
長い事使うものとか、失うと二度と戻らないものに
お金かけるっていう意味ではギターもコンピュータも変わらないのでは。
ギターは30万以上になってくると、品質どうこうよりも好みの問題って聞きますけど。
その友人がヤマハのRGX A2やPACIFICA(のエントリーモデル)をどう評価しているのか気になります。
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