2009-09-24

余とGペン

此頃、余は常に萬年筆を使つて字を書いてゐる。咲ふ可し、まづい字しか書けぬ余の、にはかに筆道楽に走るを。

さて、世間の嘲笑には耐ふべけれども、まづい字しか書けぬというは、余とてもゆるかせにできぬ。そこで最近は、独学で字の稽古を致しておる次第である。

時に初秋、暑さもやうやうやみ、読書芸術に身を打ち込み易いこの時節、余は金之助君の「余と萬年筆」を読むによつて、萬年筆以前のペンに対する興味が沸いた。そもそも、萬年筆とは、ペン軸の部分に、印気の容器を取り付けることによつて、可なり長い間、印気切れを気にかけることなく字を書ける、舶来のペンである。それ以前のペンはどうであつたかと云ふと、ペン先の中央には、印気をとどめておくための切欠きがあり、ペンの中央からペンポイントに向けて、切欠きから印気を誘導するための、極めて細い切れ目がある。ペン先は非常に薄く、また切欠きや切れ目も非常に狭いため、僅かな印気を留めておくことができるのだ。勿論、この構造では、印気を大量に留めて置くことは出來ない。それ故、頻繁に印気壺の中に、ペン先を浸す必要があつた。

ペン先の素材も、金属、骨、鳥の羽等の、様々のものがあつた。我が朝では、古来より筆なるものがある。西洋人は、ブラシと呼んでいる。

さて、話を現代に戻そう。現代では、いちいちペン先を印気に浸す必要のあるペンを、総じて、「つけペン」と呼んでいる。ペン先は一般的に、金属で作られている。余はこのつけペンを詳しく調べようとしたのだが、如何せんインターネツト上には、大して役に立つ情報がないのである。余は人に講釋を垂れるほどの知識もないのだが、この情報不足の自体を憂慮して、蛮勇を振るつて、ここに講釋まがいのものを書いておく次第である。

現代のつけペンは、ペン先とペン軸に別れている。ペン先、すなわちニブの部分であるが、これは消耗品である。日本で最も有名なつけペンは、Gペンと呼ばれるものだが、聞説、漫画家諸氏はこのGペンを、原稿数枚でつぶしてしまうという。思うに、これは太い線を描くために、強い筆圧をかけねばならぬという、漫画の特性上のことであろう。字を書くだけなら、も少し長く持つ。

そもそも何故、Gペンと呼ぶのか。これには諸説有る。ニブの側面の切り込みが、Gの形をしているからであるとか、昔者はAペンからZペンまであり、最も使いやすかつたGペンのみが残つたなど。余はいずれの説をも是としがたい。側面の切り込みは、特にGとは思はれない。AペンからZペンまであつたのであれば、当時の広告やペンが残つているはずである。

ペン先はGペンの他にもたくさんあるが、それはまた、後の機会に解説する。

さて、Gペンを使うには、まずGペンを手に入れる必要がある。どこに売つているかというと、文房具屋、画材屋、デパートの文房具売り場、また、聞説、アニメイトでも売つているという。ニブの値段は、ひとつがせいぜい百円ぐらい。グロス単位で買えば、ひとつ数十円程度と、だいぶ安くなる。グロス、すなわち百四十四という単位が使われている所からみても、いかにも西洋人の手によるペンという氣がする。ペン軸は、一本数百円から売つている。

さて、ペンの他にも、印気が必要である。これは、特に何でも良い。というのも、つけペンは非常に単純な構造をしており、またペン先は消耗品で安価であることより、特別な印気を使ふ必要はないのである。水性染料印気、水性顔料印気、油性印気、はては墨まで、何でも使える。ただし、パイロツトの製図用印気が、よく用ひられているらしい。余もそれを購入した。これは水性顔料印気である。萬年筆に使うことは出來ない。参つたことに、萬年筆用の印気壺と、この製図用印気壺は、まったく同じ形である。ラベルに、実に分かりにくい薄い字で、製図用と書いてあるだけの違いである。パイロツトの印気を使う人は、気をつけてもらいたい。萬年筆用の顔料印気は、セーラーやプラチナから、特別なものがでているので、それを使うべきである。それでもなお、事故が多いと聞く。

さて、実際に書ひてみる。まず、ニブをペン軸に差し込み、印気壺の中に浸す。余の驚いたことは、印気は意外と長く持つということである。少なくとも、数センテンスぐらいでは、印気が切れることはない。あんがい、つけペンも使いやすいものである。ただし、忘れた頃にインクがなくなるので、気をつけないと、文章の途中でインクをつけねばならず、思考の中断される恐れがある。勧進の書き味だが、だいぶカリカリとした印象を受ける。薄い金属のペン先で、その特性上、インクもそれほど大量に流れないので、仕方がないと言えば仕方がないのだが。Gペンを使つた後に、試みに万年筆で書いてみると、そのヌラヌラとしたすばらしい書き味に驚いた。やはり、所詮はつけペンか。

先にも述べた如く、ペン先には、Gペンの他に、色々な種類が存在する。それらについては、またの機会に感想を書くことにする。

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