中世ヨーロッパの暗黒時代と異なり、日本には、恐ろしく多くの文章が残っている。それ自体は良いことなのだが、問題がある。誰もまともに研究していないと言うことだ。網野善彦が指摘したように、有名な文章に書かれている歴史と、実際の歴史は異なる。だから、日本の歴史家は、もっと反故を読むべきだろう。
インターネットにより、我々は大量の情報を、瞬時に検索できるようになった。しかし、それは、情報がインターネット上にあればの話だ。インターネット上にない情報、すなわち、テキスト化されていない情報は、探すに由なし。何ぞ我が手を動かしてテキスト化せざる乎。
頭山満翁が、かつて人に語つたといふ話――
『福岡の醫者で、よほど豪い男があつた。名は忘れたが、その男が常に人にいふには、おれはどうしても高杉晋作にはかなはぬ。それも、どこがどうといふわけでもないが、いつもヤツには抑へつけられるような氣がして、自然負けるやうになる。これは不思議でならぬ。どう考へてみても、その意味が分からぬなどゝ、よく話してゐたものだが、その醫者が病氣にかゝつて、いよ〳〵助からぬといふ間際に、自身もすでに觀念した。そしてその時、あゝ、今の気分なら高杉には負けなかつたのだ。残念なことをした。高杉は常に死といふあきらめが、チャンとついてゐたものと見える、と、しきりに感嘆したさうだ』清泉芳厳著、禅問答
この文章、そしてこの頭山満の談話は、ネツト上にひとつしか発見できなかった。面白い話なので、ここに引用しておく次第。
追記:上記の文章は、くの字点を使っているので、横書きではまともに表示されない。Unicode上では、くの字点には四種類あり、そのコードポイントは、五種類ある。これはどういうことか、まず、〱(U+3031)と、〲(U+3032)、がある。これは、一文字でくの字点を表現する文字である。それから、〳〵(U+3033, U+3035)と、〴〵(U+3034, U+3035)、がある。これは、二文字で組み合わせて、くの字点を表現するものだ。一文字の方を使おうかと迷ったが、そもそも、くの字点は二文字分のスペースを取るのが慣習になっているし、原文でも、当然そうであるので、二文字で表現する方を使うことにした。
追記2:なお、上記の追記は、くの字点を分かりやすく表示するために、<span style="font-family : '@メイリオ' ;" >を使っている。引用文にもこの修飾を使おうかと迷ったが、原文に忠実であることを考えて、使用は控えた(引用文をコピペして使用する際に、縦書きで表示すれば、意図通りに見えるわけなのだし)
問題は、この手元にある本も、おそらくこの文章については、どこからか引用しているはずなのだ。いったい元々の文章は、どの本なのだろう。頭山満の語録にあたれば見つかるだろうか。
No comments:
Post a Comment